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木内登英の経済の潮流――日米貿易摩擦再燃の可能性

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2018/04/19

今後米国政府は、日本に対して2国間のFTA(自由貿易協定)の締結に向けた交渉を求めてくると見られます。将来、日米FTAが結ばれることになると、日本の産業、経済にどのような影響が及ぶのか、検討してみたいと思います。

米国は日本に貿易不均衡是正を求める

米トランプ政権は2018年3月23日に、鉄鋼とアルミに追加関税を課す、輸入制限措置を発動しました。日本政府は、日本を輸入制限の対象から除外するよう求めていましたが、認められませんでした。一方で米国政府は、日本に対して2国間のFTAの締結に向けた協議を始めたい、との意向を伝えています。
米国政府は、米国が大きな貿易赤字を抱える国を中心に、2国間交渉を通じて貿易不均衡の是正を求めてくる傾向があります。2017年に米国の財貿易赤字が突出して大きかったのが中国で、全体の47%を占めました。2位がメキシコ、そして3位が日本です(図表)。1位の中国については既に、米国との間で貿易政策を巡って激しい対立が繰り広げられています。2位のメキシコについては、現在、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉が進行しています。中国との交渉が一巡してくれば、米国政府は日本を次のターゲットに据えて、対米貿易不均衡の是正を強く求めてくるでしょう。

(図表)米国の財貿易収支赤字国上位10ヵ国

米韓FTA再交渉が参考に

将来の日米FTA交渉が始まる場合に、米国が日本に対してどのような要求をするのか、最終的な協定内容はどのようなものになるか、を考える上で大いに参考になるのが、米韓FTA再交渉です。
米国政府は3月27日に、米韓FTA再交渉が妥結したと発表しました。その中で、2021年までに撤廃するはずだった韓国製ピックアップトラックへの関税を維持し、撤廃時期を2041年にまで延長しました。さらに、韓国内で米国車の販売が伸びていないことに不満な米政府の意向を受けて、米国側の安全基準を満たせば、韓国に輸出できる米国製自動車の台数を引き上げ、メーカー当たり5万台へと倍増させることになりました。一方で韓国政府は、農産物への追加の市場開放を回避できたと、その交渉の成果をアピールしています。米韓FTAの再交渉は、全体としては米国側に優位な形で合意されましたが、それについて米国政府は、鉄鋼・アルミ輸入制限措置を梃子に韓国側の譲歩を引き出すという戦略が成功した、とあからさまにアピールしているといいます。

米韓FTA再交渉最大の焦点は自動車分野

米韓FTA再交渉で最大の争点となったのは、自動車分野でした。米韓FTAは2012年に発効しましたが、米国の韓国からの自動車関連輸入(部品などを含む)は2011年の86億ドルから2017年に161億ドルにまで倍増した一方で、米国から韓国への輸出は4億ドルから16億ドルへの増加にとどまっています。米国政府はこの点に、大きな不満を招いたのです。
2017年の韓国の対米貿易黒字額の規模は、国別には10位でしたが、このうち自動車関連の対米貿易黒字額は、実に全体の93%を占めています。米国の貿易赤字削減を目指す米国政府にとって、米韓FTA再交渉で最大の焦点が自動車分野となったのは、当然の流れでした。

米国は日本の自動車輸入の非関税障壁に注目か

ところで、日本の自動車関連の対米貿易黒字額も、2017年に全体の78%と高い比率を占めています。この点を踏まえると、将来、日米FTA交渉が開始される場合には、米政府は米韓FTA再交渉と同様に、自動車分野を最も重要な協議対象とする可能性は高いと思われます。
日本の対米自動車輸出については、さらなる現地生産化を進めることで、輸出削減を求めてくるのではないでしょうか。他方で、米国車の輸入拡大も求めてくると考えられます。米国からの輸送機械・部品に適用される日本の関税率は、既に0%です。この点から、米政府は自動車分野での日本の非関税障壁を攻撃対象としてくる可能性が高いのではないかと思われます。韓国に対しては、自動車輸入に関する韓国側の厳しい安全基準が米国車の輸出を妨げているとして、米国側の安全基準を適用するよう、その基準の緩和を求めました。日本に対しても、輸入米国車に対して安全基準、環境基準の緩和、国内自動車税制の適用条件見直しなどを要求してくるのではないでしょうか。

牛肉、農産物輸入の拡大も焦点に

他方で米政府は、以前から日本が米国産牛肉の輸入を拡大するように求めています。またTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の際には、日本にコメの輸入枠拡大を強く要求してきました。日本政府は、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物を重要5分野とし、いわば聖域と位置付けていますが、日米FTA交渉となれば、米国政府はこの重要5分野での一段の市場開放、輸入拡大を再び強く求めてくる可能性があります。

日本は自動車分野で米国に譲歩か

このように、将来開始される可能性がある日米FTA交渉では、米国は対日赤字が際立つ自動車分野で対米輸出の抑制と日本向け米国製自動車輸出の増加を強く求めてくることが予想されます。一方、牛肉や農産物については、さらなる関税率引き下げを日本側に要求してくる可能性があるでしょう。
その結果、政治的にも非常にセンシティブな農業分野を守るために、日本政府は自動車分野で米国側に相当譲歩する可能性も考えられます。日米貿易摩擦の再燃を恐れる日本政府が選択するシナリオとしては、最も起こりうる確率の高いものといえるでしょう。

木内登英の近著

異次元緩和の真実

異次元緩和の真実

前日銀審議委員が考えに考え抜いた日本改革論

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