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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 中国の新型コロナ対応で生まれた従業員シェアリングの試み

中国の新型コロナ対応で生まれた従業員シェアリングの試み

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2020/04/16

  • 中国では新型コロナウイルスによる影響で、多くの飲食店が営業休止に追い込まれる一方、急増する生鮮食品への注文により、スーパーの配達員が人手不足に陥っている。
  • 生鮮食品EC事業者の盒馬鮮生は、2月初旬に外食チェーンの雲海肴から、休業中の従業員を一時的に受け入れたことがネット上で話題となった。従業員を送り出す側の企業の賃金給付の圧力が軽減できると同時に、受け入れ側もピークを過ぎた後の継続雇用をしなくて良い。このような相互にメリットのある雇用方式は、新型コロナウイルスによる企業へのダメージを少しでも減少できると見た中国政府も後押しをし、3月23日時点で約400万人以上の外食産業の従業員の待機問題を解決した。
  • イノベーション最前線の深セン市は、従業員シェアリングに関するマッチングプラットフォームをいち早くリリースし、デジタルな仕組みが雇用の安定化に繋がる好事例となった。

従業員を待機させている外食産業の悲鳴

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、中国が取った厳しい外出自粛政策により、飲食店、映画館などのサービス業は、基本的に営業を休止することとなった。人々は、外出を控え、ネット通販を通じ、生鮮食品等の生活必需品を購入している。これにより、外食産業が仕事のない従業員を大量に抱え悲鳴を上げる一方、流通事業者は、オンラインでの注文殺到で配達員の不足に頭を抱えた。しかも、中国の旧正月休みで多くの従業員が帰省され、地域間の移動制限もあり、容易に拡充できない状況だった。
外食チェーンの大手の西貝の社長は、その苦境を自らソーシャルメディアで公表し、社会に大きな衝撃を与えた。その発表によると、グループにある約400店舗のうち、出前業務を保留する100店舗を除き、ほぼ営業を中止し、2万人以上の従業員が自宅待機となった。従業員の給料を負担し続ける必要があるため、1ヵ月で給料の総額は1.5億元(約24億円)に達した。もし、感染症を早く終息できない場合、キャッシュフローは、後3ヵ月で底をつく。

生鮮スーパーが推進した異業種間の従業員シェアリング

この状況の中、アリババグループ傘下の生鮮スーパー盒馬鮮生は、外食産業の従業員を一時的に受け入れ、自社の配達員の不足を補う、いわゆる「従業員シェアリング」の取り組みに踏み切った。2月2日に、盒馬鮮生は雲南料理の雲海肴の北京、上海、昆明などのチェーン店の従業員約500人を受け入れたことを皮切りに、外食大手、カラオケ店、タクシー会社など40数社から5,000名以上の従業員を受け入れた。休業中の企業にとって、社員の収入が維持され、流出防止につながる。盒馬鮮生にとって、急増する注文への対応ができ、まさにWin-Winの関係を実現できた。
この仕組みがメディアによって報道されると、他の小売事業者、EC事業者、メーカーも同じような動きが広がった。2月3日から3月2日の約1か月間、ウォルマート全国の約400の店舗では3,000人以上の「シェア従業員」を受け入れた。レノボの安徽省の生産拠点では、2月下旬から700名以上の外食産業の社員を順次受け入れた。簡単な生産ラインの仕事を担ってもらうことで、納期が迫った約80万台のパソコンの納品を無事に終えられた。中国市場監督管理総局の3月23日の発表によると、この従業員シェアリングの動きにより、約400万人もの外食産業の従業員の待機問題を解決できた。

柔軟な雇用形態の導入に国が後押し

このような柔軟な雇用形態の導入の背景には、政府の後押しが大きな役割を果たした。武漢封鎖の約一週間後の1月29日に、中国市場監督管理総局は「三保」活動(価格保障、品質保障、供給保障)を開始し、市民の生活への影響を最小限に抑えるように、企業に協力を呼び掛けた。その供給保障の一環として、企業間のリソースシェア(従業員、生産設備や材料等)を推奨した。
盒馬鮮生等の民間企業の動きを受け、李克強総理は、3月17日の国務院常務会議で「従業員シェアプラットフォームの発展を支援する」と指示した。そのわずか3日後の3月20日に、国務院弁公庁は「新型肺炎に対応するための就職強化措置の実施意見」を発表した。さらにその3日後の3月23日、中国の人力資源と社会保障部(元中華人民共和国労働部、日本の厚生労働省に相当する)は、自身のWeChat公式アカウントで、この新しい雇用形態に関する法規制面の見解を示した(図)。

 http://www.sxjjls.com/news/20200323222603.html等公開情報によりNRI整理

デジタル技術によるマッチング支援

国の後押しを受け、早速動き出したのは、イノベーションの中心地の深センだった。深セン市福田区が打ち出した従業員シェアリングへの補助金を支給する政策では、10人以上、かつ1ヵ月以上の従業員シェアリングを合意した企業に対し、従業員一人当たり400元の一次金を支給する(7月31日までの期間中、10万元を上限とする)こととなっている。
経済面に留まらず、3月30日に、深セン市は中国初の従業員シェアリングを支援するプラットフォームをリリースした。「員工通」という従業員シェアプラットフォームは、企業や個人に無償で開放され、需要側と供給側のマッチングだけではなく、プッシュ通知機能を備え、就職までのプロセスも管理する。さらに、AIによるチャットボット機能も標準装備し、政策や関連制度などの問い合わせに対して24時間対応を行う。プラットフォームを発表した時点で、既に800社以上の企業によって、2万6000個の求人が登録されている。3月30日時点で約3万2,000人の求職者にサービスを提供している。

従業員シェアリングの留意点

従業員シェアリングの導入が広まる中、中国の法律専門家は、契約の際の留意点を以下に指摘した。

  1. シェアリングに関する契約が有効となる条件、終了条件および有効期間を明確にすべき
  2. 雇用関係の帰属及び責任の所在の明確化
  3. 雇用期間の給与水準、社会保険、福利厚生に関する条件および費用負担の明確化
  4. 雇用期間中の労働者の権利と義務の明確化
  5. 送り出す側企業の人材流失を防ぐ条項の取り入れ
  6. 契約条件について労働者の同意を得たことの明文化
  7. 新型コロナウイルスが収束した後の契約解除に関する事項

新型コロナウイルスとの戦いが長期化を呈するなか、中国の「従業員シェアリング」といった取り組みは、繁閑に合わせた労働力の再配分、そして、企業と個人、双方にもっと有利な働き方として、今後も継続して活用されるだろう。

執筆者

李 智慧

金融ITコンサルティング部 兼 グローバル産業・経営研究室
上級コンサルタント

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