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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 影響長期化を見据えて雇用維持と共に企業存続の対応も必要に ~新型コロナウイルスが日本経済と雇用に及ぼす影響(2)~

影響長期化を見据えて雇用維持と共に企業存続の対応も必要に
~新型コロナウイルスが日本経済と雇用に及ぼす影響(2)~

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2020/04/24

  • 新型コロナウイルス感染拡大の長期化は、経済的なコストの増加(経済規模の縮小、雇用、企業の存続コスト)と社会変化の不可逆性をもたらす可能性が高い。
  • 国際通貨基金(IMF)の最新の世界経済見通しをもとに、NRIが3つのケースに分けて今年の日本の経済成長率と年平均の完全失業率を簡易的に試算してみると、それぞれ-7.8%~-3.9%、3.0%~5.6%となる。新型コロナウイルス感染拡大の長期化に伴う雇用への影響は大きく、この影響を最小限で食い止めるためには、前回の提言で述べた取り組みの強化と共に、社会維持のための企業維持自体のための対策も必要になる。
  • 新型コロナウイルス感染拡大で行動制限が1年程度まで長期化した場合には、企業は自助努力だけでは主要コストを賄いきれない可能性が高くなり、社会全体でこのコスト分約25兆円をいかにしてカバーすべきかを検討する必要が生じる。
  • 今後も新型コロナウイルス感染症の再流行や自然災害のような緊急事態の発生が度々予想される中、緊急時でも一定の社会生活を継続していくためには、より多くの経済社会活動のIT化・デジタル化が重要である。従来のような労働力不足を背景とした省力化という観点に止まらず、各分野におけるIT投資を推進していく必要があると考える。

新型コロナウイルス感染拡大の長期化がもたらす大きな変化

3月24日に発表した提言「政府は速やかに「雇用維持宣言」を~新型コロナウイルスが日本経済と雇用に及ぼす影響~(https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200324)」では、2020年3月時点の情報に基づき、新型コロナウイルスが日本経済及び雇用に及ぼす影響を分析し、雇用対策及び売上が絶たれた経済主体への緊急的な所得・売上補填等のセーフティーネットの構築を提言した。提言発表時点では感染拡大が収束に向かうかと思われたが、その後全国に緊急事態宣言が適用される事態となっており、本提言執筆時点(4月下旬)においても依然予断を許さない状況が継続している。いずれにしても、前回の提言時点での想定以上に新型コロナウイルス感染拡大の長期化が懸念される。
そこで、本提言では、新型コロナウイルス感染拡大の長期化が日本経済・社会にどのような変化をもたらすかを以下の2つの観点から論じることとする。

  1. 経済的なコストの増加(経済規模の縮小、雇用、企業の存続コスト)
  2. 社会変化の不可逆性

前回の提言でも強調したように、我々がすべきことは、想定される変化をあらかじめ理解したうえで、恐れず事前に適切な対策を打つことである。

日本の経済・経済環境はどこまで悪化するのか

本提言チームでは、感染拡大が収束するまでの期間に分けて、以下の3つのパターン(ケース1、2、3)を想定した。

  • ケース1:

    行動制限期間が比較的短期間(1、2ヵ月で収束)

  • ケース2:

    行動制限期間が半年程度(2020年秋から経済活動が本格的に再開)

  • ケース3:

    行動制限期間が1年程度(2021年春から経済活動が本格的に再開)

国際通貨基金(IMF)では、毎年4月と10月に世界経済の見通しに関するレポートを発行しており、その最新版の4月発行分では、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を踏まえた成長率の見通しを公表している。本提言では、IMFがベースシナリオとして公表した成長率予測を上記のケース2として当てはめ、早期に感染拡大が収束した場合のケース1とより長期化した場合のケース3の成長率を簡単に試算してみた。また、その試算に基づいて、今後、日本の雇用への影響がどの程度になるかを概観した。なお、IMFのベースシナリオでは2020年の世界全体の経済成長率は-3.0%、日本は-5.2%となっている。

1)ケース1 行動制限期間が比較的短期間

ケース1では、緊急事態宣言などが功を奏して早期に行動制限が緩和されるため、日本経済の落ち込み幅もケース2に比べて4分の3にとどまると仮定した。その一方で、 翌2021年の成長率は、今年の経済の落ち込み幅が小さくなる分だけ、反動増も同程度小さくなると想定している。以上のことから日本の経済成長率は、2020年は-3.9%、2021年が+2.3%と推計される。
雇用への影響に関しては、比較的短期間での収束であることから雇用調整助成金などの各種セーフティーネットが有効に効果を発揮することが期待される。その場合、正規、非正規雇用を問わず、前回2008年の金融危機時と同程度の景気に対する雇用感応度(雇用弾性値0.17)を示すと想定できることから、2019年平均の完全失業率2.4%に対して、2020年平均の完全失業率は3.0%程度まで拡大する可能性がある。

2)ケース2 行動制限期間が半年程度

ケース2では、IMFの最新の見通しにおけるベースシナリオとほぼ同様に行動制限期間を3-6月と想定する。IMFによると、この場合の日本の経済成長率は、2020年は-5.2%、2021年は+3.0%となっている。
雇用への影響に関しては、ケース1に比べて収束期間が長くなることから、特に非正規雇用への影響が大きいと考えられる。そこで、正規雇用における雇用感応度はケース1と同程度(雇用弾性値0.17)であるが非正規雇用に関してはより厳しい条件(雇用弾性値0.34)と想定すると、2019年平均の完全失業率2.4%に対して、2020年平均の完全失業率は3.6%程度まで拡大する可能性がある。

3)ケース3 行動制限期間が1年程度

ケース3は封鎖がおそらく断続的に2021年半ばまで継続するケースである。IMFの最新の経済見通しでは、上記のベースシナリオに加えて、感染拡大がより長く続いてしまった場合などのリスクシナリオを3つ提示しており、ケース3はそのうちの3つ目のリスクシナリオ(感染拡大の長期化+第2波襲来)に近い。ただし、今回NRIが検討しているケース3では、IMFのこのリスクシナリオよりも収束までの期間が短くなる(2021年全体→2021年半ばまで)と想定している。この場合、日本の経済成長率は、2020年が-7.8%、2021年は+1.9%と推計される。
雇用への影響に関しては、収束期間の長期化に伴い、企業が正規雇用の解雇にも着手する可能性が高いと想定する。そこで、景気に対する雇用感応度が1997年春から1999年初めまでの景気後退期並みにまで高まり、正規雇用では雇用弾性値が0.30、非正規雇用では雇用弾性値が0.60にまで上昇したと仮定すると、2019年平均の完全失業率が2.4%だったのに対して、今年の完全失業率は5.6%程度にまで悪化する可能性がある。

以上の3つのケースの想定から2020年の日本の経済成長率は-7.8%~-3.9%、2020年平均の日本の完全失業率は3.0%~5.6%になると推計される。
なお、上記の完全失業率は2020年の平均値であり、雇用環境が急速に悪化するとみられる年半ば以降では試算値より悪い水準を記録する危険性がある点に注意が必要である。
以上で推計したように、新型コロナウイルス感染拡大の長期化に伴う雇用への影響は大きい。この影響を最小限で食い止めるためには、前回の提言でも述べたように、雇用調整助成金の全面活用や政府による「雇用維持宣言」などの取り組みによって、雇用の弾性値をさらに下げ、新規失業者数をもっと小さくすることが必要である。政府は今回の感染症の広がりを受けて、雇用調整助成金の受給要件を既に緩和してきているが、それでも手続きの複雑さなどから利用や申請がなかなか進んでいないとの指摘は依然として多く、雇用維持という観点からも、急を要する企業側の目線により一段と寄り添った制度運営が求められる。
また、長期化に伴い企業の存続自体が困難となれば事業者としても雇用の維持が難しくなる。次節で述べるように社会維持のための企業維持自体のための対策も必要になると思われる。

社会維持コストとしての企業存続維持への手当ての必要性

前節で述べたように、新型コロナウイルス感染拡大の長期化に伴う経済の影響は大きい。特に、外出自粛に伴う休業のように企業の行動そのものが制約ないしは停止する場合、企業として収入を得る道を断たれながら人件費などのコスト流出は止まらないことから、企業存続維持そのものが困難となる可能性がある。既に、宿泊業や飲食業などでは経営破綻の事例が起こり始めている。自粛期間の間に企業が立ち行かなくなれば、感染拡大終息後の経済再建にも大きな支障を来す。自粛期間の間、企業存続を維持することは社会維持そのものにもつながるのである。
そこで、仮に自粛期間が長期化した場合に、企業を存続させ続けるためには社会全体としてどの程度のコストが必要となるか、つまり社会全体として何らかの形で補填すべきコストを試算する。
企業存続維持のための方法として一番わかりやすいものは「売上の補填」(今回使用した2018年法人企業統計では総額1,535兆円)であるが、実際には商品の仕入れ分や利益なども含まれる。また、産業によっては情報通信などのように行動制限による売上への影響が少ない産業もある。
そこで、企業存続の最低限コストとして、今回は粗利(=売上-売上原価)または主要コスト(=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料。粗利から租税公課+営業純益を控除したもの)を想定し、これらのコストをどの程度補填すべきかを考察する。また、行動制限による影響が大きいと思われる建設業・製造業・運輸業・卸売小売業・宿泊飲食・生活関連サービスのみを対象とする。なお、これらの産業合計で粗利268兆円、主要コスト156兆円である。また、現預金を合計149兆円保有している。
その上で、上述のケース2とケース3に関して考察する。(ケース1は企業そのものへの影響は軽微と想定)。
なお、試算はあくまで社会全体でのコストであり、そのコスト負担をどのように行うかは別途議論が必要である。例えば、政府による信用保証などを活用して長期低負担の借入金で賄うことや企業維持コストそのものを政府が補填するなどが考えられるが、本提言ではその具体策までは検討しないものとする。また、行動制約解除後も一定期間経済活動の低迷が想定されるが、需要喚起などの対策も本提言の対象外とする。

1)ケース2 行動制限期間が半年程度

影響が大きいと想定される各産業への影響度(補填が必要な粗利・主要コストの比率)を想定される需要の落ち込みを考慮し以下のように想定する。
建設業・製造業・運輸業 20% 卸売小売業 10% 宿泊飲食・生活関連サービス 70%
上記各産業合計で、粗利 30兆円 主要コスト 18兆円の影響が想定される。ここで、企業の自助努力として現預金の一部(流動性確保分として売上1ヵ月分控除)を活用したとしても、それぞれ11兆円及び4兆円分を何らかの形で補填することが必要となる。
産業別でみると、飲食業では現預金(2.7兆円)の一部を活用しても主要コストで1.4兆円分を何らかの形で補填することが必要となるが、製造業や生活関連サービスなどの産業では主要コスト分を現預金(製造業 59兆円 生活関連サービス3.5兆円)の一部でカバーすることが可能である。
勿論、この試算はあくまでも産業全体での試算であり、個々の企業の財務状況により影響は異なるが、行動制限が半年程度であれば、飲食業などの一部特定産業のみの対策に注力すれば、企業の保有する現預金の活用などの自助努力で対応することはある程度可能であり、あとは資金繰り支援などの間接的な支援の強化を行うべきと思われる。

2)ケース3 行動制限期間が1年程度

影響が大きいと想定される各産業への影響度(補填が必要な粗利・主要コストの比率)を想定される需要の落ち込みを考慮し以下のように想定する。なお、ケース2に比べてより需要の落ち込みが大きく影響度も大きいと想定している。
建設業・製造業・運輸業 40% 卸売小売業 20% 宿泊飲食・生活関連サービス 100%
上記各産業合計で、粗利 107兆円 主要コスト 65兆円の影響が想定される。ケース2と同様に、企業の自助努力として現預金の一部を活用した場合でも、それぞれ61兆円及び25兆円分を何らかの形で補填することが必要となる。
産業別でみると、小売業及び飲食業の主要コストは現預金(小売業 16兆円 飲食業2.7兆円)の一部を活用してもカバーしきれず、それぞれ24.8兆円 2.2兆円のコスト分を何らかの形で補填することが必要となる。また製造業でも主要コスト分のカバーに現預金59兆円のうち流動性確保分以外の殆どを活用しなければならない。
この様に行動制限が1年程度まで長期化した場合には、自助努力だけでは主要コストを賄いきれない可能性が高くなり、社会全体でこのコスト分をいかにしてカバーすべきかを検討する必要が生じる。
資金繰り支援などの間接的な支援だけではなく、より長期間・低コストでの資金援助を行うことが必要である。そのためには、政府出資などを核にした数十兆円程度の基金創設などの対策が必要になると思われる。

以上のように、長期化した場合には、社会維持コストとしての観点から、企業存続維持そのものへの最大で数十兆円の資金投入が必要となりうる。ここでの前提として、行動制限期間は融資の元金返済猶予を想定しており、行動制限解除後は企業存続維持コスト分と合わせての返済が必要となることから、返済条件の変更や猶予なども併せて行うべきであり、そのための政府としての支援も必要になると考えられる。

「すべての国民の安全」と「社会機能の維持」の両立を可能にする社会資本へのデジタル投資

新型コロナ感染症まん延以降、在宅勤務、オンライン診療、オンライン授業など、経済社会活動のデジタル化に関する議論が活発化している。
今後も新型コロナウイルス感染症の再流行や自然災害のような緊急事態の発生が度々予想される中、緊急時でも一定の社会生活を継続していくためには、より多くの経済社会活動のIT化・デジタル化が重要であることを認識した人は多いはずである。中でも注目すべきは、社会機能維持に直結する社会資本へのIT・デジタル投資である。
緊急事態宣言発令以降も、食料や医薬品の販売、銀行営業など社会生活に必要なサービスの継続が要請されたことを受け、社会機能関連産業で働く人々は高リスク状態で我が国の社会機能維持を支えるという構図が明らかになった。
従来のような労働力不足を背景とした省力化という観点に止まらず、今回のような緊急事態における社会機能維持と社会機能の維持にかかわる従業者の安全確保の両立という観点から、各分野におけるIT投資を推進していく必要があると考える。例えば、店舗へのセルフレジや清掃ロボットの導入、無人店舗・オンライン営業、介護・保育施設における見守り・健康管理へのIT活用、行政手続きのオンライン化などは、従業者と利用者双方のリスク低減につながる。
国は、社会機能維持に直結する社会資本へのIT投資支援を強化し、緊急時でもすべての国民の安全とできる限りの社会機能維持の両立を可能にする国づくりを早急に進めるべきだ。

最後に ~不可逆な変化の中を見据えながら社会維持のための最善の努力を~

新型コロナウイルス感染拡大の長期化は現在・将来の両面で不可逆な変化をもたらした。世界はもはや以前の姿に戻ることはない。繰り返しになるが、我々がすべきことは、想定される変化をあらかじめ理解したうえで、恐れず事前に適切な対策を打つことである。「アフターコロナ」により良い社会を構築するためにも、社会維持のための最大限の努力を行う必要がある。

執筆者

梅屋 真一郎

未来創発センター 制度戦略研究室

佐々木 雅也

未来創発センター 戦略企画室

武田 佳奈

未来創発センター 未来価値研究室

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
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