2020/06/17
要旨
- 新型コロナウイルスの感染拡大は、男性を例外とせず、我が国の多くの人の働き方を急変させた。
- なかでも、新型コロナウイルス感染拡大以降に在宅勤務を経験した子育て世代の男性の6割が、育児と仕事の両立がしやすくなったと回答し、2人に1人が実際に家事や育児をする時間を増加させた。
- 今後、在宅勤務を活用した働き方が男女ともに定着し、学校や保育所・学童などが再開した後も、多くの男性において仕事をしながら家事・育児をする時間を確保しやすくなれば、子育て期の女性の活躍をより引き出すことを実現する。ひいては社会全体の生産性の向上を実現し得る。
- アフターコロナの働き方の議論に求められるのは、社会全体の生産性向上という視点である。
新型コロナウイルスの感染拡大は、男性を例外とせず、我が国の多くの人の働き方を急変させた
長い間、長時間労働など日本特有の労働慣習により男性の家事・育児への参画が少ないことが、女性の労働参加・キャリア形成を阻む原因、少子化の原因の一つだとされてきた。そこで、とりわけ男性の働き方・働かせ方に関して、意識を含めた大胆な改革が急務だと言われてきた。
そのような中、新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅勤務で働く人が急増した。
野村総合研究所が、2020年3月末と5月末に従業員500人以上の企業に正社員として勤める男女を対象に実施したアンケート調査※1によると、5月末の在宅勤務実施率は53.9%で、3月末時点の22.2%から31.7ポイントも上昇した。5月末の在宅勤務実施率を男女別に見ると、男性で54.0%、女性で53.5%であった。自らのためにも、そして家族や社会のためにも働き方を変えなければならないと矛先を向けられてきた男性においても、多くは強制的とは言え、例外なく大きく働き方を変化するに至ったことが確認できる。
在宅勤務を経験した子育て世代の男性の6割が、育児と仕事の両立がしやすくなったと回答
冒頭に触れた女性の労働参加やキャリア形成の難しさ、そして少子化にも影響を及ぼしているという意味では、とりわけ子育て期の男性の働き方・働かせ方の改革への期待が大きい。
そこで、本稿以下では、野村総合研究所が、2020年5月19日~21日に新型コロナウイルス感染拡大以降に在宅勤務を行った人5,140人を対象に実施したアンケート調査の結果のうち、子育て世代の男性の結果に着目し、彼らにもたらされた変化に焦点をあてて論述する。
子どもを持つ30~40歳代の男性のうち、54.6%が新型コロナウイルス感染拡大以降、在宅勤務を実施したと回答した※2。また、在宅勤務実施者のうち74.0%が、「新型コロナウイルス感染拡大以降、初めて在宅勤務を実施した」と回答した。子育て期の男性も例外なく、働き方を急変させたことが分かる。(図1、図2)
さらに、新型コロナウイルス感染拡大以降、在宅勤務を行った中学生以下の子どもを持つ30~40歳代の男性(以下、在宅勤務を実施した子育て期の男性)の多くが、在宅勤務による様々な効果を実感したと回答した。7割以上の人が、「通勤時間が削減できたことで時間を有効に活用できるようになった」、「通勤時間が削減できたことで身体的負担が軽減した」と回答したことに加え、約6割の人が「育児等との両立がしやすくなった」と回答した。(図3)
在宅勤務をした子育て世代の男性の2人に1人が、実際に家事や育児をする時間を増加させた
実際、在宅勤務を実施した子育て期の男性のうち約8割の男性が、「家族や子どもと過ごす時間が増えた」と回答した。(図4)
子どもとの時間が増えたという結果については、感染防止による臨時休校・登園自粛などが重なったこともあり、育児の負担増を意味するという解釈もできる。しかし、同居する家族や子どもと過ごす時間が増えた人で、生活充実度合いが「下がった」とする人は少なく、逆に生活充実度合いが「上がった」と回答した人が5割を上回った。(図5)通勤自粛により在宅勤務を余儀なくされたが、結果として家族・子どもと過ごす時間が増えたことで、生活充実度合いがこれまでよりも上がったと感じた子育て期の男性が多かったことが推察される。
同じく、在宅勤務を行った子育て期の男性の新型コロナウイルス感染拡大前後における家事・育児の量や頻度の変化をみてみると、およそ2人に1人が「家事をする時間や頻度が増えた」「育児をする時間や頻度が増えた」と回答した。3月末の調査結果よりも、それぞれ10ポイント上昇している。(図6)
行動や意識の変化が見られたのは一部の男性にとどまっているという見方もあるかもしれない。しかし、長年、家事・育児の負担が女性に偏っていることが社会全体にもたらす影響の大きさを鑑み、男性の家事・育児時間の増加が我が国の課題であったことを考えれば、強制的に働き方が変わったことがきっかけとは言え、我が国の男性に起きたこの変化はチャンスである。少なくとも自宅にいられ、家族と過ごす時間が増えれば、男性でもこれまでよりも多くの家事や育児を担える。
なお、在宅勤務を実施した子育て期の男性の55.7%が、「緊急時だけでなく平常時でも在宅勤務を活用した働き方をしたい」と回答している。
アフターコロナの働き方の議論に求められる社会全体の生産性向上という視点
今回の新型コロナウイルス感染拡大により、これまで在宅勤務を行ったことがなかった人も含め、多くの人が在宅勤務を経験した。その結果、我が国の長年の課題であった男性における家事・育児時間の増加が見られ、生活充実度合いが高まったとする男性も多くみられた。
新型コロナウイルス感染拡大による急増した在宅勤務に問題がなかったわけではない。同調査でも、在宅勤務中に感じた課題として、遠隔コミュニケーションの難しさ、リモートでは完結しない業務の存在、自宅で適切な就業環境を確保することの難しさといったものが挙がった。急かつ大規模に在宅勤務に移行したこともあってか、企業の取組が不十分だったと感じている人も少なくなかった。学校や保育所・学童等の再開で、自宅における就業環境の改善は一定図られる可能性はあるが、引き続き多くの人が働く場所を自宅等に変えても、高い成果を出すことが可能となる効果的なコミュニケーション手段の確立、業務の見直しなどが急がれる。
その上で、今後、在宅勤務等を活用した働き方が男女ともに定着し、学校や保育所・学童などが再開した後も、多くの男性において仕事をしながら家事・育児をする時間を確保しやすくなれば、子育て期の女性の活躍をより引き出すことが可能になる。また、在宅勤務等を活用した働き方自体が、近年増えている仕事にも子育てにも頑張りたいとする女性自身の生産性向上につながる可能性は十分にある。結果、社会全体の生産性の向上を実現し得る。
一人ひとりの生産性の高低だけに気を取られ過ぎることなく、社会全体の生産性向上を実現するチャンスであるとの視点で、新しい働き方の定着に官民挙げて取り組むべきだ。
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※1
2020年3月末の調査とは、2020年4月20日に発表した「新型コロナウイルス感染症拡大と働き方・暮らし方に関する調査(2020年3月27日~31日実施)」のことを指す。また、ここで言う同年5月末の調査とは、「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う在宅勤務等に関する調査(事前調査)」のことである。
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※2
在宅勤務を実施したと回答した人の割合のみ、「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う在宅勤務等に関する調査(事前調査)」の結果を使用している。
ご参考
「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う在宅勤務等に関する調査」の実施概要
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【対象】
新型コロナウイルス感染拡大以降に在宅勤務を行った人 計5,140人
(いずれも全国の従業員500人以上の企業に正社員として勤める男女) -
【調査方法】
インターネットアンケート調査
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【実施時期】
2020年5月19日~2020年5月21日
「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う在宅勤務等に関する調査(事前調査)」の実施概要
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【対象】
全国の従業員500人以上の企業に正社員として勤める男女 計3,228人
(就業構造基本調査による男女年齢別構成比に基づき割付回収) -
【調査方法】
インターネットアンケート調査
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【実施時期】
2020年5月19日~2020年5月21日
執筆者
武田 佳奈
未来創発センター 未来価値研究室
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