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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 縮小するリモートワーク。緊急事態宣言時の経験で見切りをつけるな

縮小するリモートワーク。緊急事態宣言時の経験で見切りをつけるな

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2020/07/13

  • 新型コロナウイルスの感染拡大、4月7日の政府の緊急事態宣言を受けてリモートワークが急拡大したが、5月25日に緊急事態宣言が解除されると一転、リモートワークは縮小に転じた。
  • リモートワークが大きく減少したのは、緊急事態宣言下のリモートワークで生産性が落ちたという声が多かったことが影響していると考えられる。
  • しかし、緊急事態宣言下のリモートワークは新型コロナウイルスで家族がみな同時に家庭内にいるなどの特別な状況下で導入されたことを認識すべきであり、この期間のパフォーマンスだけでリモートワークの有効性を評価すべきではない。
  • リモートワークは平時であれば生産性をあげ、離職率を下げるという欧米の研究もある。
  • 国際的にみても労働生産性が低く、人手不足が将来深刻化する日本においては、緊急事態宣言下の経験だけで、リモートワークの有効性を判断するのは時期尚早である。新しい働き方の選択肢として有効活用できないか、継続的に議論を深めていくことが求められる。

コロナで一気に盛り上がりを見せたリモートワーク

グーグルのスマートフォン利用者の位置情報からの分析によると、日本の4月の出勤者はコロナ前(1月から2月上旬の中央値)に比べて21.9%減少。新型コロナウイルスの感染拡大、4月7日の政府の緊急事態宣言を受けて、一気にリモートワークが拡大した。(7月5日日本経済新聞朝刊)
新型コロナウイルスへの感染リスクが下がり安心なのはもちろん、通勤の負担もなくなり快適といった働く側の声や一等地にオフィスを構え高い家賃を払い続けなくてもよいため収益面でもプラスといった企業側の声が紹介され、このまま新しい働き方は定着するとの声も多く聞かれるようになった。

緊急宣言解除後、リモートワークは縮小に転じる

しかし、5月25日に緊急事態宣言が解除されると、リモートワークは一転縮小に向かう。グーグルの分析によると5月にはコロナ前比で21.9%減少していた出勤者の数は6月には12.9%減にまで縮小幅が減少。(7月5日日本経済新聞朝刊)企業の中には、オフィス内での三密を避けよとの政府からの指導もあり、一気にリモートワークを廃止するのではなく、段階的にリモートワークを縮小している企業もあると思われることから、今後もさらにこの数字は縮小していく可能性がある。

緊急事態宣言下での生産性の低下がオフィス回帰の大きな原因か?

リモートワークの盛り上がりが急速にしぼんでいるのは、緊急事態宣言下のリモートワークで生産性低下を感じた人が多かったのが大きな要因になっているように思われる。
内閣府が5月25日~6月5日に実施したインターネット調査によると、全体で仕事の効率性・生産性が下がったとの回答は47.7%。一方上がったとの回答は9.7%にとどまっており、テレワークのパフォーマンスをマイナス評価する人がプラス評価する人を大きく上回っている。(図1)
NRIが5月末に実施した調査でも同様の結果が出ている。新型コロナウイルス感染拡大以降の在宅勤務で仕事の生産性が下がったとする回答が49.7%なのに対し、生産性が上がったという回答は16.1%にとどまっている。(図2)また、在宅勤務より、オフィス勤務の方がはかどるとする回答は73.3%に達し、生産性という観点からはオフィスでの勤務への評価が圧倒的に高かった。(図3)
これらの生産性に関する評価結果を見る限り、もしオフィスに出られるのであれば、オフィスで仕事をさせたい、オフィスで仕事をしたいという声が出てくるのもある意味自然であり、急速にオフィスへの出勤が回復しているのも理解できる。

緊急事態宣下の環境は特別なケース。短絡的な判断は間違い!

しかし、緊急事事態宣言下の経験だけで、リモートワークを完全否定するのは間違いである。なぜこのような低い生産性、低い評価になっているのかをより具体的に見ていくことが必要である。

リモートワークの権威であり、リモートワークは生産性を向上させると主張してきたスタンフォード大学のNicholas Bloom教授はコロナ期には平常期と同様の高い生産性をリモートワークに期待することは難しいと指摘する。(Stanford News March 30, 2020 The productivity pitfalls of working from home in the age of COVID-19)その理由として、彼は4つの要因を挙げる。一つは子供。子供の世話をしながら、子供の勉強を見ながら、仕事にフルに集中するのは容易ではない。2つ目はスペース。効率のあがる集中できる執務スペースを確保すること、それも子供、配偶者が家にいる状況で確保するのは、多くの場合容易なことではない。3つ目はプライバシー。これは2点目の適当な執務スペースの確保が難しいという問題を違った角度から見たものと言うことができる。そして4つ目は選択の余地である。リモートワークの生産性の高さを説くBloom教授ではあるが、リモートワークは万能ではないとも同時に主張する。例えば、イノベーションを生むような活動はリモートでなく、対面のコミュニケーションの方が有効だというのだ。しかし、今回のコロナ期のリモートワークでは、業務特性、あるいは従業員の希望などはあまり考慮されることなく、感染予防優先で、一律にリモートワークに移行してしまっているところに問題があるというのである。

NRIが5月に実施した調査でも、Bloom教授が指摘するようにコロナ期ならではの結果が表れている。
小学生以下の子どもと同居する人の65.3%が「子どもの世話や勉強を見ながら仕事をした」と回答し、そのうち65.6%が「子どもの世話や勉強を見ながらの在宅勤務で業務上の支障を感じた」と回答している。(図4、図5)また、在宅勤務を行った主な場所として「リビング・ダイニング」と回答した人が54.1%と半数を超えていた。(図6)「リビング・ダイニング」は必ずしも仕事仕様にはなっていないし、配偶者や子どもも同時に家にいる中で「リビング・ダイニング」で仕事をしていれば、プライバシーの確保が困難だったことは容易に想像できる。さらに、「会社や上司からの指示・命令」で在宅勤務を行った人が74.0%に及び、「会社や上司からの推奨(21.8%)」を含め、9割以上の人において在宅勤務実施における「選択の余地」が少なかったことが推察できる。(図7)
子供も配偶者も家にいる状況でリモートワークをしなければならないというのは、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下の特別な状況であり、学校の再開、オフィスの再開で、日本では徐々にその状況が改善されようとしている。また、極力出社回避ということで、業務特性や本人の希望への十分な配慮もせずに、一律的に一斉にリモートワークに突入してしまったような企業も、その縛りからは解放され、現在は柔軟に勤務体系を設計できる状況が日本では発生している。

生産性が下がったという評価が多かったリモートワークであるが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下といった特殊事情がなくなったときに、それでも生産性があがらないと切り捨てられるのか、冷静な評価、判断が求められる。

新たな働き方の選択肢として、リモートワークへの取り組み継続に期待

先にあげたスタンフォード大学のNicholas Bloom教授は2015年に中国企業(Ctrip社)で9か月、1,000人の従業員を巻き込んで実施したリモートワーク導入実験の成果を発表し、大きな反響を呼んだ。そのレポートによるとテレワークの導入により13%パフォーマンスが向上、同時に退職率は半減するという成果があがったということで、リモートワークの拡大を推奨する強い根拠となっている。

常に指摘されていることであるが、日本の労働生産性は先進国でほぼ最低水準にあり、生産性向上に向けた取り組みは急務である。リモートワークの生産性の高さを示す欧米の各種研究成果が正しいとすれば、我が国においてもリモートワークの採用は検討に値する有効な選択肢となりうる。

また、今後予想される深刻な人手不足への対応という観点からもテレワークは有望である。
家事や育児と両立できる範囲であれば仕事をしたいという女性は多いし、体力的な不安を感じる高齢者にとっても、通勤負担が軽減されるテレワークは優しい制度になりうる。テレワークのような働き方が認められることで、新たな労働力が市場に出てくる可能性があるのだ。

NRIの5月の調査でも、通勤がなくなることへの評価は高く、7割を超える人たちがそのメリットを実感している。子育て、介護との両立のしやすさを訴える声も数多く上がってきている。(図8)
もちろんリモートワークは万能でなく、それですべてが事足りるとは思わない。しかし、緊急事態宣言下の生産性の低さだけでリモートワークを評価し、新しい選択肢として検討の対象外にしてしまうことだけは避けるべきであろう。

思いがけずも、今回のコロナで多くの人が初めてリモートワークを経験することになった。生産性の向上、人手不足の対応という観点から、このリモートワークという新しい働き方をどのように活用できるかについて、継続的に議論を深めていくことが求められよう。

ご参考

「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う在宅勤務等に関する調査」の実施概要

  • 【対象】

    新型コロナウイルス感染拡大以降に在宅勤務を行った人 計5,140人
    (いずれも全国の従業員500人以上の企業に正社員として勤める男女)

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【実施時期】

    2020年5月19日~2020年5月21日

執筆者

中島 済

未来創発センター 戦略企画室

武田 佳奈

未来創発センター 未来価値研究室

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