サーキュラーエコノミー(循環経済)とは
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す社会経済システムであり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止、自然や天然資源の再生等で、持続可能な社会を目指すものです。
従来の社会経済システムをサーキュラーエコノミーに転換することが求められている
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、大量生産・大量消費・大量廃棄のリニアエコノミー(線形経済)に代わる新しい社会経済システムとして提唱されているものです。
リニアエコノミー(線形経済)は、「資源の採掘→製品の製造→消費・利用→廃棄」の一方向の社会経済システムです。人口増加や生活レベルの向上に伴い生産・消費・廃棄が右肩上がりに増加し、近年では処理能力を上回る廃棄物の発生などの課題が生じてきました。こうした課題への対応としては、3R(リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3つのR(アール)の総称)がこれまで進められてきました。
3Rは廃棄物に関する課題対応としては一定の効果を示してきたものの、近年では大量生産・大量消費に伴う資源枯渇や環境の汚染、あるいは温室効果ガス(GHG)排出に伴う気候変動などの課題も顕在化してきました。加えて、これらの環境関連の課題に限らず、世界の各地域・国において進むブロック経済化(地域・国を跨いだ資源の輸出入に関する制約など)が進むなど、様々な形で資源調達リスクが高まっていることが課題となっています。これらの課題に対して、「大量廃棄」に焦点を当てた従来の3Rのみならず、「大量生産・大量消費」への対応が重要となります。
こうした考え方に基づき、製品の製造・販売までを事業範囲としてきたメーカーのあり方が変わろうとしています。従来の3Rに加えて、近年は、メーカーが中古品や欠陥品を回収・整備し、新品に近い状態で再出荷するリファービッシュ・リマニュファクチャリングの概念が注目されるようになりました。製品(あるいは部品等)の機能・耐久性を製品ライフサイクルにわたって顧客接点を持ち、顧客ニーズを把握することでサービス機会を付加価値として最大限引き出すことができれば、高収益なビジネスに繋がる可能性があると考えられています。また、こうした背景を踏まえ、製品売り切り型から、サブスクリプション・シェアリング等のサービス提供型(家電レンタルやカーシェアリングなど)への移行により、ビジネスとしてのサーキュラーエコノミーを実現する例があります。
図表1 サーキュラーエコノミーとは
出所:NRI作成
各国・地域は環境政策ではなく産業政策としてサーキュラーエコノミーを推し進めている
欧州連合(EU)は、2015年に「サーキュラーエコノミー行動計画」を政策方針として発表し、その後2017年に欧州委員会(EC)によって策定された「欧州グリーン・ディール政策」においても重要政策としてサーキュラーエコノミーを位置づけました。これに続くものとして、2020年には「サーキュラーエコノミー行動計画」、さらに近年では製品の設計や耐久性・修理容易性、再生材含有率などのライフサイクル全体に係る規定を盛り込んだ「エコデザイン規則」などの公布に至っています。また、特定の製品に係るものとしては、包装のリサイクルや最小化・再利用などを規定した「包装・包装廃棄物指令」の発行や、自動車のライフサイクル全体を規定する「ELV(廃自動車)規則案」の公表が行われています。これらの政策等は、環境負荷の低減を目指すものですが、原料調達や製品デザインに関する規定遵守を市場参入の義務要件としており、ものづくりの在り方や市場ルールを変えるものであるという点において、EUの産業競争力を高める産業政策としても位置づけられます。また、中国も「第14次五ヵ年計画循環経済発展計画」を2021年に公表しており、EU以外の国・地域においても同様の流れが見られます。
一方、日本では、環境省が2018年に公表した「第四次循環型社会形成推進基本計画」において、従来の環境的側面だけではなく経済的側面に言及しました。また、近年では、同省が2024年に「第五次循環型社会形成推進基本計画」を公表したことに加え、経済産業省も2023年に「成長志向型の資源自立経済戦略」を策定していますが、双方とも産業戦略としての要素が多く盛り込まれる点が特徴です。
サーキュラーエコノミーの実現のカギは情報流通
サーキュラーエコノミーの実現に向けては、上記で紹介した政策による規制や誘導が必要になります。また、実際のビジネスにつなげていくためには、特定の企業による技術開発だけではなく、幅広いステークホルダーの相互連携が不可欠となります。素材や製品の開発・製造を行う動脈産業と、回収物・廃棄物の選別・再生などの工程を担う静脈産業の双方を巻き込んだバリューチェーン全体での連携が求められます。
バリューチェーン全体での連携を効率的に進めるためには、動静脈間の情報ギャップを最小化することが重要であり、製造あるいは再生に関するさまざまな情報の流通が重要です。
具体的には、動脈側は競争力に配慮しつつも、製品に使われている素材の組成や特性、使用履歴、含まれる化学物質などの情報を静脈へ連携することで、素材や製品の価値を保った状態でのリサイクルや、リサイクルにかかる手間やコストを減らしていくことができます。一方で、静脈側はリサイクル工程におけるトレーサビリティや再生された素材の組成や特性などの情報を動脈側へ連携することで、再生材の信頼性を高め、利活用を促すことが期待されています。
情報流通のためのデジタルプラットフォームの設計・開発は国内外の様々な機関で進んでいますが、その参加者が一定の共通ルールに則り、取り扱う情報項目や要件に関する検討が重要となります。NRIは素材を対象としたガイドラインとしては世界初となる「プラスチック情報流通プラットフォームの構築ガイドライン 0 次案」が、環境再生保全機構から2025年1月に公表されました。