株式会社野村総合研究所(以下「NRI」)は、内閣府設置の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔機能を担う国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の1課題である「サーキュラーエコノミーシステムの構築」において、「プラスチック情報流通プラットフォームの構築ガイドライン0次案(ディスカッションペーパー)」を開発し、2025年1月に公表しました。これは、素材を対象とした世界初の情報流通に関するガイドラインの0次案となります。
「プラスチック情報流通プラットフォームの構築ガイドライン0次案(ディスカッションペーパー)」は独立行政法人環境再生保全機構の次のURLからご覧いただけます。
https://www.erca.go.jp/sip/overview/a201.html
循環経済への移行のカギを握る情報流通
従来の大量生産・大量消費型の経済社会活動は、気候変動、天然資源の枯渇、生物多様性の破壊などの環境問題を引き起こしており、持続可能な形で資源を利用する「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への移行が課題となっています。
サーキュラーエコノミー実現は、規制等の導入や、特定の企業による技術開発だけで成立するものではなく、幅広いステークホルダーの相互連携が不可欠です。素材や製品の開発・製造を行う動脈産業と、リサイクルなどの工程を担う静脈産業の双方を巻き込んだバリューチェーン全体での連携が求められます。
バリューチェーン全体で効率的に連携を進めるためには、素材や製品に関するさまざまな情報の流通が重要です。情報流通、つまりバリューチェーン上における情報の連携や共有が行われないと、静脈側の工程では製品に使われている素材の組成や特性、使用履歴、含まれる化学物質などの情報が分からず、素材や製品の価値を保ったリサイクルが難しくなり、リサイクルにかかる手間やコストが増えるほか、品質が不安定になることがあります。また、リサイクル工程で製造された再生材の組成や特性などが分からないことで、動脈側による再生材の利活用が進まないといった状況も想定されます。
素材を対象とした世界初の情報流通に関するガイドライン
情報流通の実現及び高度化に向けて、運用・管理者の異なる複数の情報システムを連携させるためのアーキテクチャに関する検討が世界的に進んでいます。また、特定の製品に関する情報流通を進める取組として、「デジタル製品パスポート(DPP: Digital Product Passport)」の研究や導入も進められています。
一方で、素材を対象とした情報流通に関する検討は世界的にもこれまでほとんど存在していませんでした。今回公表したガイドライン0次案(ディスカッションペーパー)が対象とするプラスチックは、主に石油を原料とする合成樹脂で、軽量かつ加工が容易で安価な素材であることから、食品容器やペットボトル、家電製品、自動車、飛行機、建物に至るまで、我々の身の回りで広く利用される必要不可欠な素材です。
プラスチックの循環を実現するためには、異なる製品やバリューチェーンを跨いだ情報流通が必要となります。このため、多様なステークホルダーの意向や業界特性を考慮しながらデータの要件定義などを行うことが必要です。
NRIは、プラスチックを対象とした情報流通に関わるルール形成をSIP「サーキュラーエコノミーシステムの構築」で担っており、国内外の様々な規制動向の調査やステークホルダーへのヒアリング等を実施しています。その成果物としてこの度、ガイドライン0次案(ディスカッションペーパー)の公表に至りました。
ディスカッションペーパーとして公表により、国内外の検討の呼び水に
本ガイドラインは、ディスカッションペーパーとして位置づけられています。これは、様々な製品に使われるプラスチックの循環実現には、多様な産業セクターを巻き込んだ検討が求められることを念頭に、本ガイドラインがそのような検討の呼び水となることを意図しているためです。また、本ガイドラインに対するフィードバックも受け付けており、フィードバック内容をもとにガイドラインの段階的な更新も予定しています。
NRIは、循環経済に関わる様々なステークホルダーの意向を整理するとともに、更なる議論や検討を促し、社会的な機運の醸成にも取り組むことで、循環経済への移行に向けて大きく貢献していきます。
【本件の担当】
株式会社野村総合研究所 サステナビリティ事業コンサルティング部 樹 世中