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量子コンピュータ

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量子コンピュータとは

量子力学の現象を情報処理技術に適用することで、従来型のコンピュータ(古典コンピュータ)では容易に解くことのできない複雑な計算を解くことができるコンピュータ

量子コンピュータとは、「量子重ね合わせ」や「量子もつれ」といった量子力学の現象を利用して並列計算を実現するコンピュータです。従来型のコンピュータでは答えの導出に膨大な時間を要する問題でも、量子コンピュータでは短い時間で解けるようになる可能性があるため、さまざまな分野での活用が期待されています。

量子ゲート方式と量子アニーリング方式

量子コンピュータは問題を解く方法の違いにより、量子ゲート方式と量子アニーリング方式の大きく2つに分類されます。
量子ゲート方式は、量子状態にある素子の振る舞いや組み合わせで計算回路を作り、問題を解いていきます。超電導やイオントラップ、トポロジカルなど様々な実現手法が提案されています。従来型のコンピュータの上位互換として期待が高く、グーグルやIBMなどの大手ITベンダー、またリゲッティ・コンピューティングやIonQなどのスタートアップがハードウェアの開発を進めています。
量子アニーリング方式は、組み合わせ最適化問題を解くことくに特化しています。高温にした金属をゆっくり冷やすと構造が安定する「焼きなまし」の手法を応用して問題の解を求めていきます。商用化で先行するD-Wave Systemsのハードウェア(以下、D-Waveマシン)では、格子状に並べられた素子に相互作用を設定し、横磁場という信号をかけて、素子全体のエネルギーが最も低くなる状態を探し出していきます。日本ではNECが2023年までの実用化を発表しています。

大手企業が研究に参加

D-Wave Systemsは、企業や研究機関がD-Waveマシンを使って取り組んだアプリケーションの数が250を超えたと言っています1。たとえばフォルクスワーゲンは、北京市街と北京空港の間の渋滞を解消する移動ルートの計算をD-Waveマシンを使って計算しました。さらに同社は、2019年にはポルトガルのリスボンで開催された「ウェブサミット」の開催期間中、D-Waveマシンを使って「2値ペイントショップ問題」をリアルタイムで解き、実際の渋滞を考慮しながらシャトルバスが適切な間隔で運行できるようにしました2
私たちの身の回りには、最適化によって解決できる問題がたくさんあります。たとえばシフト勤務における勤務者の組み合わせやwebサイトで掲載する広告の組み合わせ、資産ポートフォリオの最適化などさまざまです。これまで、デンソーやキューピー、三菱地所やリクルートコミュニケーションズ、BBVA銀行などが、ビジネス課題の解決にD-Waveマシンを使う研究を行いました。
一方の量子ゲート方式では、グーグル3と中国科学技術大学4が、それぞれスーパーコンピュータの性能を超える計算能力を意味する「量子超越性」を達成したと発表して大きな話題を集めましたが、ビジネスで利用できるハードウェアは未だ登場していません。量子ゲート方式はノイズの影響を受けやすく、計算誤差が発生してしまうからです。しかし、ノイズに強いエラー耐性を持つハードウェアの開発が成功すれば、最適化計算に加えて化学シミュレーションや機械学習、暗号解析などに活用できる可能性があることは以前から知られていました。
現在、国内外の大手企業は、IBMやグーグル、リゲッティ・コンピューティング、IonQなどのハードウェア開発を進めるメーカーと共同で量子ゲート方式の応用研究を進めています。たとえば、ゴールド・マンサックスやJPモルガン・チェース、ウェルス・ファーゴ、BBVA銀行や三菱UFJ銀行などは、資産ポートフォリオの最適化やモンテカルロシミュレーションを利用した金融リスク計算などに応用できるアルゴリズムの研究を、ダイムラーや三菱ケミカルは電気自動車に応用できるバッテリ素材の研究を、そのほかにはBMWやエクソン・モービル、サムソン電子などが製造工程の管理や物資運搬の最適化への適用を研究しています。

基礎研究とビジネス適用研究が同時進行

量子コンピュータはいつになったら本格的にビジネスに応用できるようになるのでしょうか。D-Wave Systemsは商用サービスで他の量子コンピュータに先行しています。ビジネス課題を扱った研究が数多く実施されていますが、古典コンピュータに比べると一度に解ける問題の規模が小さく、さらにビジネス問題を量子アニーリングで解くための計算式に置き換えるためにはテクニックが必要であるため、実証実験を乗り越えて本番運用までこぎつけたケースは稀です。量子ゲート方式に至っては、エラー耐性を持つ量子コンピュータの実現は10年から20年先とも言われています。
量子コンピュータが真価を発揮するためには、数多くの課題を乗り越える必要がありますが、ハードウェア開発の基礎研究とビジネス適用に向けた応用研究が同時進行で進行している点には大いに注目すべきでしょう。D-wave Systemsは、D-Waveマシンと古典コンピュータを組み合わせることによって、企業が求める大規模な問題を解く方式を提案しています。量子ゲート方式については、ハードウェアに実装する量子ビットの数を増やす研究を進めると同時に、エラーがある量子コンピュータでも解ける問題の支障がないビジネス課題を、上記の大手企業と一緒になって探し始めています。また、多くの企業ユーザーを持つアマゾンやマイクロソフトは、自社のクラウドサービスのなかで、D-Wave Systemsやリゲッティ・コンピューティング、IonQなどが提供する量子コンピュータに接続して利用できるサービスを開始しました。理想的な量子コンピュータの実現には時間がかかりますが、企業が将来の可能性にチャレンジできる環境が整いつつあります。

※1 D-wave Systemsホームページ
https://www.dwavesys.com/applications

※2 Volkswagen: Paint Shop Optimization with Quantum Annealinghttps://www.youtube.com/watch?v=Uenk1SF8NsI

※3 Quantum Supremacy Using a Programmable Superconducting Processor(23 Oct 2019)https://ai.googleblog.com/2019/10/quantum-supremacy-using-programmable.html

※4 Quantum computational advantage using photons(18 Dec 2020)https://science.sciencemag.org/content/370/6523/1460

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