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シナリオ・プランニング

Scenario Planning

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シナリオ・プランニングとは

シナリオ・プランニングとは計画策定手法の一つで、今後起こりうる環境変化の可能性を複数の未来シナリオとして描き出す。これを企業の戦略策定に活用することで、今後の不確実性に対応するための戦略を策定することができる。シナリオ・プランニングは、策定したシナリオそのものだけでなく、シナリオを検討する過程で未来に対する洞察力を高め、不確実性の下での組織的な意思決定力を高めることにも寄与する。

シナリオ・プランニングが求められる背景

近年、ビジネスを取り巻く環境は、VUCA (Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)という言葉で表現されるように、ますます不確実性・複雑性が強まっている。近年の地政学的リスクの顕在化やパンデミックの発生、生成AIの進化など、政治、経済、社会、技術等さまざまな側面で非連続的な変化が生じており、これら事象が複合的に作用し合うことで、ますます今後のビジネス環境が予測困難になっている。こうした不確実性が高く不透明な状況下で、企業は戦略策定の前提となる事業環境変化を適切に捉えることが困難であり、仮に中長期的な計画を立てたとしても1年も持たずに見直しを迫られるようになり、中長期計画の発表を控える企業すら出始めている。
このような状況を受けて、近年、シナリオ・プランニングという計画策定手法に注目が集まっている。シナリオ・プランニングは、古くは第二次世界大戦中のアメリカ軍の作戦演習に端を発し、ロイヤル・ダッチ・シェル社が事業戦略にこの手法を適用し、1973年の石油危機の可能性を事前に認識し備えておいたことで、自社の市場ポジションを飛躍的に上昇させることに成功した。このことにより、シナリオ・プランニングの経営への適用が一躍注目を浴びることになったのである。
シナリオ・プランニングでは、将来に亘り起こる可能性のある環境変化の因子を洗い出し、それらの因果関係を踏まえた上で、その事象が起こった際のインパクトやその不確実性についての評価を行い、その評価にもとづき複数のシナリオを描く。VUCA時代の到来に対し、このシナリオ・プランニングを全社ビジョンや中長期経営計画の策定といった中長期の戦略策定プロセスに活用し、複数の未来の可能性を認識した上で、それらへの対応を事前に検討するような企業経営の取り組みが進んでいる。

シナリオ・プランニングにより期待される効果

シナリオ・プランニングを企業経営に取り入れることで、①不確実性を織り込んだ柔軟性の高い長期ビジョンや中長期経営計画の立案ができる、といった効果に留まらず、②シナリオ検討のプロセスを通じ、不確実性に立ち向かうための組織能力の向上や、③シナリオを外部と共有することで、共創活動を促進する、といった効果も得られる。
「①不確実性を織り込んだ柔軟性の高い長期ビジョンや中長期経営計画の立案」は、複数の起こりうる未来シナリオを策定し、そのシナリオがもたらす自社への機会や脅威を想定し、それらに対して事前に対策を検討したり、重要な変化の予兆を察知できるように構えたり、変化の幅を踏まえた戦略を策定することで、自社の経営戦略の実効性を高めるという効果が期待できる。これはシナリオ・プランニングの活用において、最も具体的にイメージしやすい効果である。
「②シナリオ検討のプロセスを通じ、不確実性に立ち向かうための組織能力の向上」に関しては、1つ目と異なりイメージし辛い効果であるが、シナリオ・プランニングを活用する本質的な意義はむしろこの点にある。シナリオ・プランニングの検討を進めるに当たっては、中長期的な環境変化の因子を洗い出し、それが自社にとってどのようなインパクトをもたらすかを検討する。そのためには、自社の置かれた事業環境を再認識し、事業構造や事業に大きな影響を及ぼす要素(キードライバー)に対する理解を深め、それぞれの変化がどのような因果で繋がっているのかを徹底的に考える必要がある。その過程を通じて、シナリオ・プランニングの検討に携わったメンバーには未来に対する洞察力や自社の事業に対する深い理解が備わる。加えて、完成したシナリオを俯瞰しながら、自社の将来の戦略について、経営から現場まで巻きんだ議論を行うことで、不確実性の下での意思決定力を高めるといった効果も期待できる。
「③シナリオを外部と共有することで、共創活動を促進する」という点は、特に中長期目線で社会課題解決を行うような事業を創出していく際に期待できる効果である。市場のニーズが既に顕在化しているような事業であれば、事業パートナーの巻き込みや顧客への提案も行いやすいが、中長期目線に立った事業開発を行う場合、顧客や外部パートナーへその事業のニーズや価値を説明しづらい。そこで、自社で考えた未来シナリオの世界観をパートナーと共有することで、その世界観をどのようにして一緒に実現していくかといった前向きな議論に発展させることができる。実際に、Siemens社では、”Picture of Future”と呼ばれる、未来に対する自社の洞察結果を外部の共創パートナーと共有することでエコシステム構築を促進し、新たなソリューションの創出につなげている。

シナリオ・プランニングの進め方

シナリオ・プランニングは、①トレンドの理解・環境変化因子の整理、②重要ファクター・分岐点の特定、③未来シナリオのストーリー化、の3ステップで進めることが一般的だが、ここでは戦略への反映を見据え、④未来シナリオで起こる社会課題の抽出、⑤理想の社会の姿の描出、の2ステップを足した5ステップの進め方を説明する。

「①トレンドの理解・環境変化因子の整理」では、グローバルマクロトレンドや業界トレンドなどを幅広く抽出し、中長期的に起こる可能性のある変化のリストを作成する。なるべく広範に起こりうる可能性のあることを洗い出すために、この段階ではホライズン・スキャニング1活用したアプローチ等が用いられる。

「②重要ファクター・分岐点の特定」では、整理した環境変化因子に対して、自社や自社の属する事業領域に及ぼしうる影響の大きさと、変化の不確実性を軸に評価を行う。その際、評価がしやすいように因子同士の因果関係に注目し、影響を及ぼす範囲についてあらかじめ議論しておくことも一つの方法である。また、なるべく多角的な視点から評価するために、内部のメンバーだけでなく、業界内外の有識者の意見を収集することも有用である。そうして各因子のインパクトと不確実性の評価を行ったうえで、その因子を「ほぼ確実に起こり、インパクトが大きいもの」「不確実性が高く、かつインパクトも大きいもの」「インパクトが小さいもの」に大別し、シナリオへの組み込み方・分岐点を検討する。

「③未来シナリオのストーリー化」では、分岐点を踏まえた上で、それぞれの分岐を辿った上でどんな世界観にたどり着くのかを俯瞰しながらストーリーの形で整理を行っていく。ストーリーを描く際には、対象とする事業や業界にとって、特に重要となる変化を意識しつつシナリオを具体化する。

「④未来シナリオで起こる社会課題の抽出」では、③のストーリーから導かれる社会的・業界的な課題を抽出していく。ここでは、具体的にどのような登場人物の、どのようなシーンで、どのような課題が生じるのかをより明確に描出していくことで、課題をクリアにしていく。

「⑤理想の社会の姿の描出」では、その社会的課題と、自社の普遍的な存在意義・パーパスを踏まえた上で、どのような社会を実現したいかを描き出す。

これら5つのステップを進めることで、未来シナリオの策定・戦略的示唆を得るとともに、前述した組織能力の強化や共創のためのシナリオを得ることができる。

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    ホライズン・スキャニング
    将来、社会に大きなインパクトをもたらす可能性のある変化の兆候をいち早く捉えるために、利用可能な情報を収集・分析して、潜在的なリスクや可能性を把握する、将来展望活動の一つ

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