サマリー:日・米・中ではこの11年間で伝統的価値観からの脱却が進む

  • 野村総合研究所(NRI)は、2025年に日本・米国・中国・ドイツを対象とした「AI利用に関する国際比較調査」を実施した。この調査は各国のAI利用実態およびAI利用に対する考え方の違いを把握することが目的であったが、11年前の2014年に「日・米・中インターネット生活者調査」で聴取していた【生活価値観】【家族観】【消費価値観】【理想の暮らし】【就業価値観】と同一項目を調査することで、日本・米国・中国におけるこの11年間の価値観変化を把握できるようにした。本稿では【生活価値観】について、日本・米国・中国の変化を考察する。
  • 2014年から2025年の11年間を俯瞰すると、日・米・中3カ国において共通して見られるのは、かつての強固な「伝統的規範や社会の建前」からの脱却プロセスである。しかし、その行き着く先は三者三様だ。日本は「精神的余裕の喪失に伴う現状肯定」へ、米国は「不確実性を生き抜くための“力(学歴・家族)”への回帰」へ、中国は「集団主義・儒教的規範からの精神的独立」へと向かっている。

1. 日本:伝統的家族観からの脱却と、精神的余裕喪失に伴う社会関心の低下・現状肯定

図1は日本における【生活価値観】の変化を示したものである。日本における最大の変化は、かつての「標準的な家族モデル」が完全に解体され、多様性が受容される一方で、社会や環境問題への関心が薄れ、日々の生活を維持することに精一杯な「精神的余裕の喪失と現状肯定」の姿である。なぜそう言えるのか、具体的に回答結果を見てみよう。

図1:2014年から2025年における生活価値観の変化(日本)

※「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらかといえばそうは思わない」「そうは思わない」の4段階で質問しており、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計を算出している。
※2014年と2025年の割合は小数点以下第2位を四捨五入して表示しているが、両者の差分は四捨五入する前の数値で計算しているため、表示上2025年から2014年を引いた値と合わない場合がある。

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」(2025年)、NRI「日・米・中インターネット生活者調査」(2014年)

① 伝統的家族観の解体と多様性の受容

「できることならば結婚した方がよい」(79.9%→66.7%、-13.2pt)、「できることならば子どもを持つ方がよい」(81.4%→66.9%、-14.5pt)といった伝統的な家族形成への意欲がこの11年間で劇的に低下した。2025年のデータを詳しく見ると、これらの価値観への支持率が若年層ほど低く、性別で見ると女性の支持率は男性よりも10%低い。さらに個人所得および世帯所得が低い層では支持率が低い傾向にあり、経済的な理由からやむなく結婚や子供をあきらめている可能性もあるだろう。
他方、「夫婦お互いの同意があれば、入籍しなくてもよい」(50.6%→63.2%、+12.6pt)や「男性同士、女性同士でカップルとなっても構わない」(54.2%→66.2%、+11.9pt)といったリベラルな価値観の支持率は大幅に上昇している。2025年のデータを詳しく見ると、先ほどと同じく若年層および女性でこれらの価値観を支持する比率が高い。しかし所得の多寡はこの価値観に影響を及ぼしていないようである(低所得層と高所得層の支持率はほぼ同じ)。日本では若年層および女性を中心に、「結婚して子どもを持つ」という伝統的家族観は絶対的な規範ではなくなり、多様なライフスタイルや非婚化が社会的に広く受容されたことが明確に示されている。

② チャレンジ精神・エシカル意識の後退と「現状肯定」

一方で深刻なのは、個人の活力や社会への関心が急速に萎縮している点である。「より良い生活のためなら、今の生活を変えるようなことにもチャレンジしていきたい」(66.7%→56.1%、-10.6pt)や、「たとえ他人にどう思われようと、自分の考えに基づいてものごとを判断したい」(76.4%→65.0%、-11.3pt)が低下する一方、「努力や訓練が必要なことはあまりやりたくない」(34.3%→49.8%、+15.5pt)が全項目中で最大の上昇を記録した。この理由の1つには人口構成の高齢化もあるだろう。チャレンジ意欲については、若年層が相対的に高いのに対して、50代、60代で一気に低くなることから、高齢化する日本の人口動態が、日本全体としてのチャレンジ精神を構造的に低下させている。またチャレンジ精神と所得水準にも明確な相関関係があり、低所得層ほどチャレンジ意欲が低い傾向にあった。
「価格が高くても、環境にやさしい商品を選ぶようにしたい」(53.6%→36.7%、-16.9pt)、「積極的に社会のために貢献したい」(57.8%→52.7%、-5.1pt)も軒並み低下している。2025年のデータを詳しく見ると、低所得者層ほど環境にやさしい商品についての意識は低い。他方年齢別にみると、若年層は社会への貢献意欲が高いのに対して、環境にやさしい商品についてはむしろ高齢者のほうが意識が高いという結果であった。これらの結果を総合すると以下のようなことが言えるのではないか。すなわち、長引く実質賃金の低迷によって、日本人は「社会課題や理想」にコストとエネルギーを割く余力を失い、摩擦を避けて省エネで生き抜く「内向きな現状肯定」へと向かっている、というストーリーである。

2. 米国:不確実性下での「強固な基盤(学歴・大家族)」への回帰とリベラル志向の混在

図2を見ると、米国は過去11年間で伝統的価値観からの脱却(結婚への意欲低下)と回帰(大家族志向)の同時進行が見られる。社会の分断とインフレ進行、AIの登場など、不確実性が極めて高い社会の中で、リスクヘッジとなる「伝統的な強み(学歴や家族ネットワーク)」への回帰と、多様性を巡る価値観の複雑な入り混じりが確認できる。

図2:2014年から2025年における生活価値観の変化(米国)

※注および出所は図1と同じ

① 学歴信仰と「大きな家族」への回帰

米国における11年間の価値観データの特徴的な動きとして、「子どもは多い方が望ましい」(30.4%→42.9%、+12.5pt)の大幅な上昇が挙げられる。また、「有名な大学や学校に通った方が、将来は有利になると思う」(51.6%→60.8%、+9.2pt)も大きく伸びていることが特徴だ。2025年のデータを詳しく見ると、男性&若年層にこう思っている人の比率が高い。また所得階層で見ると、年収7.5万ドル~20万ドルの層(中間層&上位中間層)で、こういった価値観を持っている人が多く見られる。
米国社会において、インフレやAI台頭による雇用不安が深刻化する中、「自分と一族を守るためには、強固な家族ネットワークと圧倒的な学歴(エリートとしてのパスポート)が不可欠である」という、ある種の保守的かつサバイバル的な価値観が再燃していると推察される。

② リベラルと保守の価値観のせめぎ合い

一方で、「国の成長のためには、積極的に移民を受け入れるべきである」(61.0%→67.3%、+6.3pt)が上昇し、「自分の国や国民を誇りに思う」(80.1%→71.3%、-8.8pt)が低下するなど、単純な「右傾化・ナショナリズム」だけでは説明できない変化も起きている。ちなみに「自分の国や国民を誇りに思う」については、60代が75%に対して、10代が62%、20代が65%(いずれも2025年のデータ)と世代で大きなギャップがある。
同時に「男性同士、女性同士でカップルとなっても構わない」(65.3%→59.8%、-5.5pt)は低下していて、特に高齢男性でこの数値は低い(逆に若年女性でこの数値は高い)。ダイバーシティを推進するリベラルな潮流と、それに反発する保守的な揺り戻しが、項目ごとに複雑にせめぎ合っている米国社会の分断の深さが伺える。

3. 中国:集団主義・儒教的規範からの急速な脱却と「個のライフスタイル」の多様化

図3に示したように、中国においても過去11年で価値観変化が起きている。それは、古くから社会を縛ってきた「集団主義・儒教的規範からの精神的独立」とでも呼べるような事象である。

図3:2014年から2025年における生活価値観の変化(中国)

※注および出所は図1と同じ

① 「和」や「世間体」からの解放

中国では2014年から2025年にかけて「自分の考えを主張するより、他の人との和を尊重したい」(83.1%→71.4%、-11.8pt)、「目上の人の言うことには、原則として従うべきである」(83.1%→74.5%、-8.6pt)、「世間体を気にしてしまうことが多い」(68.8%→60.9%、-8.0pt)が揃って大幅に低下している。
「目上の人の言うことには、原則として従うべきである」の回答を年齢階層別にみると、興味深いのが10代ではこの数値が80%と平均よりむしろ高いのに対して、20代では数値が70%と大幅に低くなることである(いずれも2025年の数値)。中国の10代は目上の人に従うという規範的意識が強いのに対して、20代で親元から離れると、社会や親の期待に応えるための無理をやめ、権威や同調圧力から距離を置こうとする近代的な個人主義の台頭が鮮明に表れているのではないか。

② 伝統的家族観の解体と新たな自己実現の模索

この個人化の波は家族観も直撃している。「できることならば結婚した方がよい」(86.1%→78.7%、-7.4pt)、「できることならば子どもを持つ方がよい」(85.9%→76.6%、-9.3pt)が低下する反面、「結婚をしないで子どもを産んでもかまわない」(38.9%→51.5%、+12.6pt)や「夫婦お互いの同意があれば、入籍しなくてもよい」(42.2%→53.7%、+11.6pt)がこの11年間で上昇している。国が少子化対策として伝統的家族形成を推し進めるのとは裏腹に、生活者レベルではそれらに縛られない多様な生き方を模索しているようだ。
一方で、「対外的に自分の地位・立場を説明するために、役職や肩書きがほしい」(73.2%→77.4%、+4.2pt)は上昇しており、世間体を気にする比率は低下する反面、「自分自身の社会的価値」を確立したいという葛藤も抱えているのかもしれない。

企業への示唆:価値観変化のパターンは一律ではなくこれまで以上のローカリゼーションが重要

最後に、日本だけでなく米国や中国でも事業も行っている企業への示唆を述べたいと思う。この11年間で、3カ国はそれぞれ異なる背景を持ちながらも、これまでの「伝統的規範」や「固定観念」から脱却する傾向は共通してみられた(※ただし米国では伝統的規範への回帰も一部見られている)。他方、細かい点まで見ると価値観変化のパターンは一律ではなく日米中でかなり異なっていることもわかった。
世界情勢が不安定化し、過去20年間で進んだ経済のグローバリゼーションは揺り戻しのフェーズに入ったが、価値観についてもグローバリゼーションからローカリゼーションのフェーズに移行しつつあるのではないか。つまりビジネスの観点から言えば、これまで以上にローカリゼーションの重要性が増しているということである(これは当然足元の日本市場も含む議論)。以下、価値観変化を踏まえたマーケティング方針案について記載する。

  • 日本においては、「社会課題の解決」や「輝かしい自己実現」といった大上段のメッセージは、余裕を失った生活者の共感を得づらくなっている。伝統的家族観から解放され多様化する個人のライフスタイルを肯定しつつ、「摩擦を減らし、無理なく省エネで日々の生活を維持できるソリューション(時短、代行、メンタルサポート等)」を提供することが求められる。
  • 米国においては、分断やインフレといったタフな環境下で、「学歴や大家族」といった伝統的な“強さ”を再評価する防衛的な動きが見られる。単純なリベラル層・保守層のターゲティングではなく、生活の地盤を強固にする実利的なサポートや、複雑に混在する価値観を尊重した「きめ細かなパーソナライズによる安心感」の提供が鍵となる。
  • 中国においては、集団主義や世間体といった長年の同調圧力から解放され、「個のライフスタイル」を本格的に模索するフェーズに入っている。画一的な規範ではなく、等身大の自己実現を支援し、「周囲の目を気にせず、自分らしさを自由に選択できる」パーソナルな体験やサービスが大きなビジネスチャンスとなる。

【ご参考】調査概要

■調査名 「AI利用に関する国際比較調査」
■実施時期 2025年9月
■調査方法 インターネット調査
※各国における実査は、現地での調査資格を有する企業に委託して実施
■調査対象 満15~69歳の男女個人
■有効回答数 日本3,148人、米国3,107人、中国3,147人、ドイツ3,113人
■主な調査項目 生活価値観、家族観、消費価値観、イノベータ度、
就業状況、就業価値観、
個人における生成AI利用状況・利用用途・受容性、
(日本のみ)企業におけるAI活用状況、AI導入の効果・課題、
基本属性
■調査名 「日・米・中インターネット生活者調査」
■実施時期 2014年8月
■調査方法 インターネット調査
※各国における実査は、現地での調査資格を有する企業に委託して実施
■調査対象 満15~69歳の男女個人
■有効回答数 日本3,161人、米国3,115人、中国3,134人
■主な調査項目 生活価値観、家族観、消費価値観、イノベータ度、
就業状況、就業価値観、
消費行動、ICT利用実態、今後利用してみたいサービス、
基本属性

日・米・中における2014→2025年の生活価値観変化

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執筆者情報

  • 執筆者
    林 裕之
    部署
    マーケティング戦略コンサルティング部
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    チーフコンサルタント
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  • 執筆者
    森 健
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    未来社会・経済研究室
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