概要

  • 野村総合研究所(NRI)は2026年7月、関東1都6県に住む満15~69歳を対象に、食料品の値上げに対する意識と行動に関するアンケート調査を行った。食料品の値上げに直面した生活者の41.7%が、より安い商品への乗り換えや購入頻度の削減といった何らかの行動をとっている。値上げは単に「高くなった」という価格の問題にとどまらず、どの商品をどれだけ買うかという購買行動そのものを変えつつある。
  • 一方、許容できる値上げ幅は「5~10%未満」が50.7%と最も多く、ボリュームゾーンを形成している。10%を超える値上げまで許容する層は32.6%にとどまり、10%は多くの生活者にとって受け入れの限界を分ける水準となっている。値上げ幅の設計において、この境界は無視できない。
  • ただし、値上げそのものが一律に拒否されているわけではない。加工食品では、値上げの理由が説明されれば納得できるとする人が36.5%にのぼり、価格を据え置いたまま内容量を減らすなど、説明を伴わない対応よりも受け入れられやすい。生活者が反発しているのは値上げという事実ではなく、その不透明さである可能性が高い。
  • こうした反応は性別・年代によって大きく異なるが、違いを生んでいるのは性別や年代そのものというより、そのカテゴリーへの関与の蓄積ではないかと考えられる。生鮮食品では、若年層で調理の手間を避ける傾向が強い一方、女性60代では産地を重視する傾向がみられ、関わりの深さが判断軸の違いとして表れている。価格以外に何を判断の手がかりとして届けられるかが、これからの課題となる。

私たちの生活に直結する食料品の値上げが、長らく続いている。原材料費や物流費、人件費の高騰を背景に、多くの食品メーカーや小売業が価格改定に踏み切らざるを得ない状況にある。一方で、企業側にとって、値上げは「顧客の買い控えや、他社製品への乗り換え(客離れ)を招くのではないか」という強い懸念を伴う難しい決断でもある。

野村総合研究所(NRI)のINSIGHT SIGNAL(インサイトシグナル)事業では、マーケティング領域全般に関するコンサルティングや社会提言、情報発信を目的として、関東1都6県の一般生活者を対象としたアンケート調査を行い、ニュースやトレンドが人々の行動に与える影響を継続的に分析している。本稿では、その一環として、食料品の値上げに対する生活者の意識と行動の実態を分析し、値上げ局面における生活者の許容度や購買判断の実情を明らかにしていく。なお、調査では値上げ後の行動と許容幅については食料品全般を、値上げ時の企業対応への納得感については加工食品(調味料・お菓子など)を、価格以外の購買動機については生鮮食品(肉・魚・野菜など)をそれぞれ対象として設問を設けており、本稿もその構成に沿って紹介する。

値上げに対する反応

まず、普段購入している食料品が値上げされた場合に、生活者がどのような行動をとるのかを尋ねた。
全体で最も多かったのは「より安価な別のメーカーの商品(スーパーの独自ブランドなど)に乗り換える」で41.7%にのぼった。やはり価格上昇に対しては、より安い代替品を探すという合理的な行動が真っ先に表れる。次いで「同じ商品でも、割安になる大容量パックを買うようにする」が29.2%、「値上げされても、そのまま同じ商品を買い続ける」が22.1%となった。なお、「その食品自体買うことを控える・やめる」という、カテゴリーそのものからの完全な離反層は7.0%にとどまっている。
ここでは、性年代別の回答傾向をみていく。まず、「その食品自体買うことを控える・やめる」というカテゴリー離反層は全体で7.0%だが、男性20代13.1%、女性20代13.3%と、20代では全体平均の約2倍にのぼる。20代でも最も多いのは乗り換え(男性39.4%、女性40.6%)だが、他年代と比べると、値上げをきっかけに買い控えを含むカテゴリー自体から離れる層が相対的に厚い点に注意が必要である。
次に、値上げ後も同じ商品を継続する行動について、性年代別にみていく。「値上げされても、そのまま同じ商品を買い続ける」と「同じ商品でも、割安になる大容量パックを買うようにする」を合わせた割合は、男性では20代47.5%、40代47.2%、60代51.1%と、おおむね5割前後で推移しており、年代による差は小さい。一方、女性では20代46.1%、40代54.6%、60代60.1%と、年代が上がるほど同じ商品を継続購入する割合が高まる傾向がみられた。
その内訳をみると、女性60代では「値上げされても、そのまま同じ商品を買い続ける」が37.6%と全層で最も高かった。また、女性20~30代では「同じ商品でも、割安になる大容量パックを買うようにする」が34.4~35.6%となり、値上げ後も買い方を工夫しながら同じ商品を選び続けている。女性では、若年層はより割安な買い方への切り替えによって、高い年代では、同じ商品を継続する傾向が表れている。
こうした違いの背景には、性別そのものだけではなく、食料品の購入や調理に関わる頻度、特定の商品を使用してきた期間など、カテゴリーへの関与の蓄積が影響している可能性がある。食料品の購入や調理に関わる機会が多いほど、味や品質に対する知見や馴染みの味や商品などのこだわりもある。また、代替商品を探す手間や、馴染みの商品との味・品質の違いへの許容、自分自身や家族など実際に口にする人の好みに合わせる工夫なども生じる。そのため、商品を切り替えること自体の負担が大きくなることから、値上げが発生しても同じ商品を継続して購入する可能性がある。今回の結果は、食料品カテゴリーへの関与や商品使用経験の蓄積量によって、値上げ時の商品選択が異なる可能性を示している。ただし、本調査では購入や調理への関与頻度を直接尋ねていないため、これは結果を説明する一つの仮説として捉える必要がある。食料品への関与の度合いや、商品を切り替える際に感じる負担を捉えることが、値上げ後も同じ商品が選ばれる背景を理解する手がかりになると考えられる。

図1:値上げ時の行動変化|性年代別(%)

出所)NRI インサイトシグナル調査(関東1都6県における満15~69歳の男女個人、2026年7月、n=2,988)

許容できる値上げ幅

前節でみたように、生活者のうち約4割が値上げ時に別ブランドへ乗り換えると回答した。一方、約2割は同じ商品を買い続け、約3割は大容量パックへの切り替えなど買い方を工夫すると回答した。では、生活者にとって、心理的な許容ラインはどの程度の値上げ幅なのだろうか。ここでは全生活者を対象に、許容できる値上げ幅を尋ねた。
最も多かったのは「5~10%未満」で50.7%と過半数を占めた。「他の安価な商品を選ぶ(一切許容しない)」は16.7%であり、裏を返せば83.3%の生活者は、5~10%未満の値上げであればこれまで通り使い続けると回答している。
ただし本設問は「どこまでなら使い続けるか」という許容の上限を尋ねたものであり、10%を超える値上げまで許容する層は32.6%にとどまる。つまり生活者の許容ラインは10%を境に大きく変わるといえる。
なお「一切許容しない」層を性年代別でみると、男性は20代19.4%から60代15.7%までほぼ横ばいで推移するのに対し、女性は20代23.9%、30代22.0%と若年層では男性を上回るものの、40代12.2%、60代9.8%へと大きく低下し、40代以降は男性を下回る。
この結果は、生活者が値上げを感情的に全否定しているわけではなく、一定の範囲内であれば冷静に受け止めていることを示している。一方で、一度の改定で10%を超えると許容層は3割台にまで落ち込む。改定幅の設計においては、この水準が一つの現実的な目安になると考えられる。

図2:許容できる値上げ幅|性年代別(%)

出所)NRI インサイトシグナル調査(関東1都6県における満15~69歳の男女個人、2026年7月、n=2,988)

納得できる値上げ理由・対応

このように、生活者は一定幅までの値上げであれば受け止める余地をもっている。では、コスト上昇局面において、企業はどのような対応をとれば生活者の納得を得られるのだろうか。ここでは加工食品(調味料やお菓子など)を対象に、値上げに踏み切る場合だけでなく、価格を据え置くために仕様を変更する場合も含めて尋ねた。
選択肢としては、価格を据え置く対応(包装の簡素化、内容量の減少)、価格を上げる対応(理由の説明、品質向上、使い勝手の向上、環境配慮)、そしてどのような対応でも許容しない、の計7つを用意した。この中で最も支持を集めたのは「個包装をなくすなど、包装を極力シンプルにして価格を据え置く」(36.5%)であり、次いで「商品に特段の変更はないが、値上げの理由がきちんと説明された上での値上げ」(24.7%)、「添加物を減らすなど、中身の品質が良くなった上での値上げ」(9.7%)、「パッケージや品質は変えず、価格を据え置くために内容量を少し減らす」(9.2%)と続いた。なお「どのような対応・理由であっても許容しない」は9.9%であった。
包装の簡素化が最も支持を集めた背景には、価格を据え置いている影響も大きいと思われるが、同じように価格据え置きである「内容量を少し減らす」(9.2%)とは大きな差となっている。価格を据え置いたまま内容量を減らす手法は、一般に「ステルス値上げ」と呼ばれ、実質的な値上げにあたる。本設問では内容量が減ることを明示した上で尋ねているため、生活者が「知った上でどう評価するか」を捉えたものといえる。その上でなお支持が9.2%にとどまった点は、この手法の受容度の低さを示している。少なくともコスト上昇局面においては、そうした手法よりも、企業が目に見える形でコスト削減努力を示す姿勢のほうが、生活者に好ましく受け止められていることが読み取れる。
ただし、この構図には年代による例外がある。「内容量を少し減らす」を選んだ割合は、女性60代が15.0%、男性60代が13.1%と、いずれも全体平均9.2%を大きく上回る。60代を「品質に厳しくステルス値上げを嫌う層」と捉えるイメージとは異なり、この層はむしろ手段を問わず価格が据え置かれることを重視している可能性がある。実際、「包装の簡素化」と「内容量の減少」を合わせた価格据え置き志向は女性60代57.8%、女性40代54.6%、女性50代52.7%と高く、全体平均45.7%を上回る。
性年代別に、支持される納得できる値上げ理由・対応の内容も分かれている。女性40~60代は「包装の簡素化」への支持が42.8~46.5%と特に高く、中身の品質や量を落とすよりも、過剰包装をやめるという目に見える形での企業のコスト削減努力を評価している。一方、「値上げの理由がきちんと説明された上での値上げ」を選んだ割合は男性50代30.0%、男性30代28.0%、男性40代27.8%と高く、女性40代の19.2%とは10ポイント以上の差がある。ただし男性20代は20.6%と低く、この傾向は男性全般というより30~50代の男性に強くみられる特徴である。目に見えるコスト削減の上での価格維持を評価する層と、「なぜ値上げをするのか」という論理的な説明を求める層とが並存しているといえる。

図3:納得できる値上げ理由・対応|性年代別(%)

出所)NRI インサイトシグナル調査(関東1都6県における満15~69歳の男女個人、2026年7月、n=2,988)

価格差を埋める購買動機

ここまで、値上げ時の行動、許容幅については食料品全般を、納得できる値上げ理由・対応については加工食品を対象にみてきた。加工食品は包装や内容量の調整といった企業側の対応余地が大きいのに対し、生鮮食品は商品そのものの差別化が難しく、生活者の選択基準も異なると考えられる。そこで最後に、生鮮食品(肉・魚・野菜など)に対象を移し、多少高くても特定の商品をあえて選ぶ理由を尋ねた結果を紹介する。
全体では「国産や地元の産地であり、安心感があるから(29.8%)」が最上位となり、次いで「形が不ぞろいなどの理由で、品質が良いのに通常より少しお買い得になっているから(26.5%)」が続いた。「鮮度が良く、長持ちして無駄なく使い切れるから」は15.6%、「骨抜きやカット済みなど、調理の手間が省けるから」は9.9%であった。「理由は気にせず、とにかくその日一番安いものを選ぶ」という価格最優先の層は18.2%にとどまっている。なお本設問は「多少高くても買う理由」を尋ねたものであり、この選択肢はそもそも価格以外の理由を重視しない層として位置づけられる。
この価格最優先層の分布に、今回の調査で最も特徴的な結果が表れた。性年代別にみると、男性は20代26.9%、30代20.1%、40代22.0%、50代19.5%、60代22.7%と、全年代を通じて19.5~26.9%の範囲に収まる。これに対し女性は20代27.8%、30代15.5%、40代13.2%、50代10.7%、60代5.2%と、年代が上がるにつれて大きく低下する。20代時点では男女ともに27%前後でほぼ差がないにもかかわらず、60代では男性22.7%に対し女性5.2%と、4倍以上の開きが生じている。
同様の傾向は他の項目にも表れている。「国産や地元の産地であり、安心感があるから」は、男性が20代28.1%から60代27.5%までほぼ横ばいであるのに対し、女性は20代23.3%から50代37.2%、60代41.0%へと大きく上昇する。「許容できる値上げ幅」でみた「値上げを一切許容しない」割合の男女差も、この構図と重なる。
つまり、食料品の価格に対する厳しさは、若年層に固有のものでも、特定の性別に生来備わったものでもない。20代の時点では男女ともに価格を最優先する層が3割近く存在し、そこから年代を重ねるにつれて、一方では価格以外の判断軸が加わっていき、もう一方では価格中心の判断が維持される。この違いは、日常的に食材を選び、調理し、その結果を確かめるという経験の蓄積量の差を反映していると考えられる。関わる頻度が低いほど、商品の違いを見分ける手がかりが乏しく、価格が最もわかりやすい比較軸として残りやすい。今回のデータに表れた男女差は、性別そのものというより、こうした関与度の差の表れとみるのが一因と考えられる。なお、価格に対する態度は、所得水準とも関連すると考えられるが、同じ60代であっても「その日一番安いものを選ぶ」割合が男性22.7%、女性5.2%と対照的であるように、同一年代内で大きな差がみられることは、価格への態度が所得水準だけで決まるものではないことを示唆している。
また、「形が不ぞろいでお得な“訳あり品”」を選ぶ割合にも意外な結果がみられた。フードロス削減の文脈で若年層に浸透しているという印象があるが、実際に高いのは女性60代34.1%、女性40代31.6%、女性50代30.5%、男性60代29.7%であり、最も低いのは男性20代(16.9%)である。とりわけ男性60代は、「一番安いものを選ぶ」22.7%と「訳あり品」29.7%を合わせて5割を超え、価格・お得感への反応が全層で最も強い層といえる。
先にみたとおり、20代は「その日一番安いもの」を選ぶ層が27.4%(男性26.9%、女性27.8%)と全年代で最も高く、全体18.2%の約1.5倍にあたる。価格に対して最も厳しい層といえる。ただし、それは価格以外の理由がまったく効かないことを意味しない。
20代の回答を全体と比べると、「国産や地元の産地であり、安心感があるから」は25.6%(全体29.8%)、「形が不ぞろいでお得」は18.5%(同26.5%)と、産地の安心感や売り場でのお得感はいずれも全体を下回る。とくに訳あり品は8ポイント低い。「鮮度が良く、長持ちして無駄なく使い切れるから」は15.6%と、全体と同じ水準にとどまる。
一方で「骨抜きやカット済みなど、調理の手間が省けるから」は12.9%(同9.9%)と全体を3ポイント上回り、60代(男性6.1%、女性5.8%)と比べれば2倍以上の水準である。5つの選択肢のうち、価格以外で20代が全体を上回るのはこの項目だけである。
つまり20代は、価格に最も厳しい一方で、上乗せ分を払う理由になりうるのは産地や鮮度といった品質軸ではなく「手間が省けること」である。金銭的なコストと時間的なコストの両方を天秤にかけているという意味では、合理的な判断といえる。ただし差は3ポイントであり、手間の訴求だけで価格差が埋まるわけではない点には留意が必要である。
男女差もみられる。女性20代は「一番安いもの」27.8%と「調理の手間」13.9%がいずれも全層で最も高く、価格と時間の両面で最も厳しい層である。一方、男性20代は先にみたとおり「形が不ぞろいでお得」が全層で最も低く、値引きや訳あり品といった売り場でのお得感には反応しにくい。同じ20代でも、安さの受け取り方は異なっている。
こうしてみると、同じ「安さ」でも二つの性格があることがわかる。理由を問わず最も安いものを選ぶことと、品質は良いのに形が不ぞろいで安いという「理由のある安さ」を選ぶことは、意味合いが大きく異なる。前者は20代が27.4%と最も高く、女性60代が5.2%と最も低いのに対し、後者は女性60代34.1%が最も高く男性20代16.9%が最も低い。両者はきれいに反転しており、価格訴求といっても、単に安いことを伝えるのか、なぜ安いのかを伝えるのかで、届く層は変わってくる。
全体でみれば、「理由は気にせず一番安いものを選ぶ」層は18.2%にとどまり、8割の生活者は何らかの理由を挙げている。しかしその理由は、性年代別により大きく異なる。女性50~60代は国産や訳あり品といった品質・お得感に理由を見出すのに対し、20代では価格最優先が3割近くを占め、それ以外では手間の削減が相対的に効く。「安ければ何でもよいわけではない」という前提は共通していても、何が価格差を埋めるのかは層ごとに別物であり、単一の訴求ですべての層に届くわけではない。

図4:高くても特定の商品を買う理由|性年代別(%)

出所)NRI インサイトシグナル調査(関東1都6県における満15~69歳の男女個人、2026年7月、n=2,988)

対象により異なる納得のつくり方

ここまでみてきたように、値上げに対する反応も、納得を得やすい対応も、性年代別や行動・思考傾向などの層によって相当に異なっている。今回の結果を整理すると、おおむね次のような違いが浮かび上がる。
若年層(20代)は、値上げに際してカテゴリーそのものから離れる層が13%台と全体平均7.0%の約2倍にのぼり、生鮮食品でも「一番安いもの」を選ぶ層が27.4%と全年代で最も高い。価格に最も厳しい層である。
ただし、上乗せ分を払う理由がないわけではない。産地の安心感や訳あり品のお得感は全体を下回り、鮮度も全体と同水準にとどまる一方、「調理の手間が省ける」は12.9%と全体9.9%を上回る。この層に対しては、品質の良さを訴えるよりも、手間や時間をどれだけ減らせるかを具体的に示すことが、価格差を埋める手がかりになりうる。なお、値上げ幅の許容度をみると、男性20代では最も高い区分である「50%以上でも使い続ける」が6.3%と全層で最も高く、こだわる商品には価格を問わずついていく層も一定数存在する。
男性40~50代は、安価な代替品への乗り換え率が43.1~47.1%と全層の中でも高い水準にある一方、「値上げの理由がきちんと説明された上での値上げ」への評価も27.8~30.0%と高い。価格改定の背景を丁寧に開示することが、この層の納得につながる可能性がある。
女性30代は値上げを一切許容しない層が22.0%と女性40代の約1.8倍に達する一方、大容量パックへの切り替えは35.6%と全層で最も高い。価格には厳しいが商品は変えたくないという緊張を、買い方の工夫で解消している。容量の選択肢を広げることが、この層のブランド離れを防ぐ手がかりとなりうる。
女性40~50代は、包装の簡素化のように目に見える形でのコスト削減努力への評価が高く、また国産や訳あり品といった価格以外の価値も重視する。商品そのものは変えずに、企業努力を可視化する方向が受け入れられやすいと考えられる。
60代は、加工食品においては男女とも価格の据え置きを強く求める。大容量パックへの切り替えは20.1~22.5%と他年代より低い一方、「価格据え置きのための内容量減」への支持は男性13.1%・女性15.0%と全体平均9.2%を上回る。世帯人数や保管スペースの制約が背景にあると推察され、この層には大容量化よりも、小容量化と価格維持を組み合わせる方向が受け入れられやすい可能性がある。
ただし生鮮食品では、同じ60代でも男女の姿が大きく分かれる。男性60代は価格・お得感への反応が全層で最も強い一方、女性60代は「一番安いもの」が5.2%と全層で最も低く、「国産・安心感」41.0%が全層で最も高い。価格の据え置きを求める点では共通していても、上乗せ分を払う理由の有無は男女で対照的であり、訴求の設計は分けて考える必要がある。
同じ「値上げ」であっても、納得を得るための手段は層によって、時に正反対になる。商材ごとに主要な購買層が異なることを踏まえれば、価格改定の方法や商品仕様の見直しもまた、ターゲットに応じて設計する余地があるといえよう。

【結び】

今回の調査からは、食料品の値上げに対して、生活者が必ずしも価格だけで動いているわけではないという、消費者の意識や購買行動の実態が浮き彫りとなった。
値上げに対する反応は、性別や年代によって明確に分かれた。特に女性40~60代は、値上げされても慣れ親しんだ商品を使い続けようとする傾向が強い。ただし、その違いを生んでいるのは性別や年代そのものというより、そのカテゴリーとどれだけ深く関わってきたかという経験の蓄積であると考えられる。関わりが深いほど、価格以外の判断軸が育ち、値上げを受け止める幅も広がる。逆にいえば、価格しか手がかりがない状態に置かれた生活者は、価格だけで判断せざるを得ない。
原材料費などのコスト上昇が今後も避けられない環境下において、生活者の納得を得る鍵は、単に値上げ幅を抑えることだけにあるのではない。価格以外に何を判断の手がかりとして届けられるか、そして企業の姿勢をどう見える形にしていくかにある。今回の結果は、値上げが必ずしも顧客離れに直結するわけではないこと、そして納得を得やすい伝え方には層ごとに一定の傾向があることを示している。生活者が価格と価値のバランスをどこに見出しているのかを丁寧に捉えていくことは、企業と生活者が信頼関係を築いていくための重要な手がかりとなるだろう。

【ご参考】調査概要

■調査名 「NRIインサイトシグナル調査」
■実施時期 2026年7月
■調査方法 インターネット調査
■調査対象 関東1都6県における満15~69歳の男女個人
■有効回答数 2,988人
■主な調査項目 商品の購入状況、利用状況、商品ブランドイメージ、企業イメージ
商品の広告認知、広告好感度、広告メッセージ認知
生活価値観、消費価値観、イノベータ度、就業状況
各種インターネットサービス利用状況
食料品値上げ時の反応、値上げ許容幅、納得する値上げ対応、高くても特定の商品を買う理由 等
基本属性

食料品の値上げに対する生活者の意識と行動

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執筆者情報

  • 執筆者
    木村 理紗子
    部署
    マーケティング戦略コンサルティング部
    所属・職名
    コンサルタント
  • 執筆者
    林 裕之
    部署
    マーケティング戦略コンサルティング部
    所属・職名
    チーフコンサルタント
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