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2020年のテレワークを総括する

~日本の就業者のうち2,000万人近くがテレワークの対象者に~

2021/02/05

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概要

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の年として記憶されるだけでなく、世界的にテレワークの利用が急拡大したテレワーク元年でもあった。2019年には8.4%でしかなかった日本のテレワーク利用者比率が、野村総合研究所(NRI)のアンケート調査によると、2020年5月には40%近くにまで拡大し、12月時点でも29%がテレワーク対象者だ。人数にすると、日本のテレワーク対象者は12月時点で2,000万人弱であり、さらに約420万人が1年間を通じて120日以上テレワークをしたヘビーユーザーということになる。
テレワークへの支障感は2020年5月がピークでその後減少しているが、12月時点でもテレワークで仕事上の不安やストレスが強まると答えている人は32%いる。どのような人がテレワークのマイナス面(およびプラス面)を感じているのか、組織コミットメントの視点から分析すると、規範意識が強い人ほどテレワークのマイナス面を感じているのに対して、組織への愛着が強い人は、テレワークのマイナス面の認識が小さいだけでなく、テレワークのプラス面を強く感じる傾向があることがわかった。簡単に言い換えれば、「今の組織に愛着はあるが、規範にはあまりこだわらない」というマインドの人ほどテレワークの効果を最大限に享受しているのである。

日本のテレワーク対象者が2,000万人近くに

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の年でもあると同時に、世界的にテレワークが拡大したテレワーク元年でもあった。野村総合研究所(NRI)は2020年にテレワークに関するアンケートを複数回実施し、日本におけるテレワーク状況を調査した。まず新型コロナ感染拡大前、つまり2019年時点のテレワーク実施者比率については、8.4%(総務省、2019年9月時点)という数字がある。それに対して、NRIが2020年に実施したアンケート調査によると、2020年3月にはその比率が16%、緊急事態宣言中の5月には39.3%へと急激に拡大した。そして緊急事態宣言が明けた同年7月には、この比率が30.8%にまで低下し、12月には29.4%となっている(図表1)。これを人数に換算すると、5月時点では約2,600万人がテレワーク対象者となり、その後数は減っているものの、12月時点でも2,000万人弱が依然としてテレワーク対象者であることを意味している。

2020年12月の数値については注意が必要だ。2020年12月のアンケート調査によれば、就業者の29.4%が自身はテレワーク対象者だと答えているが、そのうち7.3%は、足元1か月間にテレワークを行っていないと回答している(図表1の右図)。つまり12月時点のテレワーク対象者は29.4%いるが、実際に利用した人の比率は22%ということになる。
2021年1月には首都圏をはじめとして再び緊急事態宣言が発出されたことから、テレワーク実施者比率はさらに上がっている可能性があるが、これまでの調査結果を見ると、日本においてテレワークが現実的に可能な就業者の比率は30%近辺だとみている(2020年7月、12月の数値より)。コロナ禍が完全に収束したあとも、多くの企業・組織でテレワーク制度は残り続け、30%近い人々は引き続き権利としてテレワークの対象者となるが、実際の利用者比率(あるいは利用頻度)はもっと低くなるというのがありうるシナリオではないだろうか。

年間120日以上もテレワークした人は420万人に

次にテレワークの利用頻度を見てみよう。図表2を見ると、テレワーク対象者ではあるが全く利用しなかったという人も4.4%いる。逆に120日以上、つまり年の3分の1以上テレワークをしたという人も21.3%存在していて、人数換算すると420万人となる。これだけの数のテレワークヘビーユーザーが生まれたのだ。

次に図表3をご覧いただきたい。通勤時間(片道)15分未満という層を除けば、通勤時間の長い人ほど1年間のテレワーク延べ日数が多い傾向にある。通勤時間が長い人ほどテレワーク利用で自由に使える時間が増えるから、これは当然の結果と言えるだろう。通勤時間(片道)が1~1.5時間未満の人を見ると、27%がテレワークのヘビーユーザーである。通勤時間15分未満でもテレワークのヘビーユーザーが多い(35%)のは、個人事業主など自宅の一部をオフィスにしている人がここに含まれているからであろう。

テレワークによって増えた「可処分時間」は1人当たり年90時間

テレワークによって「浮いた通勤時間」は1年間でどのくらいになったのだろうか。本稿ではこの時間を「可処分時間(自分が自由に使える時間)」と呼びたいと思う。2020年12月のアンケート結果を用いた推計によると、日本全体で17億7,500万時間、これをテレワーク利用者1人当たりに換算すると、年間90時間という結果になった。ちなみに120日以上テレワークした人に限って言えば、1人当たり年間180時間の可処分時間が増えたという計算になった。
テレワークは、特定の空間(オフィスなど)に依存せず働くことができるという意味で、空間の解放の象徴であるが、日本人のように通勤時間が長い国民からすれば、時間を解放してくれる存在でもある。デジタル技術は、空間を解放するだけでなく時間の解放、すなわち我々が自由に使える時間(可処分時間)を増やしてくれる存在でもある。たとえば自動運転車が普及すれば、これまで運転に集中していたドライバーは、移動中に好きなことができる。あるいは、オンライン診療がより普及すれば、病院の待ち時間も大幅に短縮される可能性がある。NRIの調査によれば、テレワーク利用によって70%の人が「子供と会話する時間」が長くなり、69%の人が「家事や暮らしにかける時間」が長くなったと答えている。また余暇時間が長くなったと答えた人も48%いて、可処分時間の増加によるあらたな余暇需要が生み出されているのである。

テレワークの支障感は5月をピークに低下

テレワークは通勤をなくし、子育てや介護との両立や、自分が主体的に時間の使い方を設計できるというようなメリットが指摘されている反面、同僚・顧客とのコミュニケーション減少による仕事の効率低下や、孤独さからくる不安やストレスの増大などデメリットも指摘されている。
NRIの調査では、緊急事態宣言を受けて、否応なくテレワークが導入された2020年3月時点では、半数以上の51.5%が何らかの支障を感じている(かなり感じている10.9%+やや感じている40.6%)。これが5月になると59.4%にまで増えるが、5月をピークにこの比率は低下し、7月には46.5%、12月には42.9%にまで下がる(図表4-1)。逆に、テレワークに「まったく支障がない」人の比率は徐々に増加し、12月時点では21.2%にまで増えている。さらに図表4-2で示しているように、テレワークの延べ日数が多い人ほど支障を感じていない人の比率が高く、テレワークの習熟効果が出ている可能性がある(注:それに加えて、5月時点でテレワークの支障がどうしても解消できないという人が、テレワークをしなくなったことで、集計結果から外れ見かけ上支障感が低下したという可能性もある)。

テレワークのプラス面を引き出しながらマイナス面をいかに減じていくかが課題

テレワークのプラス/マイナス面はどの程度認識されているのだろうか。2020年12月のアンケート調査によると、プラス面が特に評価されているものとしては、「テレワークによって主体性の感覚が強まった」(32%、そう思う+ややそう思う、の比率)、「仕事の満足度が高まった」(30%)、「仕事のパフォーマンスが上がった」、の3つが大きい(図表5-1)。

他方、テレワークのマイナス面の認識を見ると(図表5-2)、「テレワークで仕事上の不安やストレスが強まる」が32%(そう思う+ややそう思う)で最も高く、「出勤へのプレッシャーを感じる」(25%)、「テレワークをしていると罪悪感がある」(18%)が続く。ただしマイナス面の認識については、「そう思わない」と明確に否定する人の比率も20~33%と比較的高く、相対的に言えば、マイナス面の影響はプラス面よりも小さいと言えそうだ。今後の課題は、テレワークのプラス面を最大限引き出しながら、マイナス面の影響をいかに最小にしていくか、ということになる。

「今の組織に愛着はあるが、規範にはあまりこだわらない」という人がテレワークの効果を最大限に享受

それでは、どのような人がテレワークのプラス面/マイナスを感じているのだろうか。2020年12月にNRIが実施したアンケートでは、テレワーク利用者に、テレワークによる支障の有無やプラス面/マイナス面の認識(図表5-1、5-2)、さらにITスキルや組織へのコミットメントなどについても聞いているため、それらの回答結果を多面的に分析してみた。
まず分析したのはITスキルとの関係である。ITスキルが高い人ほど、特にテレワークのプラス面を享受しているのではないかという仮説であるが、結論を言うとITスキルの高低と、テレワークのプラス面/マイナス面の認識は関係がなかった。裏返すと、ITスキルが低い人でも、スキルが高い人と同じくらいテレワークのプラス面/マイナス面を感じていた。
次にアプローチしたのが、従業員の「組織コミットメント」という概念だ。組織コミットメントとは、組織心理学などで用いられる概念で、組織のメンバーが、所属する組織に対してどの程度コミットしているのかを、「情緒的コミットメント(AC)」「継続的コミットメント(CC)」「規範的コミットメント(NC)」の3つから理解するフレームワークである。ここでの仮説は、組織コミットメントが強い人ほど、半強制的に導入されたテレワークに対しても前向きに対処できるはずだから、その結果テレワークのプラス面をより認識し、マイナス面については逆に感じることが少ないのではないか、つまりテレワークの恩恵を最大限享受しているのではないか、というものだ。
なお、情緒的コミットメント(AC)とは、組織に対する従業員の感情的な愛着や組織との同一性の度合いを意味する。継続的コミットメント(CC)とは、従業員が組織を離れることに関連するコストに基づいたコミットメントを指す。離職・転職にかかるコストが高いので現在の組織に居続ける必要がある、という類のコミットメントである。そして規範的コミットメント(NC)とは、「忠臣は二君に仕えず」といった規範的な価値観の強さで、組織への愛着や必要性とは関係なく、現在の組織にとどまらなければならない、規範には従わなければいけないという義務感を指している(図表6)。

NRIは、2020年12月に行ったアンケート調査で、回答者の組織コミットメントを測るための質問もしている。全部で24問からなり、回答者が所属する組織(企業等)に対して、どのくらい情緒的コミットメント(AC)、継続的コミットメント(CC)、規範的コミットメント(NC)があるのかを、1から5のスケールで計算した。数値が大きいほどコミットメントが強いことを意味する。またテレワークのプラス面/マイナス面の認識度についても、図表5-1、5-2で示した10個の設問に対する回答を、「そう思わない=1」から「そう思う=5」までのスケールで単純平均し、各人の認識度をスコア化した。
次に、組織コミットメントの強さが、テレワークのプラス面/マイナス面の認識にどのような影響を及ぼしているかについて重回帰分析した。主要な結果だけを図表7に示す。図表中の数値は、3つのコミットメントがテレワークのプラス面/マイナス面の認識に及ぼす影響の大きさ(と方向性)をあらわしている。
まず図表7の左半分をご覧いただきたい。主体性が高まる、仕事の満足度が高まるなどテレワークのプラス面の認識への影響だが、情緒的コミットメント(AC)だけがプラスの影響力をもっていた。具体的には、情緒的コミットメント(AC)が1ポイント高くなると、テレワークのプラス面の認識度が0.22ポイント高まるのである(注:それぞれ1~5のスケールの数値である)。言い換えれば、組織への愛着が強い人ほどテレワークのプラス面を認識しやすいことになる。
次に図表7の右半分をご覧いただきたい。テレワークのマイナス面の認識(不安やストレスが強まる、罪悪感を持つ)だが、情緒的コミットメント(AC)が負のインパクトを、規範的コミットメント(NC)が正のインパクトを持っていた。組織への愛着が強い人ほどテレワークのマイナス面は感じにくいが、「忠臣は二君に仕えず」のような規範意識が強い人ほど、テレワークのマイナス面を感じやすいのである。規範的コミットメントが1ポイント高くなると、テレワークのマイナス面の認識度も0.56ポイント高まる。これは理にかなっているだろう。規範的コミットメントでいうところの「規範」には、仕事とは朝から晩まで物理的な事業所に出社して、同僚と一緒に働くことである、という規範も含まれているはずだからだ。そういう意識が強い人ほど、一人で自宅にこもり仕事をするということに対する違和感、不安、ストレスは強くなるはずだ。

図表7の結果は、組織コミットメントが高い人ほどテレワークのプラス面をより感じ、マイナス面はより感じなくなる、というような単純な図式ではないことを示している。組織に対する愛着、つまり情緒的コミットメント(AC)が高い人は、確かにテレワークのプラス面をより感じるだけでなく、マイナス面をより感じない、という理想的な立ち位置にあるのだが、規範的コミットメント(NC)が強ければテレワークのマイナス面が前面に出てきてしまうのだ。そうなると、テレワークの効果を最大限に享受できる人の姿も見えてくる。それは「今の組織に愛着はあるが(情緒的コミットメントは強いが)、規範にはあまりこだわらない(規範的コミットメントは弱い)」というマインドの持ち主である。
日本における年齢別の組織コミットメントの強さを最後に紹介しよう(図表8)。2020年12月のアンケート結果から計算した数値で、テレワークの利用有無にかかわらず、何らかの仕事をしている人全員を対象に計算している。数値は1から5のスケールで、数値が大きいほどコミットメントが強い。

まず情緒的コミットメント(AC)は、年齢が上がるほど強まる傾向にある。日本の場合は同一企業に就業し続ける人も依然として多いことから、年齢が高い人ほど、これまで勤めてきた組織に対する愛着が強まるということかもしれない。継続的コミットメント(CC)は、年齢問わず3つのコミットメントのなかで最も数値が高い。これが意味することは、日本人の組織に対するコミットメントは、愛着や義務感よりも必要性(needing)に最も準拠しているということである。60才以上でこの数値が下がるのは、シニアは働くことを通じて生きがいを得ることを第一の目的としている、ということかもしれない。
最も興味深いのは規範的コミットメント(NC)である。10代と60才以上でこの数値が最も高く、30代が一番低い。企業に長年勤めてきた60才以上の人々に規範が染みついているのは理解できるが、10代の規範コミットメントが同じくらい強いのである。考えられる解釈としては、日本の学校教育が仕事の規範面に与える影響力が強く、卒業したての人たちの規範意識が高くなるのかもしれない。30代の数値が最も低いのは、会社で10年近く働き続けると働き方に疑問がわくことも増えるだろうし、周囲の同世代の仲間が転職や起業などこれまでの規範外の行動を起こすのを見るなど、同一組織にこだわらない傾向が強まるのかもしれない。そして、先ほど述べた理想のテレワーカー像を年齢層から見ると、情緒的コミットメントは比較的高く、規範的コミットメントが低いという意味で30代が該当しそうである。
今後テレワークが日本で定着するかは、日本企業に対する情緒的コミットメントと規範的コミットメントの動向に依存する。働き方の価値観が揺らぎ多様な働き方が認められつつある現在、規範的コミットメントは徐々に低下していく可能性が高い。他方、日本企業に対する情緒的コミットメント、すなわち愛着が強まるかは、企業によって大きく差がひらくだろう。裏返せば、テレワークが成功しているかどうかに、社員の情緒的コミットメントの強さが現れている、ということかもしれない。

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    世界主要国のテレワーク状況については、森健「新型コロナウイルスと世界8か国におけるテレワーク利用」NRI、2020年12月18日、https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2020/cc/1218、を参照のこと

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    NRI 「在宅勤務活用による働き方・暮らし方の変化に関する調査」 (2020年7月)

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    Natalie J. Allen & John P. Meyer. “The measurement and antecedents of affective, continuance and normative commitment to the organization” Journal of Occupational Psychology (1990), 63, 1-18

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    設問は注iiiの論文に掲載されている24問を用いている。

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    被説明変数に「テレワークのプラス面認識度」もしくは「テレワークのマイナス面認識度」(いずれも1~5までの数値を取る)を、説明変数には、性別、年齢(10歳刻み)、個人収入、最終学歴、ITスキル、そして情緒的コミットメント(AC)スコア、継続的コミットメント(CC)スコア、規範的コミットメント(NC)スコアを用いている。誤差項の分散は均一、多重共線性もない。

執筆者情報

  • 森 健

    未来創発センター

    上席研究員

  • 林 裕之

    マーケティングサイエンスコンサルティング部

    主任コンサルタント

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