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コロナ禍により低下する消費者の生活満足度

~デジタル化推進が生活満足度の下支えになる~

2021/02/05

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概要

  • 野村総合研究所(NRI)では、消費者の価値観・行動変化を定期的に捕捉するため、毎年12月に日本人約3,000人を対象にしたインターネット調査「生活者年末ネット調査」を実施している。また今年度は新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の行動や心理状態に与える影響を把握することを目的として、2020年3月、5月、7月に同種のインターネット調査を実施しており、コロナ禍における消費者の価値観・行動変化の分析を行った。

  • 消費者の生活満足度は、長引くコロナ禍の中で、特に中高年層や女性中心に大きく低下している。しかし、コロナ禍においても、ネットサービスやアプリを活用したり、ITスキルを保有している人は日々の生活の利便性を高め、自粛要請の中でも日常生活を充実化させ、生活満足度を維持することができている。

  • ただし、高齢者中心にデジタル弱者はまだ多い。長引くコロナ禍の影響を加味し、一日も早く「誰一人取り残さないデジタル化」に向けた支援を行うことは、国民全体の生活満足度向上のためにも重要である。

今後の景気見通しは回復しているが、生活満足度は大きく低下

野村総合研究所(NRI)では、消費者の価値観・行動変化を定期的に捕捉するため、毎年12月に日本人約3,000人を対象にしたインターネット調査「生活者年末ネット調査」を実施している。また今年度は新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の行動や心理状態に与える影響を把握することを目的として、2020年3月、5月、7月に同種のインターネット調査を実施しており、コロナ禍における消費者の価値観・行動変化の分析を行った。
今後の景気や株価、家庭の収入の見通しについて、2019年の年末以降のコロナ禍では「悪くなる/下がる」と考える人が多く存在していたが、2020年年末ではそれらの見通しは回復傾向にある(図1)。特に株価については、2019年年末並みに回復しており、実際の景気実感は株価よりも遅れを取った形となっている。

一方で、消費者の生活満足度は低下の一途を辿っている。NRIでは人々の日常生活における満足度を、「満足している」「まあ満足している」「あまり満足していない」「満足していない」の4段階で継続した調査をしているが、2019年12月、2020年3月~7月、そして今回の12月調査で比較すると、2019年12月から3月にかけては満足度の傾向に変化は見られないものの、3月から5月にかけて生活満足者は減少(「満足している」(-2%)、「まあ満足している」(-11%))し、不満足者は増加(「あまり満足していない」(+5%)、「満足していない」(+9%))していた。そして、7月から12月にかけて生活満足度がさらに減少(「満足している」(-2%)、「まあ満足している」(-11%))し、不満足者は増加(「あまり満足していない」(+10%)、「満足していない」(+4%))していた。(図2)。

新型コロナウイルス感染拡大および緊急事態宣言の発令により、店舗等では休業を余儀なくされ、過去に無い生活自粛モードを余儀なくされた。健康や収入、雇用面での懸念等、先行きの見えない不安感に加え、長らく自粛生活が続くことで、生活満足度が後退してくるのはやむを得ないことである。本稿では、生活満足度が低下した人の傾向や、逆にこのような時期においても生活満足度が高い人の特徴について深掘りをした結果を紹介したい。

日本人の生活満足度傾向が大きく崩れる

4月の緊急事態宣言直前の調査(2020年3月)と2020年12月の調査について、性年代別に生活満足度の変化を分析したものが図3である。図3では「満足している」と「まあ満足している」を合わせた「満足計」として集計した数値を掲載している。

コロナ禍以前の日本人の生活満足度は、男性より女性の方が高く、また同性内では若年層および高齢層が高くなる「U字型カーブ」のグラフを描くのが、NRIの過去調査で明らかになっていた特徴であった。2020年3月調査でも、この特徴的な「U字型カーブ」を描いているのだが、2020年12月調査では「U字型カーブ」が崩れ、さらに男性と女性の差がほとんどなくなってしまった。コロナ禍は女性全般および男性60代の生活満足度を大きく低下させたのである。

対面コミュニケーションの減少と女性の生活満足度の低下

女性の生活満足度を大きく低下させた原因は何であろうか。まず性別問わず高齢者にとって、コロナ禍は生命の危険を感じさせるものである。また女性の非正規雇用者に大きなしわ寄せがいっているという指摘もある。我々は、これらの理由以外の側面として、コミュニケーションの変化に着目した。コロナ禍前と比較して、性年代別に傾向が大きく変化したのが、他者とのコミュニケーションであった。特に対面でのコミュニケーションは「コロナ禍以前より減った」と回答した割合が、女性全体および男性中高年層で高くなっている(図4)。そこで、コロナ禍によって他者との対面コミュニケーションが減った人と、そうでない人(変わらない、増えた)をわけて、生活満足度を性年代別に比較したところ、男性中高年層や女性全体で、対面コミュニケーションが減ったという人の生活満足度はかなり低いことが見て取れる(図5)。景気や株価では計れなかった生活満足度の減少要因として、他者とのコミュニケーションの減少が一定程度影響していることが推察される。

デジタル活用が進む人ほど生活満足度は高い

一方、他者とのコミュニケーションについては、コロナ禍によってZoom等のテレビ電話でのデジタルコミュニケーションが普及している。元々、仕事における電話会議として普及が広まっているため、若年層での利用が多いのだが、これらデジタルコミュニケーションを利用している人は、多くの年代において生活満足度が高くなる傾向が得られている(図6)。コロナ禍によって損なわれてしまった他者とのコミュニケーションは、デジタル活用によって、ある程度コミュニケーションの補完が可能となり、生活満足度の低下も抑える要素として期待できる。

上記はコミュニケーションを例にしたものであるが、このようなデジタルの活用度は、明らかに消費者の生活満足度の有無に影響している。図7左は、インターネット利用において用途の幅の広さと生活満足度の関係を示したもの、右はITスキルの程度と生活満足度の関係を示したものである。まず、インターネット利用用途において、特に使い道が示されておらずネットサーフィンに終始している人は、「満足していない」割合が特に高いが、ある程度の用途(ネットショッピングやSNSなど)を持ってインターネットを利用している人は生活満足度が高くなる傾向が示されている。また、ExcelやPowerPointなどの表計算やスライド作成のみではなく、Webにおけるイラスト作成や動画アップロード、Webサイト構築など含め、ある程度のITスキルを保有している人は生活満足度が高い。インターネットの利用用途やITスキルの幅が広い人ほど、自粛生活の中でも自宅にて日常生活を充実化させることができるのだと推察される。また、特にITスキルが高い人は、仕事においてもテレワークを実施するに当たり、ネットワーク接続上のトラブルへの対処や回避にも対応することができ、自宅にいながらストレスなく仕事に取り組めることから、より生活満足度が維持されやすくなると考えられる。

コロナ禍の1年間でデジタルサービスの普及は大きく進んだ

コロナ禍の1年間で、企業ではテレワーク対応等のデジタル化が大きく進んだが、消費者においても生活面のデジタル化は大きく進んできた。例えば、アマゾン・プライム、スポティファイ、DAZN(ダゾーン)、キンドル・アンリミテッドなどの「映像・音楽サブスクリプション配信サービス」については、2018年から2019年にかけては認知から利用までほとんど変化のないない状態であったが、この1年間で認知や利用意向だけでなく、実際の利用割合が大きく高まった(図8左)。また、ネットショッピングの増加にも寄与しているが、メルカリ等の「フリマアプリ」についても、この1年間で利用割合が進んだサービスである(図8右)。

さらにこれらのインターネットサービス利用は、消費者の生活満足度と相関性があり、生活満足度の高い人ほど、「映像・音楽サブスクリプション配信サービス」や「フリマアプリ」の利用割合や利用意向が高い(図9)。「映像・音楽サブスクリプション配信サービス」は外出自粛生活の中で余暇を楽しむことに寄与し、また「フリマアプリ」は外出せずともネット上ですべてのやり取りができ、消費者の買い物行動を支える一助になっていることが、生活満足度の維持に貢献しているものと想定される。

自粛生活を充実に過ごすためにデジタルを積極活用

2020年の生活者年末ネット調査では、ネットショッピングを利用した理由を自由記述により回答してもらった。共起ネットワーク分析により、自由回答の出現傾向を可視化したものが図10である。やはりコロナ禍による自粛生活のため買い物に行けなくなったことや、家にいる時間が増えたことから自然とネット利用が増えたことが理由として多く見られた。

中には、「自宅で過ごす時間が増えたので、仕事も出来るダイニングテーブルをネットで購入した。大きい家具を買うときは大抵現物を見に行くタイプだったが、外出自粛期間にショッピングに行けずオンラインで注文した。」といったように、自粛生活を充実化させる目的で、普段ネットショッピングでは購入しない家具までをネットで購入する人もいた。
また、「ウインドウショッピングが好きだったが、手早く買い物を済ますようになり、買い物=楽しみという感覚が無くなり、それを補う為にネットショッピングをするようになった。外食に行けない代わりに少し高級な食材やお菓子、自炊を楽しくする為に食器や調理器具を購入した。」などの回答も散見された。コロナ禍により以前の生活スタイルを送れなくなった人は多いが、その中でもデジタルを活用し新しい生活スタイルに柔軟に対応できた人は、自粛期間の中でも充実した生活を送ることができ、生活満足度が高かったのではないか。

デジタル格差の無い、より一層のデジタル化推進に向けた対応が求められる

デジタル活用が消費者の生活満足度を下支えしていることは明白であり、より一層のデジタル化推進はコロナ禍におけるニューノーマルな生活様式を取り入れる上でも必要不可欠な要素である。ただし、上記はデジタルを活用できる環境になって初めて恩恵を受けられるものであり、高齢者などのデジタル弱者の存在を忘れてはならない。
NRIが地方にて行ったヒアリング調査では、「地方の年金暮らしの高齢者は、ネット利用費として、毎月数千円がランニングコストとして発生することが家計負担として大きい。ネット回線を引くことが心理的にも敬遠され、最もデジタル化が進まない要因である。」などの切実な声を聴くことができた。このようなデジタル弱者の声は、ネットアンケートでは抽出することができず、2018年にNRIで実施した訪問留置式調査「生活者1万人アンケート調査」において70代のネットショッピング利用者が14%であることを踏まえると、高齢者においてはまだ多くの人がデジタル弱者であることが想定される。
シンガポールでは2020年5月から、高齢者のデジタルスキル向上促進のために「SGデジタルオフィス」を設置しており、2021年3月末までに高齢者10万人のデジタルスキル向上を目標として、高齢者向けデジタル支援計画「シニア・ゴー・デジタル」を展開している。アンバサダーによるデジタルスキルの指導支援だけでなく、シンガポールの主要移動体通信事業者は大容量データを低料金で使用できる専用特別料金プランを用意するなどの、デジタル環境の整備面でも支援策を取っている。
日本においても、主要移動体通信事業者各社が、従来よりも安価な料金プランを設定したことで話題になっているが、申し込みや故障対応などがオンライン限定であり、デジタル弱者にとっては、そもそも入口にすら立てない状況である。
2021年9月より「デジタル庁」が発足することが発表されている。「誰一人取り残さないデジタル化」を基本理念に据えられており、政府主導で高齢者を含めた社会全体のデジタル化推進が期待されるが、長引くコロナ禍の影響を加味し、低下する国民の生活満足度底上げのためには、9月を待たずに一日も早くデジタル弱者に向けた支援を進めていくことが求められる。

【ご参考】調査概要

調査名 「生活者年末ネット調査」
実施時期 2013年以降毎年12月に実施
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人
有効回答数 3,098人
主な調査項目 情報収集行動…情報収集の仕方・変化
コミュニケーション…親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識
就労スタイル…就労状況、就労意識
消費価値観…消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野
消費実態…オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計…景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み
調査名 「新型コロナウイルス感染拡大による生活への影響調査」
実施時期 2020年3月、2020年5月、2020年7月
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人
有効回答数 3,098人(3月)、3,945人(5月)、3,608人(7月)
主な調査項目 情報収集行動…情報収集の仕方・変化
コミュニケーション…親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識
就労スタイル…就労状況、就労意識
消費価値観…消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野
消費実態…外食、宅配、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計…景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み

執筆者情報

  • 林 裕之

    マーケティングサイエンスコンサルティング部

    主任コンサルタント

  • 森 健

    未来創発センター

    上席研究員

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