フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト レポート レポート一覧 コロナ禍収束にともなう「リベンジ消費」は限定的

コロナ禍収束にともなう「リベンジ消費」は限定的

~75%がコロナ禍以前の生活には戻らないと考えている~

2021/10/18

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

概要

  • 野村総合研究所(NRI)では、コロナ禍が収束した場合の生活者の消費価値観や生活行動を把握するため、2021年7月に全国18,800人を対象とした大規模インターネット調査を実施した。

  • ワクチンの接種状況と新型コロナウイルスに対する不安感について分析すると、両者の間には強い相関がある。新型コロナウイルスに対する不安がない人(9%)ほどワクチン接種に消極的であり、若年層ほどその傾向が強い。

  • コロナ禍が完全収束した際の消費意向をいくつかの項目で見ると、これまで抑制していた消費の反動、いわゆる「リベンジ消費」が起こる分野や規模は限定的と言えそうである。「国内旅行」は比較的支出意向が強いものの、5割近くが「コロナ禍以前の水準には戻らないだろう」と回答している。

  • 「コロナ禍以前の生活状態に完全に戻る」と考える人は25%しかおらず、75%は「完全には戻らない」と考えている。その理由を見ると、「オンライン化・デジタル化が浸透した今の生活様式に慣れた」、という意見が20%近くあり、コロナ禍でなかば強制された生活のデジタル化が、生活者の意識変容にもつながっていることがわかる。

  • 企業は、これまでの売り方のもとでの「リベンジ消費」を楽観的に期待すべきではない。むしろデジタル化が生み出した生活者の意識変容や、新たなニーズ(例:自宅での料理を楽しむ)をビジネスチャンスと捉え、「リベンジ需要」を狙うよりも「新需要」を開拓すべきである。

コロナウイルスへの不安とワクチン接種状況に明確な相関関係

野村総合研究所(NRI)では、コロナ禍が収束した場合の生活者の消費価値観を把握するため、2021年7月に全国の15~69歳の男女個人18,800人を対象とした大規模インターネット調査を実施した(調査概要は本レポート下部を参照。なお、性別・年代別に人口比で割り付けを実施)。
コロナ禍が収束した場合の消費意向は、新型コロナウイルスに対する不安感の程度やワクチン接種状況に左右されると想定される。そこで本調査ではワクチンの接種状況についても調査を行った。ワクチン接種状況を年代別に分析したものが図1である。2021年7月時点では、10代(15歳以上)~60代の全体で3割強の人が1回以上ワクチンを接種している状況であった。年代別には、60代では6割以上が1回以上接種、4割弱が2回目まで接種完了と進んでいるが、現役世代での接種がまだ進んでいない状況であった。また、「ワクチンを今後接種するつもりがない」と考える人は、若年層ほど多い結果となっている。なお、国立感染症研究所の「新型コロナワクチンについて(2021年8月5日現在)」(2021年8月13日掲載)によると、全年齢が集計対象となっているが、8月5日時点の1回以上接種率は46%、2回接種完了率は33%で、高齢者(65歳以上)については1回以上接種率87%、2回接種完了率80%であるいう。本調査は69歳までが対象であるため、実際の接種率より低い結果となっているが、図1においても60歳以上と60歳未満で接種状況に乖離があることから、7月時点では高齢者と現役世代との間で接種状況に大きな乖離があったことが伺える。

コロナへの不安感別に、ワクチン接種状況を分析したものが図2である。なお、不安を「とても感じる」人は全体の25%、「感じる」人は46%、「どちらでもない」人は20%、不安を「感じない」と答えた人は9%であった。
新型コロナウイルスに対して不安を「感じない」と回答している人ほど、ワクチン接種が遅れており、また「今後接種するつもりがない」と考える人も多い。ワクチンは高齢者が接種対象として優先順位が高かったことから、若年層への接種が遅れていたが、図1の結果と合わせてみると、若年層ほど新型コロナウイルスに対する不安感が高くなかったことも、接種が進みにくい要因であった想定される。また、ワクチン接種においてはTwitterなどで「不妊になる」「遺伝情報が書き換えられる」などの誤情報が出ていたことも、新型コロナウイルスではなくワクチン接種に対して過度な不安感があったものと想定される。若年層へのワクチン接種のためにワクチン供給体制を整えていくことも重要であるが、若年層に対して正しい情報を発信し、コロナ感染の危険性やコロナ感染後の生活への影響などの理解を促すことによって、ワクチン接種意向を高めていくことが重要である。

リベンジ消費は限定的か

本調査では、コロナ禍が完全に収束した場合を想定し、外食や旅行など各活動への支出意向がコロナ禍以前の水準まで戻るかどうか、ワクチン接種と意向への関係性を分析した。まず活動の全体傾向を示したものが図3である。例えば国内旅行については、「コロナ禍以前の水準よりもさらに多くする」「コロナ禍以前の水準に戻す」の合計が半数程度になるものの、それ以外の活動ではそれらの合計割合が4割強の水準であり、現在の自粛(制限された)生活のまま変わらないと回答した人が多い。「コロナ禍以前の水準よりもさらに多くする」と回答したのは、どの活動でも1割未満であり、リベンジ消費による経済活性化は限定的とみてよさそうだ。

ただし、ワクチンの接種状況によって、支出意向に差異が見られた。図4は国内旅行について、ワクチン接種状況別に支出意向を分析したものであるが、ワクチン接種が進んでいる人ほど、コロナ禍以前の水準に支出を戻したいという割合が高くなっている(47%がコロナ禍以前の水準に戻したいと回答)。つまりこれから1回目、2回目のワクチンを接種する人は、それに従って支出意向も高くなっていくことが予想される。
しかし支出が100%元に戻るかというと、それは難しそうである。図4の一番上の棒グラフを見るとわかるように、ワクチンを2回接種した人のなかでさえ、「コロナ禍以前の水準よりは少なくなる」と答えた人が17%、「今と変わらないままにする」(つまり、コロナ禍での水準から買えない)と答えた人が25%もいるからである。

また、国内旅行を再開する条件を複数回答で聞いたところ、「政府のコロナ禍完全収束宣言が出たら」という回答が49%で最も多く、特に新型コロナウイルスに対して不安感が高い人ほどこの回答が多かった(59%)。他方、「コロナ禍が収束していなくても自分や家族がワクチン接種していれば再開する」、と回答した人も32%いて、再開に積極的な人も一部にみられるが、日本全体としては安心が確約されることが消費活動の再開にとって重要である。

コロナ禍以前の生活に完全に戻ると考える人は少ない

コロナ禍後の生活全体の状況としても、「コロナ禍以前の生活に完全に戻る」と回答した人は25%にとどまっている(図5)。「ある程度はコロナ禍以前に戻るが、完全には戻らない」と考える人が、59%と圧倒的に多かった。また、ワクチンの接種が進んでいる人ほど、「生活が完全に戻る」と回答する人が若干(「2回目まで接種完了している」人は全体より+2%)多いものの、日本人全体としてはコロナ禍により生活意識、生活習慣面で不可逆的な変化が起こったと言えるだろう。

コロナ禍以前の生活に完全には戻らないと回答した75%の人に、その理由について自由回答形式で回答してもらった。その回答を、言葉の出現傾向として共起ネットワーク分析をしたものが図6である。コロナ禍が完全には収束するとは思えないと考える人が多く、またアフターコロナにおいても感染対策・予防の継続が必要だという意見や、新たな変異ウイルスが発生するなどの不安感を訴える声も挙げられた。一方、「今の生活様式に慣れてしまった」という意見も一定程度(後述するが、2割弱程度)存在している点が興味深い。

図5および図6の分析結果を構造化したものが図7である。コロナ禍以前の生活に戻らないと考える人は全体の75%存在し、その多くは現在(2021年7月時点)のコロナ感染爆発状況を見て、コロナ禍以前の生活に戻らない理由を、新型コロナウイルスが「完全に収束するとは思えないから」(41.1%)と考えている。
しかし、18.4%の人は、コロナ禍がきっかけとなりテレワークが推進されたことや、オンライン化・デジタル化によりコロナ禍以前の生活の無駄が排除された生活様式に慣れたことが、コロナ禍以前の生活に戻らない理由として挙げている。つまり日本人の2割弱は、コロナ禍で半ば強制された行動変容(生活のデジタル化)によって意識や価値観も変わってしまったということである。

具体的な内容として、「オンラインでできることがたくさんあることに気づいたので、例えば店舗へ出向いての相談など、オンラインで代替できることは今後も続けたい。」(40代)、「外食に頼らなくても自宅で料理を楽しめることが分かったし、オンラインで注文すれば便利に買い物できることも知ったので。」(50代)など、コロナ禍以前はネットサービスをあまり使っていなかったような世代の人が、コロナ禍をきっかけに使い始めてみてその利便性を実感できたことが大きい。
変異型が次から次へと生まれている中、コロナウイルスの完全収束は現実的ではなく、いわゆる「ウィズ・コロナ」の時代がまだ続きそうである。そのようななか、企業経営者は今までの売り方によるリベンジ消費を楽観的に期待すべきではない。むしろコロナ禍で進んだ生活のデジタル化によって、生活者の意識が変わり、新たなニーズが生まれたこと(例:自宅での料理を楽しむ)をビジネスチャンスととらえ、その新需要を獲得するためにも自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する必要がある。

【ご参考】調査概要

調査名 「日常生活に関する調査」
実施時期 2021年7月22日~2021年8月4日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人
有効回答数 18,800人
主な調査項目 新型コロナウイルスへの対応…新型コロナウイルスに対する不安感、ワクチン接種状況
アフターコロナの意識…コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
デジタル利用行動…保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
デジタルガバメント…デジタル公共サービス利用実態、地域のデジタル化実態
就労スタイル…就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向…消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計…理想の暮らし、直面している不安や悩み

執筆者情報

  • 林 裕之

    コンサルティング事業本部

    マーケティングサイエンスコンサルティング部

    主任コンサルタント

  • 森 健

    未来創発センター

    グローバル産業・経営研究室長

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn