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DCIにみる都道府県別デジタル度

~2021年は国内地域のデジタル格差が縮小~

2021/11/22

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概要

コロナ禍は経済や市民生活のデジタル化を急速に進めるきっかけとなったが、「どのくらいデジタル化が進んだのか」と聞かれると答えに窮する人も多いのではないか。日本のデジタル化はどの程度で、都市部と地方の間に差はあるのか、1年前と比べてどのくらいデジタル化が進み、どのような領域で特に進んでいるのか。野村総合研究所(NRI)はこれらの問いに答えるため、都道府県のデジタル度を定量的に評価するDCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)という指標を2019年に開発し、その後毎年推計を行っている。本稿では2021年7月時点に行った最新の推計結果を紹介するが、ほとんどの都道府県でDCIスコアが1年前から上昇している。特にこれまでデジタル化が遅れていた地方部の上昇度合いが大きく、結果として国内地域間のデジタル格差が縮小していることが判明した。スコア上昇の最大の要因はデジタル公共サービスであり、マイナンバーカードの取得やオンライン公共サービスの利用が、特に地方部で伸びていることが理由として挙げられる。

DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)

NRIは、日本の都道府県別のデジタル度を可視化するために、DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)という指数を2019年に開発した。国や地方自治体がデジタル政策を立案しその結果を評価するにあたっては、日本がどのくらいデジタル化されているのか、何が進んでいて何が遅れているのか、大都市圏と地方部ではデジタル化にどのくらいの差があるのかなどを可視化することが極めて重要だからだ。
DCIのもとになっているのは、欧州委員会(EU)が開発しているDESI(デジタル経済社会インデックス)である。DESIは、EU加盟国のデジタル度を5つの大項目から評価していて、国別のデジタル度が0~100で示されている(高いほどデジタル化が進んでいることを意味する)。DCIの推計方法の詳細については、『社会のデジタル度を可視化する:都道府県別のデジタル・ケイパビリティ・インデックス』(NRIレポート、2021年1月)をご参照いただきたいが、NRIが全国を対象に実施した「日常生活に関する調査」と公的統計を組み合わせて作成している。全部で70弱の項目からなり、大きくは図表1に示した4つの構成要素からなる。DESIと同じく最終的なスコアは0~100で示される。
アンケート調査は、2021年7月に全国の15歳~69歳までを対象にオンラインで実施、各都道府県について性年齢別割り付けを行ったうえで400サンプルずつを集め、日本全国で18,800サンプルとなった。

DCIの上位5都府県は東京都、神奈川県、埼玉県、京都府、愛知県

2021年の都道府県別DCIスコアを図表2に示す。上位には東京都、神奈川県、埼玉県といった首都圏が並び、4位には京都府、5位には愛知県がランクインしている。このように上位には経済規模が大きい都府県が並んでいるが、経済規模とDCIの順位がリンクしていない例もある。たとえば福井県や徳島県など経済規模がそこまで大きくない県がデジタル度では上位にランクインしていること、反対に広島県、千葉県など、経済規模の大きさに比べるとDCIが低い例もみられる。特に広島県は中国地方の他県と比較してもデジタル度が相対的に低い県となっている。

DCIの高低と地理的な分布の関係性をわかりやすくするために、DCIを高い順から単純に4区分して地図上に色分けしたのが図表3である。DCIが高い、すなわちデジタル度が最も高い第1グループは、首都圏から中京圏、京都、大阪と地理的にもつながっていて、その周辺に第2グループが存在する。第3グループはさらにその周辺にひろがり、第4グループは北海道・東北(宮城県を除く)と山口県、および九州の3県(大分県、熊本県、鹿児島県)が該当している。
DCIの4つの構成要素のスコアをグループ別にみると、すべての構成要素について第1グループのスコアが一番高く、第4グループのスコアが最も低い。そして第1グループと第4グループの差が最も大きいのは「コネクティビティ」である。コネクティビティには、有線・無線通信インフラの整備度に加えて、市民がPC、スマホ、タブレットなどの情報端末をどのくらい保有しているか(アンケート調査より把握)が反映されているのだが、2021年7月時点において、日本国内のデジタル格差が最も大きい領域は、コネクティビティということになる。

次に4つの構成要素別にスコアの高い上位10都道府県を見てみよう(図表4)。「ネット利用」の数値が最も高いのは神奈川(19.7)で、東京(17.7)、沖縄(17.0)、山梨(16.2)、埼玉(15.9)が続いている。沖縄県は2020年調査でもネット利用のスコアが高く、全国的に見て市民のネット利用が相対的に高い。「デジタル公共サービス」の数値が最も高いのは神奈川(22.9)で、埼玉(22.0)、愛知(21.5)、東京(21.3)と大都市圏が続く。ちなみにデジタル公共サービスのスコアは、多様なオンライン行政サービスが提供されているだけでなく、市民がそれを利用しているかについても考慮している。「コネクティビティ」の数値が最も高いのは、東京(21.4)で、神奈川(18.2)、埼玉(17.1)、愛知(17.1)、京都(16.8)が続く。最後に「人的資本」だが、東京(17.8)が最も高く、京都(16.6)、福井(16.5)、埼玉(16.4)、徳島(15.5)が続いている。これらの都府県の市民は相対的にIT・デジタルスキルが高いといえる。

2021年はほとんどの県でDCIスコアが上昇

次に1年前(2020年7月)から今回(2021年7月)へのスコア変化を見てみよう(図表5)。ご覧いただくとわかるように、ほとんどの県でDCIはこの1年間に上昇している(縦軸でプラスの領域)。DCIが下がっているのは東京都、広島県、千葉県、熊本県の1都3県だけである。今回のDCIランクで上位に入っている神奈川県、埼玉県、愛知県はこの1年間のデジタル化の進展が大きかった。そしてこの1年間で最もデジタル化が進んだのが宮城県であり、前回の46位から今回は24位へと順位を大きく上げている。
さきほど広島県のDCIが中国地方の他県と比べて低いことを指摘したが、図表5にあるように広島県以外の中国地方のDCIはこの1年間で上昇しているのに対して、広島県のスコアが停滞したことがその理由として挙げられる。このようなダイナミクスについても可視化できることがDCIの特徴である。DCIによって、ある時点における自県の相対的なポジショニングだけでなく、他県との相対的な変化スピードの比較も可能になる。

2021年は国内のデジタル格差が縮小

2021年は首位の東京都のDCIが微減したのと同時に、DCIの低かった地方部のスコアが大きく上昇した。その結果、図表6に示したように日本全体でみると地域間のデジタル格差は縮小したことになる。DCIの格差縮小に貢献した最大の要因はデジタル公共サービスだ。図表7にはDCIの構成要素別に見たスコアの変化を全国平均値で示しているが、ネット利用のスコアは変化なし、コネクティビティと人的資本はそれぞれスコアが1.4、1.8上昇、そしてデジタル公共サービスはスコアが3.3伸びている。

デジタル公共サービスが上昇した背景には、全国的にマイナンバーカードの取得・利用率が高まったこと、またオンラインの公共サービス利用比率がこの1年間でも高まり続けたことがあるのだが、特に地方部で大きな進展が起こっている。たとえばマイナンバーカードの取得率でいうと、2020年7月から2021年7月にかけて、富山県では15%から34%へ、福井県では13%から32%へと倍以上に増加している(いずれもNRI「日常生活に関する調査」結果より)。また国・自治体が提供するオンラインサービスを利用したことがあると回答した人の比率が、宮崎県では38%から53%へ、島根県では38%から52%とこの1年間で過半数を超える状況となるなど(同上)、地方部における進展が目覚ましい。

地方のコネクティビティ向上がさらなる格差是正と国土のレジリエンスにつながる

コロナ禍という苦境の中で、国内の地域間デジタル格差が縮まったということはある意味では朗報である。デジタル公共サービスは、コロナ禍が完全に収束した後でも、市民サービスの利便性向上と、行政サービスの効率性向上に引き続き寄与するだろう。たとえばe-Tax(国税電子申告・納税システム)の利用率は、コロナ禍によって多くの県で増加している(NRI「日常生活に関する調査」によると、たとえば青森県でe-Taxを利用している人の比率は、2020年7月時点で7%だったのが2021年7月には14%まで増加)。2021年に初めてe-Taxを利用したという人も多いはずだが、コロナ禍が完全収束してもe-Taxを利用し続ける人はかなり多いのではないだろうか。そしてe-Taxの利用増加は税務の効率化にも寄与する。
前述したように、2021年はデジタル公共サービスが特に地方部で相対的に進んだことで、地域間のデジタル格差が縮小した。ではさらに地域間のデジタル格差を縮小させるためにはどうすればよいのだろうか。筆者は、まず地方部の「コネクティビティ」の改善が必要だと考える。図表3で示したように、DCIの4つの構成要素の中で、最も格差が大きいのがコネクティビティであった。そしてコネクティビティの改善は、その県の住民に便益を与えるだけでなく、他県(特に大都市圏)からのテレワーカーやワーケーション需要を取り込む可能性がある。これまでも、徳島県神山町のように、高水準通信インフラの整備によってIT企業のサテライトオフィス誘致に成功した事例はあるが、「企業の誘致」というと事が大きい。それに対して、コロナ禍が契機となったテレワーク制度の浸透は、「ヒトの誘致」(短期間滞在だったとしても)の可能性を広げたという点で大きな意味を持つと考えている。さらに国土の強靭性という観点からも、地方部に高水準のネットワークインフラが整備されていることは大きな意味を持つ。
もちろんコネクティビティの整備だけでは不十分である。中長期的には市民のIT・デジタルスキルの向上が肝要だが、これは地域間というより市民間の格差是正に焦点を当てるべきだ。そして、市民の基礎的なIT・デジタルスキルの向上にあたっては、奇しくもコロナ禍で進んだ公共サービスのデジタル化が貢献する可能性がある。
北欧のデンマークでは公共サービスに関する「デジタル・ファースト」の原則がある。市民が何らかの公共サービスを受けたい場合、オンラインでそれを受けるのが原則で、それが難しい場合の次善の策としてコールセンターや相談所に行くのだが、相談所の職員も、市民の課題を直接解決するというよりは「市民が自身で課題解決できるように支援する」、つまりオンラインサービスが利用できるように支援するといった役割を担っている。言ってみれば、オンライン公共サービスを通じて、市民のIT・デジタルスキルのトレーニングが行われているのである。
DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)という名前には、市民がデジタル技術を通じて自身のウェルビーイングを向上させる能力(ケイパビリティ)という思いが込められている。もちろん、生活の中でどのくらいデジタルを使うのかは個人の選択ではあるが、デジタル技術を使えることによって、各人の人生設計の自由度が高まる、あるいはノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センの言葉を借りれば、「なりたい自分になれる自由度」を高めるという視点が重要である。

【参考資料1:DCIの構成要素】

*:2021年7月に新規で追加された項目

【参考資料2:都道府県別DCI(2021年7月)】

【参考資料3:アンケート調査の概要】

調査名 「日常生活に関する調査」
実施時期 2021年7月22日~2021年8月4日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人
有効回答数 18,800人
主な調査項目 新型コロナウイルスへの対応…新型コロナウイルスに対する不安感、ワクチン接種状況
アフターコロナの意識…コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
デジタル利用行動…保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
デジタルガバメント…デジタル公共サービス利用実態、地域のデジタル化実態
就労スタイル…就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向…消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計…理想の暮らし、直面している不安や悩み

執筆者情報

  • 森 健

    未来創発センター

    グローバル産業・経営研究室長

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