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続・コロナ禍収束にともなう「リベンジ消費」は限定的

~「コロナ禍以前の生活には戻らない」と考える人が8割超~

2022/01/11

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概要

  • 野村総合研究所(NRI)では、消費者の価値観・行動変化を定期的に捕捉するため、毎年12月に日本人約3,000人を対象にしたインターネット調査「生活者年末ネット調査」を実施している。

  • コロナ禍(新型コロナウイルス感染拡大)が完全収束した際の消費意向について見ると、今後の消費全体動向としていわゆる「リベンジ消費」が起こる可能性は、コロナ感染者数が落ち着いている2021年12月時点でも限定的である(同年7月の調査と同様の結果)。ただし「国内旅行」については、GO TOキャンペーンの再開によって、活性化される期待は持てる。

  • 「コロナ禍以前の生活状態に完全に戻る」と考える人は19%で、7月調査の25%より減少した。一方、「ある程度は戻るが、完全には戻らない」との回答が7月の59%から12月には68%へと増大している。その理由として、自由記述による回答内容を分析したところ、「オンライン化・デジタル化が浸透した今の生活様式に慣れた」といった意見が7月調査の25%から36%に増加していた(「生活が戻る」という回答者を除いて集計)。コロナ禍によって半ば強制的に生じた生活面のデジタル化等の変化が浸透し、生活者の意識が変わったと捉えられる。

  • 2021年11月19日に公表した3年おきの訪問留置調査「生活者1万人アンケート調査」の結果からも、生活者は制限ある生活の中でも楽しみを見出す(=こだわり志向)傾向を強めており、4つに分類した中の「プレミアム消費スタイル」が伸びている。企業は安易に「リベンジ消費」を期待せず、デジタル化が進んだ生活者のニーズをきちんと捉え、コロナ禍前とは大きく異なる「ニューノーマル(新常態)消費」に向けた対応を進める必要がある。

コロナ感染者が激減した12月でも、リベンジ消費の意向は限定的

野村総合研究所(NRI)では、消費者の価値観や行動の変化を定期的に把握するため、毎年12月、日本に在住する15~69歳の男女個人約3,000名を対象とするインターネット調査「生活者年末ネット調査」を実施している(調査概要は本レポート末尾を参照。なお、性別・年代別の人口比で、対象者の割り付けを実施)。
本年は、7月にコロナ禍が収束した場合の生活者の消費価値観を把握するため、同様な母集団に対する大規模調査を実施している。その後の社会情勢の変化を受け、2021年の生活者年末ネット調査においても、一部に関して7月の調査と同一の設問を行い、7月からの変化を分析している。(注:2021年7月の調査結果については、https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2021/cc/1018_1を参照)。
まず、コロナ禍が完全に収束した場合を想定し、外食や旅行など各活動への支出意向がコロナ禍以前の水準まで戻るかどうかについて、全体傾向を示したものが図1である。例えば「国内旅行」については、「コロナ禍以前の水準よりもさらに多くする」は10%であり、「コロナ禍以前の水準に戻す」の43%を合わせてもほぼ半数にとどまる。残りの半数近くは、「コロナ禍以前には戻さない」など、我慢の状況を続ける意向を示している。
「リベンジ消費」という言葉があるが、これまで我慢していた消費・行動意欲を爆発させるように、「コロナ禍以前よりも多く消費や行動をする現象」と定義した場合、回答項目における「コロナ禍以前の水準よりもさらに多くする」の割合を、リベンジ消費の度合いとして捉えることができる。同項目については、例えば「国内旅行」は7月調査では8%だったが、12月調査では10%にやや増加しており、「美術館や博物館の鑑賞」や「劇場でのコンサート・演劇の鑑賞」などでもこうしたリベンジ消費の傾向がやや高まっているが、依然としてその割合が1割未満の項目が多く、リベンジ消費の発生はかなり限定的と言える。
2021年7月の調査は、全国のコロナ感染者数が連日1万人を超えていた時期に行われたこともあって、リベンジ消費への意向もかなり悲観的だったと考えられるが、感染者数が一日あたり百人単位まで激減し、落ち着いている12月(本稿の執筆時点)でも、リベンジ消費を行おうとする消費者の割合は1割未満程度であることから、今後もリベンジ消費を前提にした経済活性化への期待は望み薄とみてよいだろう。

国内旅行について再開する条件を複数回答で聞いたところ、「政府がGO TOキャンペーンなどで後押ししてくれたら」の回答比率が7月の30%から12月調査の36%へと上がっている(図2)。ワクチン接種がまだ途上であった7月時点では、再開条件として「国民の大半のワクチン接種が終わったら」が40%と高かったが、ワクチン接種を2回済ませた人が1億人に迫る(12/17日時点で9,800万人)中で実施した12月調査では25%に減少している。新型のオミクロン株への感染拡大やブースター接種が話題になっており、2回のワクチン接種が完了しても手放しで安心できる状況ではないことの表れだろう。7月調査時点ではGO TOキャンペーン再開についての情報が無かったことから、今後GO TOキャンペーンの再開が具体化されることによって、国内旅行および関連消費の拡大に寄与できる可能性はある。

コロナ禍以前の生活に完全に戻ると考える人は、7月よりさらに減少

生活全体の状況として、「コロナ禍以前の生活に完全に戻る」と回答した人は、7月調査の25%から19%に減少した(図3)。「ある程度はコロナ禍以前に戻るが、完全には戻らない」と考える人が68%と圧倒的に多く、生活者全体の傾向として生活意識、生活習慣面で不可逆的な変化が起こっている。

「コロナ禍以前の生活に完全には戻らない」および「コロナ禍の今と同じ生活を送り続ける」と回答した合計81%の人に、その理由について自由記述により回答してもらった。その回答を、言葉の出現傾向を見るために「共起ネットワーク分析」をした結果が図4である。オミクロン株が出現したことから、「新たな変異ウイルスが出続けることへの不安感」を示す声が得られたり、「コロナ禍が完全には収束するとは思えない」と考えたりする人も一定数いたが、12月調査では「マスク着用・感染予防対策の継続」も含め、「今の生活に慣れてしまった」という意見がかなり多く存在していた。

改めて、図3および図4の分析結果を構造化したものが図5である。「コロナ禍以前の生活に戻らない」と考える人が全体の81%存在する中で、2021年12月時点ではその理由を「今の生活様式に慣れてしまったから(36%)」、つまり社会全体の半強制的な自粛生活に伴い、テレワークが推進されたことや、オンライン化・デジタル化した生活様式に慣れてしまったことによる、と考えている人が多い。一方、コロナ感染が爆発状況であった7月調査では、新型コロナウイルスが「完全に収束するとは思えないから」(55%)との理由を挙げる割合が高かったが、12月調査で同種の理由を挙げる割合は26%に減少している。

コロナ禍に突入して2年近く経つ中で、コロナ感染の完全収束までは我慢し、収束したら元に戻そうという「ウィズ・コロナ」期間限定の生活価値観・生活様式ではなく、生活者の意識が生活面のデジタル化をはじめとする変化によって不可逆的に変わったと捉えるべきだろう。コロナ禍以前は、モノ消費よりコト消費、そしてコト消費からトキ消費(その時・その場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ消費)と言われていた。2021年11月19日に公表した訪問留置調査「生活者1万人アンケート調査」の結果(詳細は、https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2021/cc/1119_1を参照)でも触れているが、積極的にお金を使いたい費目では「人とのつきあい・交際費」、余暇活動では「外食・グルメ・食べ歩き」などが2018年調査までは増加していたが、コロナ禍においては大きく減少に転じている。生活者においては、制限ある生活の中でも楽しみを見出す(=こだわり志向)傾向が強まっていることから、4つある消費スタイルのうち「プレミアム消費スタイル」(自分のお気に入りにこだわり、相応の付加価値には対価を払う消費スタイル)が増加しており、業務用のビールサーバーを自宅にレンタルする人が増えているなど、外出しなくても自宅で工夫しながら非日常感を楽しむニーズが生まれたり、有料動画配信サービスなど、デジタルサービスで余暇を気軽に楽しんだりすることが、生活者の中で定着してしまった。非日常感を楽しむやり方はコロナ禍前のようにわざわざ外出することや他人とリアルで交流することで得るものではなく、自分なりのこだわりを見出しながら工夫して実現させることに生活者ニーズが変化しており、このようなニューノーマル(新常態)な生活様式によって生み出される消費を「ニューノーマル消費」と名付けたい。
コロナ禍によって生活者側のデジタル化や生活様式の変化が大きく進んだことは明らかであり、企業側としてはデジタル化・生活様式変化が進んだ生活者ニーズをきちんと捉えて、マーケティングや経営を行っていく必要がある。その際に、世間で言われている「リベンジ消費」を期待するのではなく、コロナ禍と生活面のデジタル化をはじめとする変化が生み出した「ニューノーマル消費」に向けた対応をすべきである。

調査概要(2021年12月)

調査名 「生活者年末ネット調査」
実施時期 2021年12月11日~2021年12月12日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人(対象者は2020年国勢調査における年齢階級(10歳刻み※10代は15歳~19歳)別の構成比に応じた割付回収を行った)
有効回答数 3,097人
主な調査項目 情報収集行動…情報収集の仕方・変化
アフターコロナの意識…コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
就労スタイル…就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向…消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計…景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み

調査概要(2021年7月)

調査名 「日常生活に関する調査」
実施時期 2021年7月22日~2021年8月4日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人(対象者は2020年国勢調査における都道府県別・年齢階級(10歳刻み※10代は15歳~19歳)別の構成比に応じた割付回収を行った)
有効回答数 18,800人
主な調査項目 新型コロナウイルスへの対応…新型コロナウイルスに対する不安感、ワクチン接種状況
アフターコロナの意識…コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
デジタル利用行動…保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
デジタルガバメント…デジタル公共サービス利用実態、地域のデジタル化実態
就労スタイル…就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向…消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計…理想の暮らし、直面している不安や悩み

執筆者情報

  • 林 裕之

    コンサルティング事業本部

    マーケティングサイエンスコンサルティング部

    主任コンサルタント

  • 森 健

    未来創発センター

    グローバル産業・経営研究室長

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お問い合わせ

株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp