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DCIにみる都道府県別デジタル度

~2022年は地方のデジタル化が進む~

2023/04/19

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概要

  • 野村総合研究所(NRI)は、日本のデジタル化の度合いを可視化すべく、2019年より都道府県別のデジタル度をDCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)として毎年公表している。
  • DCIは、①市民のネット利用、②デジタル公共サービス、③コネクティビティ(端末、通信インフラ)、④人的資本(デジタルスキルの保有度やICT教育)の4項目からなる。
  • 2022年は、地方部のデジタル度が著しく進展した半面、大都市部のデジタル度は停滞している。おそらくこの背景には、デジタル化のタイムラグがある。コロナ禍初期では大都市圏を中心に急速にデジタル化が進んだが落ち着きつつあり、タイムラグを伴って地方部のデジタル化が進んでいる。その結果、都道府県間のデジタル格差は昨年よりも縮まっている。
  • DCIの4項目のうち、都道府県間の格差が最も大きいのがコネクティビティである。市民の端末保有支援や良質な通信インフラ整備は、デジタル化が遅れている地域にとって重要度が高い。
  • DCIの4項目のうち、2021年から2022年にかけて最もスコア(全国平均)が上がったのは人的資本である。児童生徒1人当たりのPC台数の増加や、様々なデジタルスキルを保有する人の比率が特に地方部で高まっている。

DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)

NRIは、日本の都道府県別のデジタル度を可視化するために、DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)という指数を2019年に開発した。国や地方自治体がデジタル政策を立案しその結果を評価するにあたっては、日本がどのくらいデジタル化されているのか、何が進んでいて何が遅れているのか、大都市圏と地方部ではデジタル化にどのくらいの差があるのかなどを可視化することが極めて重要だからだ。
DCIのもとになっているのは、欧州委員会(EU)が開発しているDESI(デジタル経済社会インデックス)である。DESIは、EU加盟国のデジタル度を5つの大項目から評価していて、国別のデジタル度が0~100で示されている(高いほどデジタル化が進んでいることを意味する)。DCIの推計方法の詳細については、『社会のデジタル度を可視化する:都道府県別のデジタル・ケイパビリティ・インデックス』(NRIレポート、2021年1月)をご参照いただきたいが、NRIが全国を対象に実施した「日本のデジタル活用状況調査」と公的統計を組み合わせて作成している。全部で70弱の項目からなり、大きくは図表1に示した4つの構成要素からなる。DESIと同じく最終的なスコアは0~100で示される。アンケート調査は、2022年7~8月に全国の15歳~69歳までを対象にオンラインで実施、各都道府県について性年齢別割り付けを行ったうえで200サンプルずつを集め、日本全国で9,400サンプルとなった。

図表1:DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)の構成要素

出所)NRI

ちなみにインデックスの名前に「ケイパビリティ(能力)」という言葉を入れているのには理由がある。デジタル技術にはフェイクニュースやサイバー犯罪など負の側面も存在しているが、著者はデジタル技術が総体としては人々のケイパビリティを高め、それがひいては幸福度あるいはウェルビーイングを高める存在だと考えている。後述するように、NRIがアンケートから計算した都道府県別の幸福度は、所得水準(1人当たり県民所得)とは全く相関していないのに対して、DCIスコアと幸福度の間には弱い相関関係がみられる。つまり市民の幸福度(あるいはウェルビーイング)を高めたいと思ったら、地域のデジタル化を進めることが理にかなっているということである。

DCIの上位5都府県は福井県、東京都、茨城県、富山県、静岡県

2022年の都道府県別DCIスコアを図表2に示す。2022年の特徴は地方部の躍進である。福井県は過去調査でも上位にランクインしていたが、2022年調査では東京を抜いて1位となった。そのほか茨城、富山、静岡も昨年から大きくスコアを伸ばしている。

図表2:都道府県別DCIスコア(2022年)

出所)NRI

ちなみにDCIスコアの算出にあたっては、普及率や保有率、利用率など、比率をもとに計算していて、量の多寡はスコアに影響しない。たとえばウェブページを作成できる人材の量でいえば、東京や大阪などの大都市圏の数字が圧倒的に大きくなるが、県民全体に占める「比率」を見ると、そこまで大きな差はなく、項目によっては地方の県の方が東京や大阪より高い場合も出てくるからだ。
しかしアンケート調査のサンプル数の少なさ(各県200)から生じる精度の問題もあるため、DCIスコアの厳密な順位にこだわるべきではない。そこでDCIの大まかな傾向と地理的特徴を把握するために、DCIを高い順から単純に4区分して地図上に色分けしたのが図表3である。DCIが高い、すなわちデジタル度が最も高い第1グループは、首都圏から中京圏、京都、大阪、徳島とつながり、福岡県にいたる。その周辺に第2グループが存在し、関西圏の多くや九州の県などに多く見られる。第3グループはさらにその周辺にひろがり、第4グループは北海道・東北と群馬県、長野県、兵庫県、宮崎県が該当している。
DCIの4つの構成要素のスコアをグループ別にみると、すべての構成要素について第1グループのスコアが最も高く、第4グループのスコアが最も低い。そして第1グループと第4グループの差が最も大きいのは「コネクティビティ」である。コネクティビティには、有線・無線通信インフラの整備度に加えて、市民がPC、スマホ、タブレットなどの情報端末をどのくらい保有しているか(アンケート調査より)が反映されているのだが、2022年において、日本国内のデジタル格差が最も大きい領域はコネクティビティということになる。ちなみに2021年時点においてもデジタル格差が一番大きい領域はコネクティビティだったが、第1グループと第4グループの差は、2022年になってむしろ少し大きくなっている(2021年の4.4→2022年の4.5)。

図表3:DCIの4区分別地域分布と構成要素別スコア

出所)NRI

4つの構成要素別にスコアの高い上位10都道府県を見てみよう(図表4)。「ネット利用」の数値が最も高いのは福井(21.1)で、沖縄(18.3)、静岡(17.9)、京都(17.6)、新潟(17.5)が続いている。沖縄県は2020年や2021年調査でもネット利用のスコアが高く、全国的に見て市民のネット利用が相対的に高い県である。「デジタル公共サービス」の数値が最も高いのは東京(21.7)で、富山(21.7)、茨城(21.5)、熊本(21.3)と地方部が続く。ちなみにデジタル公共サービスのスコアには、マイナンバーの取得率や、多様なオンライン行政サービスの整備状況、そして市民がそれらのサービスを「利用しているか」について考慮している。「コネクティビティ」の数値が最も高いのは、東京(21.3)で、愛知(18.4)、静岡(18.4)、福井(18.3)、神奈川(18.0)が続く。「人的資本」については、福井(20.9)が最も高く、富山(20.5)、茨城(19.3)、徳島(18.9)、そして5番目になってようやく東京(17.6)が登場する。ちなみに2020年、2021年は東京が人的資本で1位をキープしていたが、その座を明け渡したことになる。

図表4:構成要素別の上位10都道府県(2022年)

出所)NRI

福井、茨城、富山、静岡の躍進と東京、神奈川、埼玉の停滞

2021年から2022年へのスコア変化を見てみよう(図表5)。ご覧いただくとわかるように、ほとんどの県でこの1年間にDCIは上昇している(縦軸でプラスの領域)。それに対して東京や神奈川、埼玉などの首都圏(千葉を除く)がスコアの停滞・下落を見せている。
まずスコアを高めた躍進県について詳しく見てみよう。福井、茨城、富山、静岡のスコアの内訳をみると、DCIの4領域すべてでスコアが高くなっている。たとえば福井の「ネット利用」の詳細を見ると、「1時間に1回以上携帯電話・スマホを使ってインターネットを利用している」という回答比率は、2021年の36%から2022年には43%に上昇した。さらに福井ではLINEやインスタグラム、YouTubeの利用比率が特にこの1年で増えている。茨城、富山、静岡では、「自分が自由に使えるスマホもしくはタブレット」の保有率が大きく高まっていて、これを背景に、やはりSNS利用やネットショッピング、無料・有料動画配信サービス利用率がこの1年で増えている。「デジタル公共サービス」を見ると、躍進県においてはe-taxや、ネットを通じた図書館の蔵書検索・貸出予約の利用率などが高まっている、という傾向がみられた。
DCI躍進県の「人的資本(デジタルスキル)」を見ると、画像編集ソフトを使えると回答した人の比率が高まる(福井、茨城)、ワードやエクセル、パワーポイントなどのビジネスソフトを使えると回答した人の比率が高まる(富山)、ウェブサイトを制作できると回答した人の比率が高まる(静岡)といった傾向がこれらの県でみられた。

図表5:2021年から2022年へのDCIの変化度

出所)NRI

対して、東京、神奈川、埼玉などDCIが停滞、下落した都県を詳しく見てみると、特に「ネット利用」と「デジタル公共サービス」でスコアの落ち込みがみられる。「デジタル公共サービス」については、サービスの提供側ではなく、市民のデジタル公共サービスの利用率が停滞もしくは低下している。おそらくこれはコロナ禍の反動であろう。過去のDCI推計では、コロナ禍初期の2020年に東京など首都圏のスコアが大きく上昇した半面、地方部でのスコアは低く、大都市圏と地方部の格差は大きかった。大都市圏のデジタル化は地方に先駆けて起こり、2022年には落ち着いた、もしくはコロナ禍の反動が起きている可能性がある。

国内のデジタル格差がさらに縮小

2022年は東京都のスコアが微減したのと同時に、地方部のDCIスコアが上昇した。また2021年に47位だった青森県のスコアが高まったことで、図表6に示したように日本全体でみると地域間のデジタル格差は縮小した。2021年にも国内のデジタル格差は縮小したので、2年連続で縮小したことになる。

図表6:日本国内の地域間デジタル格差は縮小

出所)NRI

DCIの4項目のうち、2021年から2022年にかけて最もスコアが上がったのは「人的資本」である(図表7)都道府県別にみると、富山、茨城、福井、岩手、大分、鹿児島などの地方部において特に人的資本(デジタルスキル)のスコア上昇が顕著であった。岩手は情報処理試験の合格率が2022年に11%高まり、大分はワードやエクセルなどのビジネスソフトスキルの保有者率が6%近く上昇、鹿児島は画像処理ソフトやYouTubeの操作スキルの保有者率が5%程度高まっていることなどがその背景にある。

図表7:構成要素別に見たスコアの変化(2021年→2022年)

出所)NRI

デジタルと日本人の幸福度

最後にDCIスコアと都道府県別に見た市民の幸福度の関係について簡単にみてみよう。図表8には縦軸に都道府県別の幸福度、横軸には、2019年の1人当たり県民所得(図表8左図)、もしくはDCIスコア(図表8右図)をとり47都道府県をブロットしている。幸福度については、DCIと同じアンケート調査内で以下の質問をしている。「全体として、あなたは普段どの程度幸福だと感じていますか。「非常に不幸」を1点、「非常に幸福」を10点として、あてはまるものを1つ選んでお知らせください」。この回答について、各都道府県200サンプルの平均値を計算した。ちなみにNRI調査で幸福度が高いトップ10は、奈良、鳥取、鹿児島、北海道、埼玉、京都、福井、大阪、福岡、山口であった。
幸福度がその地域の経済水準、ここでは1人当たり県民所得とどのくらい関係があるかを見るためにプロットしたのが図表8の左図だが、相関係数は-0.02とほぼゼロであった。それに対して、横軸に都道府県別DCIをとると(図表8右図)、相関係数は0.26と弱いが正の相関がある。

図表8 都道府県別の幸福度と1人当たり県民所得&DCIとの関係

出所)幸福度はNRI「デジタル活用状況調査」2022年7~8月、DCIスコアはNRI、1人当たり県民所得は内閣府「県民経済計算」

幸福度を規定する要因には様々なものがあるが、「世界幸福度報告書」のフレームを用いて、様々なデジタルツールが幸福度に及ぼす影響を見てみよう。世界幸福度報告書は、人々の幸福を規定する要因として、所得、人間関係、安全・安心、健康、人生の自由度、社会の公正さなどを挙げている1
NRIはDCI推計のために実施した「日本のデジタル活用状況調査」アンケートの中で、幸福度に加えて、「人間関係の満足度」や「人生の自由度の実感」などについても質問している。そこで、それらのデータをもとに計量分析を行った(図表9)。例えば、LINEやオンライン会議ツール、無料の音声通話アプリを利用している人は、それらを使っていない人に比べて、人間関係の満足度(10段階評価)がプラスになることがわかった(図表9左図)。
またテレワークをしている人、食事宅配サービス(例:ウーバーイーツ)や民泊サービス(例:エアビーアンドビー)、株式オンライントレードを行っている人は、そうでない人に比べて人生の自由度の実感が高い、という結果が得られた(図表9右図)。ちなみにこの分析では、性別や所得水準、既婚/未婚など各人の属性情報も考慮してあり、たとえば所得が高いことで得られる人生の自由度のプラス効果に「加えて」、これらのデジタル要素がプラスの影響を有意にもたらしているという結果になった。

図表9 デジタル要素が人間関係/人生の自由度に及ぼす影響分析

出所)NRI

また同アンケート調査では、ワードやエクセルなどのビジネスツール、画像編集ソフト、YouTubeへの動画投稿、プログラミング、3Dプリンター利用、ドローン操縦など、12項目のデジタルスキルについて質問をしている(詳細は参考資料1の「人的資本」欄を参照のこと。表中に記載してある「Word等のソフトを使用して文章を作成する」から「ドローンを操縦する」までの12項目が該当)。回答者はそれぞれのスキルについて「はい/いいえ」で回答していて、人によって0個~12個のスキルを保有していることになる(これをITスキルと呼ぶ)。すると、ITスキルの数が多くなると、人間関係の満足度と人生の自由度ともにプラスの効果をもたらすことがわかった(図表9左図&右図)。図表9の中にあるプラスの点数は、たとえば左図(+0.8点)であれば、LINE、オンライン会議ツール、無料の音声通話アプリをすべて利用し、さらにITスキルの数を1つ増やした人は、「人間関係の満足度スコア(1~10点)」を0.8点高めることができる、という意味である。
前述したように、2022年のDCIではITスキルを含む「人的資本」のスコアが全国的に高まった。するとITスキルの増加が「人間関係の満足度」や「人生の自由度の実感」を高めることを通じて、日本人の幸福度にプラスの効果をもたらしたのではないかと考えてもよさそうだ。実際、2023年3月に公表された「世界幸福度報告書」では、日本の幸福度スコアが高まり、順位も前年の54位から47位にあがっていた。同報告書ではデジタルの影響については言及していないが、日本の幸福度微増の背景にはDCIスコアで示されるデジタル要素が直接・間接に及ぼした影響もあるのではないだろうか。

【参考資料1:DCIの構成要素】

*:2022年より項目名が変更されたもの

*:2022年に新規で追加された、あるいは項目名が変更になったもの

【参考資料2:都道府県別DCI(2022年)】

【参考資料3:アンケート調査の概要】

■調査名 「日本のデジタル活用状況調査」
■実施時期 2022年7月12日~2022年7月22日
■調査方法 インターネット調査
■調査対象 全国の満15~69歳の男女個人
■有効回答数 9,400人
■主な調査項目
◇現在の生活に対する意識 …生活満足度、幸福度、領域別満足度
◇アフターコロナの意識 …コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
◇デジタル利用行動 …保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
◇デジタルガバメント …デジタル公共サービス利用実態
◇就労スタイル …就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
◇消費動向 …消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
◇生活全般、生活設計 …コミュニケーションをとる相手、直面している不安や悩み
  • 1  

    “World Happiness Report 2023” John F. Helliwell, Richard Layard, Jeffrey D. Sachs, Jan-Emmanuel De Neve, Lara B. Aknin, and Shun Wang

執筆者情報

  • 森 健

    未来創発センター

    デジタル社会研究室 室長

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