近年、自社の利益を追求するだけでなく、従業員ひとりひとりの幸せを追求する「ウェルビーイング経営」が注目されています。従業員のウェルビーイング(幸福な状態)は、その人の人生に良い影響を与えるだけでなく、企業の業績に与える影響が大きい指標(従業員の生産性、創造性、エンゲージメントなど)と強い相関があることが分かってきたからです。
野村総合研究所(NRI)は、2023年2月、全国の15~79歳3,617人を対象に実施した「日本人の生活に関するアンケート調査」の結果のうち、プライムエイジ層(働き盛り世代)と言われる25~54歳の就労者(N=1,296、以下「就労者」)の回答結果を用いて、働く人の実態や意向などを分析し、ウェルビーイング経営推進上のポイントを探りました(調査概要は末尾参照)。
以下に、調査結果の詳細と、それらから見えてきたウェルビーイング経営推進上のポイントを紹介します。
要約
- 働く人において、今の仕事の満足度が高いほど、ふだんの生活の幸福度が高い傾向がみられる。
- 仕事で「働きがい」を重視する人において、今の仕事の満足度が高い人が多い。一方、逆に「働きやすさ」を重視する人において、今の仕事の満足度が高い人が少ない。
- 「ウェルビーイング経営」を進める上では、そこで働く人の仕事の満足度を高めることが重要であり、そのためには、「働きやすさ」の追求だけではなく、「働きがい」を意識したり、実感できる取り組みや環境づくりの推進が有効である。
今の仕事に満足している人ほど、ふだんの生活に幸福を感じている
NRIは、2023年2月、全国の15~79歳3,617人を対象に、「家族」、「就労者」、「消費者」、「地域住民」の4側面それぞれにおける実態や意向などを把握する「日本人の生活に関するアンケート調査(以下「本調査」)を実施しました。本稿では、プライムエイジ層(働き盛り世代)と言われる25~54歳の就労者(N=1,296、以下「就労者」)の回答を分析した結果を紹介します。
まず、本調査では、「ふだん、どのくらい幸福だと感じているか」について、「非常に幸福」を10点、「非常に不幸」を0点とする10点満点で、それぞれの「幸福度」を回答してもらいました。1
この質問に対する就労者の回答結果が図1です。就労者において、10点満点で幸福度が 5点以上の割合は76.5%、8点以上の割合は24.7%でした。
図1:就労者の幸福度(25~54歳の就労者)
注:「非常に幸福」を10点、「非常に不幸」を0点として11段階で調査した結果
出所:NRI「日本人の生活に関するアンケート調査」(2023年2月)
次に、就労者の今の仕事の満足度をみてみると、今の仕事に「とても満足している」人の割合は8.1%で、「満足している」と回答した人を加えると、今の仕事に満足している人の割合は43.3%でした(図2)。
図2:就労者の今の仕事の満足度(25~54歳の就労者)
出所:NRI「日本人の生活に関するアンケート調査」(2023年2月)
ふだんの幸福度で8点以上を幸福な状態(高い幸福度)と定義し、就労者のうち高い幸福度の人の割合を、今の仕事の満足度合い別に集計したのが図3です。
この結果からは、今の仕事に満足している人ほど、ふだんの生活で高い幸福を感じている様子が見てとれます。とりわけ、今の仕事に「とても満足している」人において、高い幸福度の人の割合が高くなりました。
図3:幸福度8点以上(10点満点)の人の割合(今の仕事への満足度合い別)
出所:NRI「日本人の生活に関するアンケート調査」(2023年2月)
今の仕事に満足しているかどうかは年齢や性別、雇用形態によらない
ここまでの調査結果から、今の仕事に満足している人ほど、ふだんの生活で高い幸福を感じていることが分かりました。従業員の幸福度を高める上で、今の仕事に満足しているかどうかが重要な要素であることがうかがえます。では、今の仕事に満足している人はどのような人に多いのでしょうか。
就労者で今の仕事に満足している人(「とても満足している」と「満足している」の合計。以下同じ)の割合を男女別にみると、男性41.5%、女性45.6%で、仕事に満足している人の割合において男女で大きな違いは見られませんでした(図4)。また、雇用形態別にみると、今の仕事に満足している人の割合は正規職(正社員のみ)で43.7%、非正規職で42.6%と、雇用形態による大きな違いも見られませんでした(図4)。今の仕事への満足度とその人の性別や雇用形態との間には強い関係性は見られませんでした。
図4:今の仕事に満足している人の割合(25~45歳の就労者)
【左:全体および男女別、右:雇用形態別】
注:男女別については、性別無回答者がいる関係で男女別のN数の合計と全体のN数は一致しない。
出所:NRI「日本人の生活に関するアンケート調査」(2023年2月)
「働きやすさ」よりも「働きがい」を重視する考え方の人に、今の仕事に満足している人の割合が高い
次に、今の仕事への満足度と、仕事に対する考え方との関係性を見てみます(図5)。
今の仕事に満足している人の割合が最も高かったのは、「出世や昇進のためには、多少つらいことでも我慢したい」という考えに肯定的な人においてでした(61.5%)。次いで「仕事にやりがいがあれば、待遇や労働条件が多少悪くてもよい(58.3%)」、「自分の能力や専門性を高めることで社会に認められたい(57.8%)」という考えに肯定的な人において、今の仕事に満足している人の割合が高くなりました。
一方、「仕事は収入を得る手段に他ならない」という考えに肯定的な人において、今の仕事に満足している人の割合が最も低く、41.4%でした。次いで「人並程度の仕事をすればよい(43.1%)」、「会社や仕事のことより、自分や家族のことを優先したい(44.7%)」という考えに肯定的な人において、今の仕事に満足している人の割合が相対的に低くなりました。
図5:今の仕事に満足している人の割合(25~45歳の就労者、仕事に対する考え方別)
注:上記12個の仕事に対する考え方について、「そう思う」、「どちらかといえばそう思う」、「どちらともいえない」、「どちらかといえばそうは思わない」、「そうは思わない」の5段階で回答してもらい、「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答した「その考え方に肯定的な人」において、どのくらい今の仕事に満足しているかについて分析した結果
出所:NRI「日本人の生活に関するアンケート調査」(2023年2月)
これらの結果からは、仕事で認められたり、やりがいや成長を感じられるといった「働きがい」を重視する考えに肯定的な人(図5の赤色)において今の仕事に満足している人の割合が高く、それらと比べると、仕事は生計をたてるための手段と割り切っていたり、ワークライフバランスなど「働きやすさ」を重視する考えに肯定的な人(図5の青色)において今の仕事に満足している人の割合が低くなるという傾向がうかがえました。
従業員のウェルビーイング向上には、今の仕事の満足につながる「働きがい」を実感できる環境を
本調査の結果を踏まえると、ウェルビーイング経営を進める上でのポイントは以下の2点になるでしょう。
- それぞれの従業員において、幸福度につながる今の仕事の満足度をどれだけ高められるかが鍵
- 仕事の満足度を高めるためには、「働きやすさ」の実感よりも、やりがいや成長を感じるといった「働きがい」が重要
これまでの働き方改革のテーマは、長時間労働の解消や休暇取得促進など「働きやすさ」に関係するものが中心で、「休み方改革」とも言われました。しかし、従業員の幸福度を一層高めようとするならば、そうした「働きやすさ」を追求するだけでなく、仕事で認められたり、やりがいや成長を感じられるといった「働きがい」につながる取り組み(例えば、会社のビジョンと個人の働き方をつなげる「ビジョナリー経営」、やりたい仕事に就きやすくする「社内公募制度」、上司との対話機会を増やしてやりがいを醸成する「1on1」、評価の納得性を高める「360度評価」、など)を積極的に行っていくことが望ましいと考えられます。
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「幸福度」に関する調査結果の詳細は、未来創発センター研究レポートVol.4「データでみる日本人の幸福なライフスタイル」を参照ください。
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/souhatsu/0509
調査概要
調査名 | 日本人の生活に関するアンケート調査 |
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調査期間 | 2023年2月24日から2023年2月28日 |
調査方法 | インターネットアンケート |
対象者 | 日本全国に居住する15~79歳の男女 |
回答数 | 3,617人(性・年代で均等割付) |
- 本稿で紹介しているのは、上記回答者のうち、プライムエイジ層と呼ばれる25~54歳の就労者(N=1,296)の回答結果です。
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