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コロナ禍以前の生活に戻せない日本人

~戻らない日本人の余暇消費と新需要開拓の必要性~

2024年2月

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概要

  • 野村総合研究所(NRI)では、消費者の価値観・行動変化を定期的に捕捉するため、毎年12月に日本人約3,000人を対象にしたインターネット調査「生活者年末ネット調査」を実施している。
  • 「コロナ禍以前の生活状態に戻った」と考える人は34%で、2022年12月調査よりは増えているものの、依然として3分の2程度の人はコロナ禍以前には戻っていないと考えている。支出においては国内旅行や海外旅行について、コロナ禍の制限時より支出を増やした割合が2022年12月調査時の想定よりも低く、コロナ禍中の期待より、実態としては消費が戻っていないことが伺える。
  • コロナ禍前の生活や消費に戻っていない理由として、コロナ禍の生活様式に慣れてしまったことが挙げられる。また「収束してもマスクや感染予防は欠かせないから」が理由として2022年12月調査時より大きく上がっており、インフルエンザ等の感染症流行が人々の予防意識の高まりに影響していると想定される。
  • コロナ禍前の生活に戻っていない人は「趣味・レクリエーション関連」「旅行費用」「人とのつきあい・交際費」等の支出意向が低く、過ごしたい生活時間として「1人で過ごす時間」「リラックスする時間」の割合が大きいことから、消費や生活においてアクティブではなく、様子見傾向が強い。また、属性として女性40代以上が多いことから、すぐにアクティブな生活に戻るとは考えにくく、海外旅行等のアクティブな消費への回復にはつながりにくいと想定される。

コロナ禍以前の生活に戻った人は34%に過ぎない

野村総合研究所(NRI)では、消費者の価値観や行動の変化を定期的に把握するため、毎年12月、日本に在住する15~69歳の男女個人約3,000名を対象とするインターネット調査「生活者年末ネット調査」を実施している(調査概要は本レポート末尾を参照。なお、性別・年代別の人口比で、対象者の割り付けを実施)。
「生活者年末ネット調査」では、コロナ禍以降にコロナ禍収束時の人々の生活変化の意向を捉えるために、生活全体の状況および費目別の支出意向・実態について調査している。コロナ禍時においては、コロナ禍収束後の意向について質問したが、コロナ禍が収束した2023年12月調査では現在の実態について質問した。その回答結果が図1である。まず生活全体の状況について、「コロナ禍以前の生活に完全に戻る(戻った)」と回答した人は、2022年12月調査の22%から34%に増加したが、依然として3分の2程度の人はコロナ禍以前には戻っていないと考えている。

図1:コロナ禍収束後における生活全体の状況

NRI「生活者年末ネット調査」(2021年12月、2022年12月、2023年12月)

国内旅行・海外旅行への支出も消極的

また、コロナ禍が完全に収束した場合を想定し、外食や旅行など各活動への支出意向がコロナ禍以前の水準まで戻るかどうかについて、全体傾向を示したものが図2である。図2では「外食」「国内旅行」「海外旅行」について、支出意向(2023年12月は支出実態)の変化を示している。2023年12月調査においては「外食」に関しては、コロナ禍以前の水準まで戻した人も4割弱おり、まだ戻り切っていないがコロナ禍の制限時よりは支出を増やした人は、2022年12月調査時の支出意向よりやや多くなっている。一方、「国内旅行」と「海外旅行」については2021年12月調査時の支出意向は高かったものの、2022年12月調査時の支出意向は下がっており、2023年12月調査時の支出実態についてはさらに支出を戻した割合が少なくなっている。

図2:コロナ禍完全収束後における各活動への支出意向
(各活動において、コロナ禍以前から全くお金を使っていない人は除いて集計)

  • 各活動において、コロナ禍以前から全くお金を使っていない人は除いて集計。

NRI「生活者年末ネット調査」(2021年12月、2022年12月、2023年12月)

例えば海外旅行については、実際の旅行者数のデータからもコロナ禍による落ち込みから回復していないことが分かる。日本政府観光局(JNTO)の「2023年 訪日外客数・出国日本人数(対2019年比)」(https://www.jnto.go.jp/statistics/data/20240117_monthly.pdf)のデータによると、訪日外国人数に関しては2023年において急回復しているのに対し、2023年1月~12月の出国日本人数はコロナ禍前の2019年同期比では52.1%減った状態だという。2023年12月のデータでは訪日外国人数は2019年12月比で+8.2%の伸長でありコロナ禍以降で最多を更新していたが、出国日本人数は2019年12月比で-44.6%であった。2023年の年末においても日本の観光地では外国人観光客で賑わいを見せる一方で、海外旅行に出かける日本人は少ないことが対照的な特徴である。

コロナが収束しても、インフルエンザ等の流行が人々の感染予防意識を向上

海外旅行へ出掛ける日本人が少ないことは、コロナ禍前の生活に戻っていないことの現象の一つとして捉えることができるが、人々がコロナ禍以前の生活に戻さない理由として何が挙げられるのか。調査において自由回答内容を精査・分類した結果を図3に示す。2022年12月調査では「今の生活様式に慣れてしまったから」が半数を占めており、2023年12月調査でも39%の回答割合であるため、やはりコロナ禍において制限された生活が長らく続いたことによる影響は少なからずある。海外旅行に関しても、海外へ行く必要性が薄れたことや、海外へ行かずとも国内や自宅でできる楽しみを見出せるようになったことが、海外旅行の回復が鈍化していることにつながっていると考えられる。
また、2023年12月調査においては「収束してもマスクや感染予防は欠かせないから」が前年の8%より増え、18%になっている。コロナによる移動制限は解除されたが、2023年は10月頃よりインフルエンザの感染者数の増大が早く、インフルエンザの感染流行が予想されていた。実際、冬になりインフルエンザだけでなく溶連菌感染症なども流行になり、学校では学級閉鎖が相次ぐ状況となっていることからも、コロナ感染は収束した場合でも他の感染症流行に対する予防意識が人々の中でかなり高い状態であることが考えられる。

図3:コロナ禍の収束後の生活変化と元に戻らない理由の全体構造

  • 「元に戻らないと考える理由」は一人につき1件のみ回答。その内、有効回答となる自由回答内容を精査し、上記5区分に分類

NRI「生活者年末ネット調査」(2021年12月、2022年12月、2023年12月)

コロナ禍前の生活に戻らない人は様子見傾向が強い

次にコロナ禍前の生活に戻った人と戻っていない人では何が異なるのか。今後支出を増やしていきたい項目として「趣味・レクリエーション関連」「旅行費用」「人とのつきあい・交際費」については特に支出意向の差異が大きい。「食料品」や「飲料品」などは同程度であるが、それ以外の項目は概ねコロナ禍前の水準に戻った人の方が支出意向が高めに出ていることから、コロナ禍前の生活に戻った人の方が消費行動がアクティブであると考えられる(図4)。
また、今後増やしていきたい・過ごしたい時間については、コロナ禍前の生活に戻った人の方が「配偶者・恋人・パートナーと過ごす時間」「子供と過ごす時間」など他者との時間を増やしたいと感じているのに対して、コロナ禍前の生活に戻っていない人では「1人で過ごす時間」「リラックスする時間」の割合が高い(図5)。図4の結果とあわせて、コロナ禍前の生活に戻っていない人は、どちらかというとアクティブな方ではなく、静かに過ごしたい気持ちがあり、消費や行動においては様子見傾向にあることが伺える。

図4:コロナ禍前の生活に戻った人・戻っていない人の今後支出を増やしていきたい項目

NRI「生活者年末ネット調査」(2023年12月)

図5:コロナ禍前の生活に戻った人・戻っていない人の今後増やしていきたい・過ごしたい時間

NRI「生活者年末ネット調査」(2023年12月)

日本人がコロナ禍前の生活に戻っていないことの理由に、消費や行動に対して様子見傾向があるとすれば、楽観的に考えれば遅れながらもコロナ禍以前の生活に戻っていくのだろうか。残念ながら筆者はその考えに対しては否定的な見方をしている。コロナ禍前の生活に戻った人・戻っていない人の属性分析をしたところ、例えば性年代比較では図6のような違いが見られた。コロナ禍前の生活に戻っていない人の方が女性40代以上の層が多く、そもそも両者の属性の違いが大きい。中高年層は若年層よりもアクティブな生活をしにくい年代であることを踏まえると、一度コロナ禍における自粛生活に慣れてしまった人々が元の生活にシフトするとは考えにくいのではないか。たとえば海外旅行を例にとると、これまでよく見られた周遊・観光目的の慌ただしい旅行ではなく、生活様式を変えた人々にとっても魅力的と思えるような、「1人で」「リラックスできる」といった要素を持つプログラムが求められるのではないだろうか。

図6:コロナ禍前の生活に戻った人・戻っていない人の性年代比較

NRI「生活者年末ネット調査」(2023年12月)

【ご参考】調査概要

調査名 「生活者年末ネット調査」
実施時期 2023年12月16日~2023年12月17日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人(対象者は2020年国勢調査における年齢階級(10歳刻み※10代は15歳~19歳)別の構成比に応じた割付回収を行った)
有効回答数 3,097人
主な調査項目
  ・情報収集行動 …情報収集の仕方・変化
  ・アフターコロナの意識 …コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
  ・就労スタイル …就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
  ・消費動向 …消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
  ・生活全般、生活設計 …景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み

執筆者情報

  • 林 裕之

    マーケティングサイエンスコンサルティング部

    シニアコンサルタント

  • 森 健

    未来創発センター デジタル社会研究室

    室長

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お問い合わせ

レポートに関するお問い合わせ


株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
TEL:03-5877-7100
E-mail:kouhou@nri.co.jp