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DCIにみる都道府県別デジタル度

~2023年は大都市圏のデジタル化が進む~

2024年4月

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概要

  • 野村総合研究所(NRI)は、日本のデジタル化の度合いを可視化すべく、2019年より都道府県別のデジタル度をDCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)として毎年公表している。
  • DCIは、①市民のネット利用、②デジタル公共サービス、③コネクティビティ(端末、通信インフラ)、④人的資本(デジタルスキルの保有度やICT教育)の4項目からなる。
  • 2023年は、東京をはじめとした大都市部が上位にランキングされ、日本の地域間デジタル格差は拡大した。これまでのDCIの推移を振り返ると、コロナ禍直前は東京都や大都市部と地方部のデジタル格差が大きかったが、コロナ禍を通じて実は地方部のデジタル化が相対的に進んだ。しかし2023年には再び大都市部のデジタル化が相対的に進んだので、国全体としてはデジタル化が過去4年間で急速に進んだものの、都市部と地方部の格差は再び開き始めたようである。
  • 地域間でのデジタル格差が最も大きいのはコネクティビティで、デジタル公共サービスがそれに続く。

DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)

NRIは、日本の都道府県別のデジタル度を可視化するために、DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)という指数を2019年に開発した。国や地方自治体がデジタル政策を立案しその結果を評価するにあたっては、日本がどのくらいデジタル化されているのか、何が進んでいて何が遅れているのか、大都市圏と地方部ではデジタル化にどのくらいの差があるのかなどを可視化することが極めて重要だからだ。
DCIのもとになっているのは、欧州委員会(EU)が開発しているDESI(デジタル経済社会インデックス)である。DESIは、EU加盟国のデジタル度をいくつかの大項目から評価していて、国別のデジタル度が0~100で示されている(高いほどデジタル化が進んでいることを意味する)。DCIの推計方法の詳細については、『社会のデジタル度を可視化する:都道府県別のデジタル・ケイパビリティ・インデックス』(NRIレポート、2021年1月)をご参照いただきたいが、NRIが全国を対象に実施した「日本のデジタル活用状況調査」と公的統計を組み合わせて作成している。全部で70弱の項目からなり、大きくは図表1に示した4つの構成要素からなる。DESIと同じく最終的なスコアは0~100で示される。アンケート調査は、2023年7月に全国の15歳~69歳までを対象にオンラインで実施、各都道府県について性年齢別割り付けを行ったうえで200サンプルずつを集め、日本全国で9,400サンプルとなった。

図表1:DCI(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)の構成要素

出所)NRI

DCIの上位5都県は東京都、愛知県、兵庫県、福岡県、神奈川県

2023年の都道府県別DCIスコアを図表2に示す(注:今回の推計にあたっては一部の指標について、指数化するための基準年次を変更しているため、過去のDCIスコアとの単純比較ができないようになっている)。2023年の特徴は大都市部のデジタル度が再び上位に浮上したことである。特に東京都が頭1つ抜け出した形となっていて、これは2020年にみられた傾向と似ている。その後コロナ禍を通じてむしろ地方部、特に北陸のデジタル度が上昇し全国のデジタル格差は縮小したように見られたが、2023年のスコアを見ると、再び大都市部と地方部の格差が拡大し始めたように見られる。

図表2:都道府県別DCIスコア(2023年)

出所)NRI

DCIの大まかな傾向と地理的特徴を把握するために、DCIを高い順から単純に4区分して地図上に色分けしたのが図表3である。DCIが高い、すなわちデジタル度が最も高い第1グループは、首都圏から山梨、静岡、愛知と続き、福井、兵庫、徳島と飛び飛びになり、九州では福岡と長崎に至る。第2グループから第4グループもどちらかというと飛び飛びに位置しているが、第2グループは大阪、京都などの大都市圏も含んでいること、また第4グループは東北地方に多く見られる(この傾向は過去と同じ)。
DCIの4つの構成要素のスコアをグループ別にみてみよう。第1グループと第4グループの差が最も大きいのは「コネクティビティ」である。コネクティビティには、有線・無線通信インフラの整備度に加えて、市民がPC、スマホ、タブレットなどの情報端末をどのくらい保有しているか(アンケート調査より)が反映されている。次に格差が大きいのが「デジタル公共サービス」である。

図表3:DCIの4区分別地域分布と構成要素別スコア(2023年)

出所)NRI

4つの構成要素別にスコアの高い上位10都道府県を見てみよう(図表4)。「ネット利用」の数値が最も高いのは沖縄(19.6)で、福岡(19.0)、埼玉(18.9)、京都(18.5)、千葉(18.3)が続いている。沖縄県は2020年や2021年調査でもネット利用のスコアが高く、全国的に見て市民のネット利用が相対的に高い県である。
「デジタル公共サービス」の数値が最も高いのは東京(22.3)で、山梨(19.5)、兵庫(18.1)、埼玉(17.5)、徳島(17.4)と続く。デジタル公共サービスのスコアには、マイナンバーの取得率や、多様なオンライン行政サービスの整備状況(県レベルと市町村レベル)、そして市民がそれらのサービスを「利用しているか」について考慮している。「コネクティビティ」の数値が最も高いのは、東京(25.3)で、千葉(19.0)、愛知(18.9)、神奈川(18.6)など大都市圏が続く。「人的資本」については、東京と兵庫(16.8)が最も高く、愛知(15.4)、福岡(15.2)、長野(15.1)とこちらも大都市圏が続いている。

図表4:構成要素別の上位10都道府県(2023年)

順位 ネット利用 デジタル公共サービス コネクティビティ 人的資本
1 沖縄 19.6 東京 22.3 東京 25.3 東京 16.8
2 福岡 19.0 山梨 19.5 千葉 19.0 兵庫 16.8
3 埼玉 18.9 兵庫 18.1 愛知 18.9 愛知 15.4
4 京都 18.5 埼玉 17.5 神奈川 18.6 福岡 15.2
5 千葉 18.3 徳島 17.4 新潟 18.6 長野 15.1
6 長崎 17.9 鹿児島 17.0 滋賀 18.5 神奈川 14.7
7 徳島 17.9 福岡 16.8 京都 18.4 福井 14.4
8 高知 17.8 愛知 16.6 静岡 18.0 静岡 14.3
9 兵庫 17.8 岡山 16.5 山梨 17.9 長崎 13.6
10 愛知 17.7 鳥取 16.0 広島 17.3 岡山 13.5

出所)NRI

大都市部の躍進と地域間デジタル格差の拡大

2023年は、東京をはじめとした大都市部のデジタル化が進んだ一方、地方部のデジタル化は相対的に遅れ、大都市部が上位に固まるとともに、日本全体のデジタル格差は2022年よりも広がったように見える。振り返ると、NRIがDCIを推計し始めた2020年は、東京をはじめとした大都市部のデジタル度が高く、地方とのデジタル格差も大きかったが、2021年、2022年とコロナ有事に突入すると地方部のデジタル化が相対的に大きく進んだ。この背景には、マイナンバーカード取得率の急上昇、コロナ給付金も含めたデジタル公共サービスの利用増、また児童生徒へのタブレット配布やPC導入など学校のデジタル化が特に地方部で大きなインパクトをもたらしたことがある。その結果、昨年のレポートでも紹介したように、日本の地域間デジタル格差はコロナ禍でむしろ縮小したように見えていた。
しかし2023年の数値から読み取れるのは、コロナ禍が終焉し(2023年5月の、新型コロナ感染症の5類移行)平時に戻ったのと時を同じくして、ふたたび大都市部と地方部の格差が広がったことである。いったい何が起こったのだろうか。1つの仮説として、都道府県間の人口流動が再び活発化したことがある。コロナ禍当初は、東京都など大都市部からの人口流出がいったんは見られたものの、2023年は、東京都をはじめとした大都市部への人口流入が急増している。この中には、デジタルスキルを持った人材が大都市で就業するといったこともあるだろう。つまりコロナ禍においては地方部にとどまっていたデジタル人材が、大都市部に流れていったことが影響しているのかもしれない。

【参考資料1:DCIの構成要素】

ネット利用・・・38項目 データ源
パソコンでのインターネット利用頻度 NRI生活者アンケート
携帯電話・スマホでのインターネット利用頻度 同上
Facebook利用頻度 同上
Twitter利用頻度 同上
LINE利用頻度 同上
Instagram利用頻度 同上
TikTok利用頻度 同上
Pinterest利用頻度 同上
LinkedIn利用頻度 同上
ネットサービス利用有無:メールの送受信 同上
ネットサービス利用有無:オンラインバンキング 同上
ネットサービス利用有無:株式などのオンライントレード 同上
ネットサービス利用有無:オンラインショッピング 同上
ネットサービス利用有無:有料動画配信サービス 同上
ネットサービス利用有無:無料動画配信サービス 同上
ネットサービス利用有無:生配信サービス 同上
ネットサービス利用有無:ネットオークション 同上
ネットサービス利用有無:オンラインファイル保存サービス 同上
ネットサービス利用有無:質問サイト(Yahoo!知恵袋など) 同上
ネットサービス利用有無:掲示板サイトを読む 同上
ネットサービス利用有無:掲示板サイトに書き込む 同上
ネットサービス利用有無:電子書籍・新聞・雑誌購読 同上
ネットサービス利用有無:ソーシャルゲーム(無料) 同上
ネットサービス利用有無:ソーシャルゲーム(有料) 同上
ネットサービス利用有無:商品評価サイトを見る 同上
ネットサービス利用有無:商品評価サイトに書き込む 同上
ネットサービス利用有無:他人のSNSの書き込みを読む 同上
ネットサービス利用有無:他人のSNSで「いいね!」を押す 同上
ネットサービス利用有無:SNSで自身の情報発信をする 同上
ネットサービス利用有無:自身のHP、ブログを更新する 同上
ネットサービス利用有無:ブログを読む 同上
ネットサービス利用有無:無料音声通話サービス 同上
ネットサービス利用有無:携帯電話を使った各種支払 同上
ネットサービス利用有無:自分の位置情報の入った地図利用 同上
ネットサービス利用有無:音楽配信サービス 同上
ネットサービス利用有無:オンライン講座受講 同上
ネットサービス利用有無:ネット上の健康情報検索 同上
ネットサービス利用有無:病院の診察ネット予約 同上
デジタル公共サービス・・・13項目 データ源
国や地方公共団体のデジタルサービス利用があるか NRI生活者アンケート
マイナンバーカードの取得 同上
e-Taxの利用有無 同上
ネット上での不動産登記情報閲覧の有無 同上
ネット上で国や自治体が実施する調査に回答したことがあるか 同上
ネット上での図書館蔵書検索や貸し出しの有無 同上
ネット上での公共の会議室、スポーツ施設の予約有無 同上
ネット上で自治体が提供する講座等の申し込み有無 同上
個人の健康情報管理・閲覧可能なスマホアプリの利用有無 同上
行政サービスの向上・高度化(県レベル) 総務省「地方自治情報管理概要」
行政サービスの向上・高度化(市町村レベル) 同上
情報セキュリティ対策(県レベル) 同上
情報セキュリティ対策(市町村レベル) 同上

:2022年に新規で追加された、あるいは項目名が変更になったもの

コネクティビティ・・・10項目 データ源
FTTH世帯普及率 総務省「ブロードバンドサービス等契約数の推移」
人口1人あたりBWA契約数 同上
スマホ保有率(世帯) 総務省「通信利用動向調査」
タブレット保有率(世帯) 同上
パソコン保有率(世帯) 同上
自分が自由に使えるデスクトップ型PCを保有しているか NRI生活者アンケート
自分が自由に使えるノート型PCを保有しているか 同上
自分が自由に使えるスマートフォンを保有しているか 同上
自分が自由に使えるタブレット端末を保有しているか 同上
自分が自由に使えるウェアラブル端末を保有しているか 同上
人的資本(デジタルスキル)・・・20項目 データ源
Word等のソフトを使用して文章を作成する NRI生活者アンケート
Excel等を用いて表計算やグラフを作成できる 同上
PowerPoint等を用いてスライドや資料を作成できる 同上
Access等のソフトを利用してデータベースを作る 同上
Photoshop等を用いてイラスト編集ができる 同上
動画を撮影・編集しYouTube等に掲載できる 同上
Webサイトを作成できる 同上
プログラミングでアプリケーションを作ることができる 同上
サーバーやネットワーク等のメンテナンスができる 同上
AI(人工知能)を用いてデータ解析ができる 同上
3Dプリンターを使える 同上
ドローンを操縦する 同上
情報処理試験合格率 情報処理推進機構「情報処理技術者試験統計資料」
児童生徒1人あたりの学習用PC台数 文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」
教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力 同上
授業中にICTを活用して指導する能力 同上
児童生徒のICT活用を指導する能力 同上
情報活用の基盤となる知識や態度について指導する能力 同上
DX・情報化についての職員育成(県レベル) 総務省「地方自治情報管理概要」
DX・情報化についての職員育成(市町村レベル)) 同上

:2022年に新規で追加された、あるいは項目名が変更になったもの

【参考資料2:都道府県別DCI(2023年)】

【参考資料3:アンケート調査の概要】

■調査名 「日本のデジタル活用状況調査」
■実施時期 2023年7月11日~2023年7月25日
■調査方法 インターネット調査
■調査対象 全国の満15~69歳の男女個人
■有効回答数 9,400人
■主な調査項目
◇現在の生活に対する意識 …生活満足度、幸福度、領域別満足度
◇アフターコロナの意識 …コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
◇デジタル利用行動 …保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
◇デジタルガバメント …デジタル公共サービス利用実態
◇就労スタイル …就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
◇消費動向 …消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
◇生活全般、生活設計 …コミュニケーションをとる相手、直面している不安や悩み

【注1:DCIの経年比較に関する留意点】

人的資本の1項目である「児童生徒1人あたりの学習用PC台数」、またデジタル公共サービスのなかの「国や地方公共団体が提供するネットサービスを利用したことがあるか」「マイナンバーカードの取得・利用」について、指数化する際の設定MIN(最低値)、設定MAX(最高値)を2023年基準に変えている(これら3指標の増加が著しく、スコア全体に及ぼす影響力が大きくなりすぎたため)。そのため人的資本およびデジタル公共サービスは、昨年の数値との単純比較ができないことに留意が必要(コネクティビティおよびネット利用については引き続き昨年の数値との比較は可能)。

執筆者情報

  • 森 健

    未来創発センター デジタル社会・経済研究室

    室長

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