株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役 社長:柳澤花芽、以下「NRI」)と、NRIみらい株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:小松康弘、以下「NRIみらい」)は、2024年8月から9月にかけて、「障害1者雇用に関する実態調査」と「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」2を、上場企業3と特例子会社4それぞれを対象に実施しました(回収数:上場企業149社、特例子会社208社)。
これらの調査は、2015年度から毎年実施しており、10回目となる今回は「障害者雇用における親会社と特例子会社の認識の乖離」をメインテーマとしました。主な結果5とそこから導かれる提言は以下の通りです。
なお、本稿に関連する詳細なレポートは次のURLをご参照ください。
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/20241218_1.html
上場企業・特例子会社ともに、法定雇用率の引き上げ対応に苦慮
法定雇用率が段階的に引き上げられる6中で、障害者の採用についての意識が企業の中で高まっています。上場企業に「量的な観点からみて、障害者を十分採用できているか」を尋ねたところ、「どちらかといえばそう思わない」・「そう思わない」の回答の合計は、2024年に法定雇用率2.5%、2026年に同2.7%への引き上げが公布された2022年(45.3%)を底として、増加傾向にあります(図1)。
また、上場企業に「質的な観点」で「障害者を十分採用できているか」を尋ねた際も、「どちらかといえばそう思わない」・「そう思わない」の合計は2022年(35.0%)を底として、増加傾向にあります(図2)。このことから、上場企業が障害者雇用についての法整備が進む中で量・質両面において障害者の採用を課題視していることが伺えます。
図1 量的な観点からみて、障害者を十分採用できている(単一回答)
出所:「障害者雇用に関する実態調査(上場企業向け調査)」
(NRI、NRIみらい実施、2015~2024年)
図2 質的な観点からみて、障害者を十分採用できている(単一回答)
出所:「障害者雇用に関する実態調査(上場企業向け調査)」
(NRI、NRIみらい実施、2015~2024年)
同様に、特例子会社に、「量的な観点からみて、障害者を十分採用できているか」を尋ねたところ、「どちらかといえばそう思わない」・「そう思わない」の回答の合計は、上場企業よりも1年早く、2021年を底として増加傾向にあります。これには2021年に施行された法定雇用率2.3%への引き上げが影響しているとみられます(図3)。
また「質的な観点」においても2021年(18.0%)を底として、同値が傾向にあります(図4)。上場企業と同様に、特例子会社でも障害者雇用についての法整備が進む中で、量・質両面において障害者の採用を課題視していることが伺えます。また、特例子会社より上場企業の課題意識の方が強い傾向にありますが、その要因は、特例子会社が先行する形で取り組む傾向が強かった障害者雇用の分野に、親会社あるいは特例子会社をもたない上場企業が向き合い始め、自社における課題認識が強まっていることだと考えられます。
図3 量的な観点からみて、障害者を十分採用できている(単一回答)
出所:「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査(特例子会社向け調査)」
(NRI、NRIみらい実施、2015~2024年)
図4 質的な観点からみて、障害者を十分採用できている(単一回答)
出所:「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査(特例子会社向け調査)」
(NRI、NRIみらい実施、2015~2024年)
親会社における障害者雇用重視の意向は、特例子会社には伝わっていない
上場企業と特例子会社ともに、十分な障害者採用ができていない現状を踏まえると、それぞれ単独ではなく、グループとして「障害者雇用の重要性」を共通認識としてもち、対応していくことが必要と言えます。そこで親会社に「障害者雇用は、自社の経営にとって重要な問題であるか」を尋ねたところ、「どちらかといえばそう思う」・「そう思う」の回答の合計が、2022年(82.3%)から2024年(100.0%)にかけて増加傾向となりました(図5)。障害者雇用についての法整備が進む中で、親会社の障害者雇用に対する意識の向上が伺えます。
図5 障害者雇用は自社の経営にとって重要な問題である(単一回答)
出所:「障害者雇用に関する実態調査(上場企業向け調査)」
(NRI、NRIみらい実施、2022~2024年)
一方、特例子会社に「親会社は、障害者雇用の重要性を認識しているか」を尋ねたところ、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の回答の合計が2022年(93.2%)から2024年(92.2%)と伸び悩んでいます(図6)。障害者雇用についての法整備や社会環境の変化が進む中で、親会社の障害者雇用に対する意識は高まっているものの、足元の取り組みが追い付いていないこともあり、特例子会社には親会社の意向が伝わっていないと言えます。
図6 親会社は、障害者雇用の重要性を認識している(単一回答)
出所:「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査(特例子会社向け調査)」
(NRI、NRIみらい実施、2022~2024年)
親会社による障害者雇用への取り組みについて、親会社の自己評価と特例子会社からの評価には乖離がある
2024年から障害者への合理的配慮7が義務化され、法定雇用率も2.5%へ引き上げられた中、障害者雇用においては、意識の向上のみならず施策の拡充も課題となります。「親会社の障害者雇用に関連する対応としてあてはまるもの」を、親会社、特例子会社それぞれに尋ねると、19項目中17項目において、親会社の方が高い結果となりました。このことから、親会社の取り組みは、自己評価ほどには特例子会社からは評価されていないという状態が伺えます。
図7 親会社の障害者雇用に関連する対応としてあてはまるもの(複数回答)
出所:「障害者雇用に関する実態調査(上場企業向け調査)」、
「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査(特例子会社向け調査)」
(NRI、NRIみらい実施、2024年)
障害者雇用においてグループ全体での対応の必要性が高まると推察される中で、親会社・特例子会社の認識の乖離を踏まえると、今後の親会社・特例子会社にはグループ全体として障害者雇用の方針・戦略を定め、その中における自社の役割の定義とその実行が求められると考えます。
NRIとNRIみらいでは、これからも障害者雇用の実態や課題とあるべき姿に関して、継続的な調査を実施し、結果の公表と提言を行っていきます。
- 1本文中の漢字表現は、障害者に関する法律を参考にして記載しています。
- 2設問によって回答条件を設けているため、各設問のN数と有効回答数は一致しません。
- 3日本取引所グループのプライム市場、スタンダード市場、グロース市場、Tokyo Pro Marketのいずれかに上場している全企業を指します。ただし、東証外国部、REIT(投資法人)、日本銀行、株式会社野村総合研究所、および2024年8月13日時点で上場廃止となっている企業を除きます。そのため、毎年の調査で対象企業は一致しません。
なお、本稿ではアンケート調査対象に基づき、「上場企業」と「親会社」の表現の書き分けを行っています。
「上場企業」…特例子会社の有無に寄らす障害者を雇用する上場企業
「親会社」…特例子会社を有し、自社内でも障害者を雇用する上場企業 - 4障害者の雇用に特別な配慮をし、法律が定める一定の要件を満たした上で、障害者雇用率の算定の際に、親会社の一事業所と見なされるような「特例」の認可を受けた子会社を指します。特例子会社は別法人のため、障害者のニーズやスキルに応じた環境整備や制度設計が可能です。特例子会社は増加を続けており、2024年6月1日時点で614社となっています(厚生労働省「特例子会社一覧」、「「特例子会社」制度の概要」)。
- 5本稿に記載の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、内訳の計と合計が一致しない場合があります。
- 6民間企業における障害者の法定雇用率は、2024年に2.5%に改定、本稿発表時点では2026年に2.7%に改定の予定です。
- 7身体、精神、知的の障害や、性別、人種、国籍等が要因となり生まれる、日常生活や社会生活を送るうえでの困難さを軽減させるために行われる、周囲からの支援や環境の調整のことを指します。
ご参考:調査概要
<項目> | 上場企業向け調査 | 特例子会社向け調査 |
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調査名 | 障害者雇用に関する実態調査 | 障害者雇用及び特例子会社の 経営に関する実態調査 |
調査期間 | 2024年8月13日~9月11日 | 2024年8月13日~9月11日 |
調査方法 | 配布・回収ともに、 郵送ならびに電子メールで実施 |
配布・回収ともに、 郵送ならびに電子メールで実施 |
調査対象 | 日本取引所グループに 上場している企業 3,714社 |
特例子会社 594社 |
有効回答数(回答率) | 149社(4.0%) | 208社(35.0%) |