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DXの約束する社会――コンピュータと人間の共存を考える

取締役副会長 百瀬 裕規

#DX

#価値共創

2021/06/21

2020年11月、日本経済団体連合会(経団連)は、新しい資本主義の形としてサステナブルな資本主義を基本理念に掲げ、新政権とともに推進すべき成長戦略「。新成長戦略」を発表した。この提言は、私たちはいま大転換期に立っているという認識の下、これまでの成長戦略にいったん「。(終止符)」を打ち、新しい戦略の意気込みを示している。そして、三方よしに象徴されるマルチステークホルダーに配慮した経営が、グローバル化、デジタル化の進展、地方からの人口流出といった内外情勢の急激な変化の中で、多様化・複雑化した要請に必ずしも応えられていないことを問題視している。課題解決に「国家間、世代間、職種間、地域間等の格差の是正」「シルバー民主主義のもと、ともすれば後回しにされる傾向にあった未来への投資」「中長期的な成長戦略ではあるが、同時に可能なアクションからすぐに実行」を掲げ、特に重要なカギとして「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「Society5.0」を挙げている。

DXが導く未来への不安とSociety5.0

野村総合研究所(NRI)でも2010年頃からDX関連のコンサルティング案件が、17年頃からはDX関連のIT投資プロジェクトが増加している。DXは社会的課題の可視化とともに全体・部分最適の両立を通じて多様な価値創造を可能にするものである。しかし、期待する一方でDXが約束する社会のその先に不安もある。
映画の「世界観」で未来を想像してみてほしい。人間が利便性や効率性といった最適社会を求めて技術革新を追求した結果、コンピュータは人間の存在・思想・思考のすべてまたは一部を否定するかもしれない。そして、部分最適よりも全体最適を優先させ、個人の生命とまではいわないとしても、たとえば環境問題への配慮や、災害リスクの軽減と対策費用のバランス・効率化などを理由に、居住地域や行動に指定・制限を加えてくる可能性もある。また、コンピュータ中心の社会に利便性や効率性を感じ慣れてしまうことで、人間が持つ問題解決能力やイノベーション創出能力の成長・発展を縮退させ、その先の自らの未来を切り開く力を失ってしまうのではないかという不安がある。
だからこそ、「。新成長戦略」にも付されている通り、DXを使いこなすのは人間で、サステナブルな資本主義の中心に来るのは人間の英知であるということは極めて重要であり、それがSociety5.0のポイントである。
Society5.0は、Society4.0(情報社会)に続く新たな社会であり、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会のことである。つまり、コンピュータと人間の共存とそのバランスが問われている。そして、議論が集約しないのは、未来のコンピュータの能力を過大に評価する声と過少に評価する声が混在しているからである。たとえば「囲碁・将棋で人間に勝る」「ホワイトカラーは淘汰される」といった具合に、確かにコンピュータが人間の能力を凌駕し始めている。一方、「チャットボットは使えない」「コンピュータにクレーム処理はできない」といった声もあり、われわれが想像する未来が個人で異なっているからである。

DXが進む社会における右脳の重要性

ただ、今日時点ではそこまで難しい話ではない。コンピュータが得意とすること・苦手とすること、人間にしかできないこと・人間には限界があることを整理すればよいからである。
将棋や囲碁、競馬や株価の予測など、学習領域が限定されているテーマは、膨大なデータを高速で処理できるコンピュータに軍配が上がる可能性が高い。かたや、日常会話や雑談といった幅広く無作為のコミュニケーションは、コンピュータが人間に勝ることはないであろう。だとすると、コンピュータが勝る領域では、人間が受け入れて楽しみ方を変える新たな付加価値を導き出せばよいのではないか。一方で、人間が勝る領域ではサービスを提供する側は右脳を活かすのが適当で、サービスを受ける側に立つと、DXにより効率化・最適化された社会で、目一杯、右脳の楽しみを感じることの付加価値が向上するであろう。どちらの領域でも、コンピュータにはできないことを人間が達成するこ とで、サステナブルな資本主義の中心に来るのは人間の英知であることの証明になると思う。

DXが約束する社会において、左脳の活躍の場は多く、その活動が人間の持つ問題解決能力などを活性化させ、私たちはさらに成長してい くはずである。一方で、DXにより効率化・最適化された社会で私たちは今まで以上に右脳で楽しむ機会が増えるであろうし、その結果、さらなるイノベーションを創出できるようになる はずである。この循環が、DXが約束する社会のその先の保証にもつながっているはずである。
いまに言われ始めたことではないが、リベラルアーツの重要性が取沙汰されている。DX社 会の変革期だからこそ、美術や音楽などの文化に接する機会を増やしてみてはいかがだろうか。

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