フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 有機農業で地方創生と脱炭素――生活者も楽しく地球環境に貢献する

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

有機農業で地方創生と脱炭素――生活者も楽しく地球環境に貢献する

ITマネジメントコンサルティング部  佐野 則子

#サステナビリティ

#DX

#スマートシティ

#カーボンニュートラル

2022/10/20

2050年カーボンニュートラル目標の実現に向けて、産官学で取り組むG X(グリーン・トランスフォーメーション)リーグ基本構想への賛同企業が増え、脱炭素先行地域では多くの実証実験が進行中です。食品・農業分野における脱炭素化の取り組みは、農家や企業だけでなく生活者も楽しく参加できると、NRIの佐野則子は指摘します。その手段として有機農業とオーガニック食品が注目される理由を聞きました。

クリーンエネルギーだけでない農業の脱炭素化

化学肥料は作物の生育に速効性があり、人口増加に伴う食糧需要に寄与してきました。しかし、肥料の窒素を作物が吸収するのは半分ほどです。吸収されない余剰窒素は地下水や河川に流れ、大気に一酸化二窒素(N2O)として放出されると100年以上温室効果が続き、地球温暖化の原因となります。既に余剰窒素は正常な窒素の循環を超えて、元に戻せないほど地球環境に悪影響を与えている可能性があり、農業の影響が高いとの科学論文※1が出ています。一方、世界の人口は2030年には85億人(2019年から約10%増)となり食糧増産が予想されるため、化学肥料を使う農業のあり方を見直していく必要があります。

農業分野の脱炭素化の取り組みは、省エネ、農機の電動化、再生エネルギーの活用などがあります。有機肥料を使う有機農業に転換すれば、一酸化二窒素の排出を抑えると同時に、土壌で炭素貯留(二酸化炭素を吸収・固定)もできるため、温暖化対策の効果が高まります。ただし、日本は欧米に比べて温暖で湿度が高いため雑草や害虫が発生しやすく、有機農業に不向きで普及率は0.2%にとどまり、日本では有機農業でつくられたオーガニック食品の年間購入額は、1人当たり2000円にも到達しません。NRIの調査でも生活者の2人に1人(53%)が安心安全面などの理由からオーガニック食品に関心があるのに、価格の高さがネックとなっていることがわかりました。有機農業の拡大に向けて、作り手と買い手の両方の意識や行動を変えていく必要があります。

普及の鍵はスマート農業×地産地消モデル

その参考になりそうな事例として、米国の食品会社ゼネラル・ミルズは、オーガニック食品の魅力をアピールして販売促進するだけでなく、化学肥料で疲弊した土壌を健康にする農法に変えるように農家を支援しています。これまで日本の有機農業は属人的な経験や勘頼みでしたが、デジタルやデータをうまく活用すれば、コスト削減や品質の安定につながります。例えば、海外では一律に肥料をまかずに、農地の衛星画像をAIで分析することで、作物の五大栄養素の状態を予測して農地の場所毎に最適な肥料を撒き、肥料が流れないようにセンサーで把握した土壌水分量から最適な水やりを行う事例があります。また、昼夜を問わず障害物を検知して自律走行するロボットで、農薬を使わずレーザーで除草する事例もあります。

価格を下げる工夫をしているのが、地産地消を推進する米国のアグリゲータです。オンラインで農家と、企業・学校などをマッチングする企業向けマーケット・プレイスを運営しています。農家自ら農作物を物流拠点へ運び、購入側が取りに行くことで少量の農作物を運ぶ物流コストを抑え、農家と購入側でニーズや生産計画を共有して交渉することができます。

生活者を惹きつける「賑わい」の演出も大切です。フランス第三セクターの卸売市場であるランジス・マーケットでは、オーガニック食品の販売以外に、レストラン、ガイドつきツアー、宿泊など多様なサービスを展開し、ECサイトやSNSも運営することでリアルとオンライン双方でオーガニック食品市場を活性化させています。

地方創生に寄与する脱炭素先行地域での取り組みに期待

ウクライナ問題やコロナ渦による輸送コスト上昇の継続などで肥料原料の高騰が継続しています。食糧自給率の低い日本では、食糧安全保障の観点からも有機農業に転換し、化学肥料や農薬の使用を最適化・減量化していくことが望まれます。

環境省は現在、地域課題解決と脱炭素を同時に実現して地方創生に寄与する脱炭素先行地域を募集しています。『食における脱炭素』を宣言し、有機農業で一酸化二窒素の排出削減と炭素貯留を行い、地元の学校や企業、生活者がオーガニック食品を買える仕掛けを同時並行でつくる地域の取り組みが増えることを期待しています。

環境対策より、自分や家族の健康のためと考えたほうが、行動を変えやすいです。海外のオーガニック加工食品は種類が豊富で、パーケージを見ているだけでも楽しくなります。新しい気づきを得たり、生活を豊かにしたりする活動と捉えて、これまで年間で1500円買っていた人は2000円使ってオーガニック食品を試してみる。それが自分の健康増進、農家の支援、ひいては地球環境にも貢献する。そういう無理のない形で、生活者レベルでも地球温暖化対策に参加し、脱炭素化が盛り上がっていけばいいと思っています。

  • 1 “Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries.”,Ecology and Society Vol22 No4 2017,Campbell et al.
  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着