現代社会というシステムは、国家と大企業の権威に対する信頼に基づいて成立している。その信頼が情報や人材などの資源の集中を招き、結果として富が集中し、深刻な格差社会をもたらしたといわれている。その格差を生み出した社会システムを変革する新たな潮流として、Web3（ウェブスリー）に注目が集まっている。
ブロックチェーンを活用してデジタル空間に独立仮想国家を作ったスペインのカタルーニャ州、DeFi（分散型金融）やNFTによる新たな経済圏の隆盛等、昨今のWeb3の実例は枚挙にいとまがないが、いずれの例にも共通する本質は「非中央集権的」と「トラストレス」である。権威から解放された自律分散型エコシステムが大きく成長することで、真の「成長と分配」が実現する新しい社会の到来を筆者も願っている。

求められるGRCの高度化

一方で、そうした新たな潮流はどこ吹く風といわんばかりに、現代社会における国家と大企業の権威はますます強まり、より中央集権的な世の中に向かっていると感じている。さらに、国家と国家、国家と大企業、大企業同士の権威の衝突は、世界中でさまざまな問題を生み出している。地政学リスクは日々高まり、ビッグテックへの一極集中と個人データ保護の問題に加え、サイバーセキュリティへの備えはますます重要になっている。それら複雑化するグローバル社会への対応として、各国政府の規制は年々厳しさを増し、社会に対する国家の圧力は強まる一方である。日本でも今年4 月に改正個人情報保護法、5月に経済安全保障推進法が成立したが、次々と企業の責務が追加され、法令違反に対する罰則が強化されている。
筆者が担当する金融業界においても、リスク管理に対する危機感は高まり続けている。金融庁がまとめた「2022事務年度 金融行政方針※」では、金融経済情勢や世界情勢の先行きが不透明であることを踏まえ、業態横断的なモニタリング方針が新たに明記された。マネーローンダリングなど金融犯罪への対策強化、サイバーセキュリティの強化、システムリスク管理態勢の強化などに対するモニタリング方針が策定されており、当局が金融機関に対して着実なリスク対応を促していくことになる。
リスクを適切に管理し、政府および業界の規制を満たしながら経営とITの融合を図るアプローチを、ガバナンス、リスク、コンプライアンスの頭文字を取ってGRCと呼んでいる。新たな法律の制定や社会規範の変化によって、企業のリスク対応は日々複雑化しており、GRCの高度化が求められている。今やGRCは企業存続の生命線であり、その対応は一過性のものにとどまらず、日常業務と統合された継続的な活動でなければならない。

金融機関にとっても重要なGRC

日常業務と統合され、当局のモニタリングにも耐え得るリスク管理態勢の構築と維持は、金融機関にとって大きな課題となっている。金融犯罪防止のような明確な業務要件に対応するためのGRCツールは比較的古くからあるが、導入には相応のコストがかかる。また、サイバーセキュリティ、気候変動、人権といった非業務的なリスクに対応するためには、ツールを導入するだけではなく、専門性の高い人材で運営体制を構築し、それを維持していく必要がある。
また今後のGRCにおいては、特にサイバーセキュリティリスクへの対応負荷が高まると想定される。民間取引、行政手続きなどのデジタル化を背景に、利用者、企業といった参加者の正当性、データの機密性・真正性の確保は、デジタル世界を構築するための大前提となる。ソフトウエア開発においては、経済安全保障上のソフトウエアサプライチェーンのセキュリティ確保、上流工程でのセキュリティ対策の確保が必須要件になっていく。また、テレワークやゼロトラストを背景とした攻撃対象の拡大に伴い、サイバーセキュリティリスクの継続的な評価、可視化はますます重要になる。国内でサイバーセキュリティ人材の不足が叫ばれる中、これらのリスクに対して自力で対応し続けることができる企業は、かなり限定されるであろう。
野村総合研究所（NRI）は、金融機関向けに複数のビジネス・プラットフォームを提供しており、多くのお客様にご利用いただいている。
NRIの金融ビジネス・プラットフォームは、グループ内のセキュリティ専業会社であるNRIセキュアテクノロジーズの最新のノウハウやソリューションを実装することで継続的にGRCを強化しており、グローバル社会の複雑化に対応できるよう進化を続けている。NRIの金融ビジネス・プラットフォームをご利用いただくことで、お客様のさまざまなリスク対応負荷を軽減することに貢献できると考えている。それは、業界および当局からの期待であるとともに、業界のビジネス・プラットフォームを提供するNRIとして当然の使命である。今後とも、持続可能な金融ビジネス・プラットフォームを安定的に提供し、業界全体の強靭化とDX化の推進に貢献していきたい。

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