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迫る物流危機、ドライバー不足への有効な打ち手は

アーバンイノベーションコンサルティング部 小林 一幸、小畑 皓平

#DX

#イノベーション

#運輸・物流・倉庫

2023/08/10

物流の需要が高まる一方で、トラックドライバーの不足が進んでいます。ドライバーの時間外労働が規制される「2024年問題」や、カーボンニュートラルに伴う脱炭素要請の強まりは、この問題に拍車を掛けました。こうした物流危機への打ち手となるのが、複数の物流事業者が協力して荷物の輸送を行う「輸配送の共同化」です。共同化を実現するために企業はどんな課題に立ち向かい、何をすべきなのか。本テーマに詳しいアーバンイノベーションコンサルティング部の小林 一幸、小畑 皓平に聞きました。

深刻化する物流危機、2030年には約35%が配送不能に

EC(電子商取引)の普及で宅配の需要は日々拡大しています。また、企業間物流においても在庫を圧縮したい企業のニーズによって小ロット・多頻度の輸送が増えるなど、物流ニーズは高まる一方です。しかし、それを担うトラックドライバーの不足は深刻化しており、供給が追いついているとは言えません。このような中、物流業界ではトラックドライバーの時間外労働が規制される「2024年問題」や、カーボンニュートラルに伴う脱炭素要請の強まりに直面しています。それでなくても従来の低生産性を改善している途上の業界にとって、こうした圧力はやはり重荷です。物流業界は、かつてない逆風にさらされていると言っても良いでしょう。

今後、日本の物流はどうなるのでしょうか。野村総合研究所(NRI)の試算によると、2030年には全国の約35%の荷物が運べなくなり、特に東北や四国といった地方部の物流がより窮迫することがわかりました。このような中で現在の物流ネットワークを維持しようとすると、料金の割増や運送頻度の低下が生じる恐れがあります。

こうした物流危機に対する打ち手として有効な対策として注目されているのが、「輸配送の共同化」です。すでに食品業界や日用品業界などの同業種内を中心に、多くの企業が共同配送を進めています。この勢いで輸配送の共同化が広がっていけば、低迷しているトラックの積載効率を向上させ、労働力不足への対策と労働生産性の向上を両立できるはずです。

注目される「輸配送の共同化」、成功の鍵は企業の連携

輸配送の共同化に向けて、具体的にはどのような取り組みが行われているのでしょうか。輸配送には宅配、店舗配送などの地域内の配送、都市や物流拠点間を結ぶ幹線輸送の3つの領域があります。宅配の領域では、特に地方部で宅配事業者間の共同配送が進んでいます。一例として、宮崎県西米良村では佐川急便、日本郵便、ヤマト運輸の3社と村営バスによる貨客混載事業「ホイホイ便」を 2020年3月から開始しました。各宅配事業者の荷物を保管する中心拠点を設け、そこから村営バスを使って各戸への配達を行っています。

地域内の配送においては、荷主と配送事業者のマッチングサービスが登場し、特に突発的な輸配送が発生した際に活用されています。ただし現時点では貸切配送となっており、共同配送に対応することが今後の課題です。

幹線輸送においては、特積事業者や荷主間での共同運行化が進んでいます。例えばトナミホールディングス、第一貨物、久留米運送の3社は2012年、それぞれが共通のトラックターミナルに持ち込んだ貨物を鉄道で共同輸送する「ジャパン・トランズ・ライン(JTL)」を設立しています。こうした共同化とあわせて、ドライバーの長時間勤務を抑制するため、中継拠点でドライバーの交替や貨物の積み替えを行う中継輸送化の取り組みも見られるようになりました。

輸配送の共同化を進めるにあたって、企業はまず共同輸配送したい地域・ルートを決めておくことが必要です。互いの物流実態を可視化し、共同化の可否が判断できる状態にして、相手を見つけやすくするためです。その上で共同輸配送のルールを作り、実験などを経て共同化を実現するという流れが良いでしょう。さらに共同化を加速させるには、荷主企業の関与も重要です。なぜなら配送条件は荷主主導で決まるケースが多いため、共同輸配送立ち上げにも小売企業などの荷主企業の参画があると円滑に進みます。

共同化が実現したら、継続的に効果を発現させることが必要です。データを活用して最適配送を実現する機能や、個社のデータを共同輸配送に参画する他社に漏えいさせないような適切な管理機能が必要で、これらを提供する主体を巻き込むことも重要です。持続可能な物流を実現するためには、荷主企業や配送事業者といった物流企業同士の連携が必要不可欠です。そのためには物流業界が抱える課題を社会全体で共有し、一体となって取り組めるかどうかが鍵となるでしょう。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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