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希望資産が創る国の経済再生

研究理事 未来創発センター長 神尾 文彦

#サステナビリティ

2023/08/18

7カ国首脳会議(G7広島サミット)が今年5月に開催されて以降、G7における日本経済の立ち位置を考える機会が多くなった。多くの方が指摘しているとおり、G7諸国、いや世界の中で日本経済の実力が相対的に落ち続けている。GDP(量)こそG7で2位(世界第3位)を堅持しているが、一人当たりGDP(質)は、世界経済が2000年から2倍強増加している中、日本はほぼ横ばいで推移している。相対的に国の順位は下がり、2021年にはG7では最下位(世界的にも27位)である。一人当たり家計消費支出は2012年以降ほぼ停滞、投資に至ってはそれ以上の期間で停滞し、ここ数年急激に数値を伸ばした米国・英国・ドイツなどに抜かれてしまった。これを見ると、日本はすっかりお金を使わない、そして投資に見合う収益の少ない国になってしまったと思える。

日本経済の新たな可能性

ただ、このような非観的なコメントはもう聞き飽きただろう。少し明るい話をしよう。日本は毎年のフローの経済活動こそ低迷しているが、過去の活動によって蓄積されたストック(資産)は大国の水準にある。一人当たり資産額は着実に積み上がり、2020年の値は約1600万円とG7諸国の中ではトップだ。金融資産額はもちろん、非金融資産額もここ10年間で伸びている。まさに堂々たる資産大国だ。
しかしこのことは、日本経済のアンバランスさを浮き彫りにしてしまったともいえる。資産額に対するGDPの割合、すなわち企業経営でいうところの総資産回転率は、G7諸国の中でも低い水準で推移している。英国・米国がここ10年で総資産回転率を高めているのと対照的に、日本の回転率は一向に上昇していない。1990年代以降の経済低迷によって、ストック経済化への動きがやや沈静化してしまったように感じる。
私は、今こそ次なるストック経済の構築を検討すべきではないか、と提言したい。それは「社会の課題」を克服し、「個人の不安」を払拭する資産、いわば「希望資産」と称する資産を創ることにより、消費・投資を活性化させていく経済構造への転換だ。国は「創造的資産活用」という言葉を掲げているが、単なる「活用」ではなく、資産の創り替えをしながら活用することが重要だ。

「希望資産」による成長戦略の未来へ

たとえば、日本は陸地面積に占める森林面積の割合が7割と、G7諸国の中で突出している。しかも森林面積の4割は人工林であり、その半数近くが植林以降50年を迎え、更新期にある。これを契機に、森林の持つ環境保全、CO2吸収、エネルギー創出などの各機能を強化することで、気候変動リスクに対する国民の安心と、排出権売買による外貨獲得を同時に実現することが可能となる。
また都市化地域では、急激な人口減少と大都市圏への移動により、土地・住宅・固定資産の需給ギャップが大きくなり、それが空き家・空地・耕作放棄地の増加につながっている。敷設・整備されてきた道路・上下水道などのインフラ資産も更新期を迎えている。これを契機に地域・コミュニティの自然災害と社会災害を守る希望資産への転換が必要だ。地域資源(太陽光、地熱、畜産など)を活用したエネルギーのバックアップインフラを構築することなどは、国民生活に安心と希望をもたらす資産となる。
欧州では、「ソーシャルレジリエンス」の実現がポストコロナにおける国・地域づくりのキーワードとなっている。気候変動に伴う降水量の減少、一人暮らしによる孤立増加、感染症リスクの増大などに耐え得るコミュニティや経済を構築することが、国や地域の成長・発展にとって重要になるという考え方だ。日本の資産形成にもこの思想を取り入れることが必要なのではないか。
昨今のデジタル技術の革新によって、資産の一元管理と活用方策に必要な膨大なデータが把握できるようなっている。AI・デジタルツインなどの技術を駆使して、国全体の資産の属性(所有関係)、活用状況、資産上で活動する人・モノ・CO2の動き、直面するリスクなどを、「面⇒地域」だけでなく「立体⇒空間」として把握することが可能となっている(国土交通省が主導する3D都市モデル「PLATEAU」など)。また、宇宙空間でも極めて多様な資産データを把握できる。たとえば、宇宙上で地下に埋設している水道管の漏水率などを基に、水道管理を適正化する取り組みが行われている。
今後は、これらの一元化されたデータを基に、希望資産の形成・活用をどう進めるかについての知恵が求められる。国では不動産ID活用に向けた官民連携の協議会を設置することが決まった。これを契機に国全体での資産構築と活用への取り組みが加速することを期待したい。
希望資産形成による効果はすぐに出ないかもしれない。ただ、国民が前向きで希望を感じられる雰囲気を創ることが成長戦略の一つであり、停滞が続く経済再生への鍵となる。

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