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物流革新と次世代人材育成の展望

米国ジョージア工科大学 Benoit Montreuil 教授
パリ国立高等鉱業学校 Eric Ballot 教授
NRI 産業ITイノベーション事業本部 産業ナレッジマネジメント室 水谷 禎志

#DX

#運輸・物流・倉庫

2023/08/29

トラック運転手の時間外労働時間の上限規制に伴う「物流2024年問題」に対応するため、2023年6月に政府が「物流革新の政策パッケージ」を発表、荷主企業に物流担当役員が配置される方針が示されました。今後、物流革新に向けた人材育成が課題になるとNRIの水谷禎志は考えます。世界で進む物流革新の1つ、フィジカルインターネットの研究を牽引してきた米国ジョージア工科大学のブノワ・モントルイユ教授とパリ国立高等鉱業学校エリック・バロー教授の二人を迎えて、海外での物流革新に関わる人材育成の状況を聞きました。

経営テーマとして重視されるようになった物流・SCM

水谷 日本では、物流やサプライチェーンマネジメント(SCM)を学べる大学や大学院が少なく、企業に就職した後、物流やSCMに関連する業務に携わる機会を通じて知識を習得することが一般的です。フィジカルインターネット実現する上でも、物流領域とデジタル技術に明るい人材の育成が必要になると思います。米国やフランスでは、どのような状況でしょうか。

モントルイユ 米国にはSCMを教えるプログラムが多数あります。ジョージア工科大学は全米でもトップクラスのサプライチェーンやロジスティクスの研究機関であり、何百人もの学生がSCMやサプライチェーン・エンジニアリングを専攻しています。専門人材の市場価値は非常に高く、卒業生の年収は10万ドル超。博士レベルでは年収18万ドルとも聞きます。それから、大手のEC企業、小売業、物流会社など企業との産学連携でこの分野の人材を育てる取り組みも活発です。そのほか、ジョージア工科大学は専門家教育にも注力しており、長い時間をかけて開発されたカリキュラム群を産業界に提供してきました。最近では個別企業向けにカスタマイズされたカリキュラムの提供も増えています。

バロー 20年前の欧州では、物流は経営学のカリキュラムの一部にすぎず、経営幹部はこの分野に興味を示しませんでした。それが今、状況は一変し、SCMや物流に特化した教育カリキュラムが整備されるようになりました。また、企業でもサプライチェーン担当役員がCEO直属になるなど、物流は経営テーマとして重視されるようになっています。

職業としての魅力度が増してきた物流・SCM

水谷 物流・SCMを習得した専門人材の市場価値が上がったり、物流が経営テーマとして重視されたりするようになった背景にどのようなことがあるのでしょうか。

バロー かつてサプライチェーンとは、ローカルで行われる単調な業務を指していました。しかし今では、世界中に製品を供給したり、1時間配送などサービスの種類が増えたりと業務が複雑化し、優秀な人材でなければオペレーションが回らなくなっています。また、テクノロジーも変化して、職務の難易度が上がったことで、キャリアを積む場としての魅力度が増しています。たとえば、アップル社CEOのティム・クック氏はサプライチェーン畑の出身です。

水谷 日本の物流担当者の多くは実務を通してスキルを身につけていきます。フィジカルインターネットを含め、「今までにない、新しいこと」を始めるとなると、最適化やシミュレーション、システム工学など新しい知識が必要ですね。

モントルイユ それが重要な問題だという認識の下で、ジョージア工科大学では過去2年間、フィジカルインターネットを中心に、シミュレーションを用いるなどゲームベースの学習を取り入れた新しい修士課程のプログラム開発に注力してきました。このほか、改善だけでなく改革に取り組める次世代人材を育成し、現役人材をアップグレードするためのトレーニング教材の開発にも取り組んでいます。

日本でも物流革新のための人材育成の仕組みづくりが急務

水谷 私はSCMの世界標準「ASCM」のインストラクターとしてASCMの普及啓発に携わってきました。日本企業は個々の企業の現場での改善を重視する傾向が強く、グローバルな視点でSCMを習得することに関心を向ける企業は極めて少数です。こうした状況を変えるためのヒントをいただけませんか。

バロー 変化を起こす原動力は国や会社によって異なるかもしれません。米国はビジネス主導ですが、欧州における主な原動力は、エネルギー転換、環境対応、デジタル化といった社会課題解決の必要性です。フランス政府は、国の競争力を高めるために新しい技術を賢く利用することが必要と考えました。私たちがDIG-SCALE (Digital & Green Supply Chain Academy Learning)という人材育成プログラムを提案したのも、政府が次世代サプライチェーンマネージャー育成を必要と考えたからです。DIG-SCALEでは、IoT、通信技術、ビッグデータ、データサイエンス、スマートコントラクトなどもカリキュラムに含まれ、受講者は座学やゲームなど様々な方法論で実践的に学習しながら知識を増やし、実務上で何が有効であるかを理解していきます。私たちがカリキュラムを作り、トレーニングを行う専門組織にそれを提供し、大規模に展開しようと考えているところです。
変革を進める時には、文化の違いも影響します。フランスは中央集権的な国なので国民は政府の方針に従いますが、米国は市場志向が強い。日本の場合、もしかすると政府が重要な役割を果たすかもしれませんね。

モントルイユ 確かに北米では、フランスのようなやり方では上手くいかないと思います。日本の現状や業界を考慮して、何が上手くいくかを考えなければなりません。個人的には、日本は欧州のフィジカルインターネット・ロードマップを参考にしながら上手く適応しようとしていると評価しています。自分たちが変わらなければいけないと理解すれば、良い解決策は見つかるものです。ただし、スピード感を持って現状に対応するためには、次世代人材だけでなく、現役世代も含めた人材のアップグレードが欠かせません。経営幹部に限らず、複数の層を対象にして、人材育成のビジョンを策定する必要があります。

水谷 今後日本では「物流革新の政策パッケージ」のもと、荷主企業の物流担当役員は物流・SCMに関する様々な意思決定の責任を担うことになるでしょう。その役員を支えるスタッフを含め、荷主企業の中の複数の階層で、物流×デジタル領域の人材育成を継続することが重要になります。米国とフランスでそれぞれ進行中の、物流・SCM領域でデジタル化を進めるための次世代人材育成プログラムは、日本での物流革新を進める上でも参考になるのではないでしょうか。それらのエッセンスを取り込みつつ、日本国内で産学官がうまく連携する形で、物流×デジタル領域の人材育成が進むことを期待しています。本日はありがとうございました。

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