フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 人間とAIの多元的な未来とは――NRI未来創発フォーラムTECH & SOCIETY 後編

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

人間とAIの多元的な未来とは――NRI未来創発フォーラムTECH & SOCIETY 後編

#AI

#DX

#経営

2024/02/02

2023年10月30日にオンライン開催された「NRI未来創発フォーラムTECH & SOCIETY」。「生成AI時代の新たな社会」をテーマに生成AI時代の人間とAIの関係、AIが常在する新たな社会における課題や展望について考察しました。
後編では、未来を大胆に予想する『WIRED』日本版と、現象を深く洞察するNRIが、AI脅威論やAIの限界論をこえて、AIが常在する新たな社会像について意見を交わした対談の内容を報告します。

前のページ:生成AI時代の新たな社会を展望――NRI未来創発フォーラム TECH & SOCIETYを開催 前編

創造化社会における<AIと人間のコラボレーション><人間の役割>

私たちは生成AIをどう迎えるべきなのか。AIが常在する新たな社会像とはどんなものなのか。Session 4として、『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏とNRI未来創発センター デジタル社会研究室長の森 健が対談しました。

はじめに松島氏が「生成AIの知識の獲得が加速度的に進んで、創造化社会が訪れた時、そこに人間は果たしているのだろうか。Session3で人間が “シン・ジェネラリスト”としてAIをマネジメントする枠組みが出されたが、人間とAIはコラボレーションしていけるか」と疑問を投げかけました。
これを受けて森は「例えば人間とAIが共同して画像診断を行うとエラー率が非常に低くなるなど、実際いくつかの分野で人間とAIのコラボレーションでパフォーマンスが高くなる事例が見られるので、まずはそこに期待したい。資本主義で人間が分業してきたように、AIも得意分野ごとに分業し、互いにコラボレーションしていくだろう。そこで人間はマネジメントの役割を担う可能性があるが、すべての人間が担えるかは疑問で、多くの人間はAIを後方から支えるゴーストワーカーになってしまうのかもしれない」と語りました。

さらに松島氏が「“シン・ジェネラリスト”のマネジメントや、創造化社会における創造業についてどんなイメージを持っているか」とたずねると、森は「現在クリエイターと呼ばれるような人たちが創造業の中心を担っている。また、創造する人たちを支援する事業にも注目している。米国のFantasy社は人工人間を企業に派遣してアイデア出しに参加させているが、これも創造業の一例だ。また、VRで体験シミュレーションを提供するような事業も創造業と言えるだろう」と続けました。
そして「肉体労働をロボットが代替していく可能性は理解できるが、生成AIが知的労働を担うのか」と疑問を投げかけた松島氏に対し、森は「ロボットは導入費用がかかり、スキル的には可能でもコスト的に見合わないため、実際には人間がやり続けることもありうる。躯体を要さずにAIだけで行える知的労働についてはAIに置き換わっていくだろう」と述べました。

人間とAIの多元的な未来

Session2の機械的社会と生物的社会のどちらを拡張していくかというテーマについて、松島氏が「人間はこれまでひたすら機械的社会を進んできたが、AIを使って、人間は自然化する方向や生物的社会を進んでいけるのだろうか」と疑問を呈しました。

森は「Siriの共同開発者トム・グルーバーは『人間的なAIこそが良いAIだ』という言い方をしているが、AI開発者のマインドも人間らしいAIを求める方向に変わっていると感じる。機械的社会か生物的社会かという二元論ではなく、社会システムも連続体であって、その中間もありうるという認識に立ちたい」と強調。
松島氏はこれに賛意を示し、Session1での未来像のシナリオについて「人間とAIが協調して創造化社会を実現する『良きダイモン』、少数が作ったアイデアを大多数が消費する『アイデア消費』、生成AIがアイデアを自動生成して人間が従う『アイデア・オートメーション』という3つにもう1軸を加えるならば、「AIに任せているが自然の摂理に従って生きる人間」といった形もあるかと思う」と意見を述べると、森も「生成AIに人間が従う未来が不幸せかというと、評価は難しい。例えば生活必需品や交通システムを作ることは生成AIが担って、人間は趣味で創造的なことを行うという未来もあるかもしれない。未来像も連続体で、多元的だと思う」語りました。

2050年に向けてすべきこととは

続いて、『WIRED』日本版VOL.49「THE REGENERATIVE COMPANY―未来をつくる会社」の内容について説明を求めた森に、松島氏は次のように語りました。

「“サステナブル”が環境負荷をできるだけ低減し、その状態を持続可能にすることを意味するのに対し、“リジェネラティブ”は自然環境が本来持つ生成力を取り戻すことで再生につなげていくことを指す。本フォーラムのテーマである生成AI(ジェネラティブAI)には本来、自然で生物的な、繁殖する、生まれるといった意味合いがあるが、ややもすると、非常に人工的なものだというイメージを持たれる。『WIRED』ではデジタルを、例えば植物のようにどんどん広がっていく自然なものと捉えている。生成AIも自然か人工かという狭い二元論を超えて、新しい概念に発展させるべきだ。特集のタイトルにした「リジェネラティブ・カンパニー」とは、デジタルの生成力も自然の再生力も使って常に生成を繰り返し、社会システムを革新していく企業で、今後さらに注目されていくだろう」。

さらに森が、「『WIRED』の創刊30周年記念号「Next Mid-Century 2050年、多元的な未来へ」では、どんな未来像が見えたか」とたずねると、「前のMid-Centuryは1950年代、私たちは宇宙開発や空飛ぶタクシーに象徴されるような20世紀型の未来像をシェアしていて、21世紀の今でもそれが続いている。これからの30年、次のMid-Centuryの2050年代に向けて私たちがすべきことは、世界観、価値観、倫理観などが異なる多元的な未来をどれだけ描けるかだと思う」と松島氏。

最後に森が、「日本や東京は世界で最もクリエイティブな場所だと認識されているという調査結果(Adobe State of Create 2016)があるが、日本のクリエイティブの将来についてどう思うか」とたずねたのに対し、松島氏は「真のクリエイティビティは自分が理解できないものから生まれると思う。(理解ができない)生成AIと共存しようとするか、 あるいは、私たちが理解できる範囲の中にそれを押し込めようとするか、そうした態度がまさに今後問われてくるだろう」と締めくくりました。

関連書籍

『WIRED』日本版VOL.49(2023年6月発行)
「THE REGENERATIVE COMPANY 未来をつくる会社」

『WIRED』日本版VOL.50(2023年9月発行)
創刊30周年記念号「Next Mid-Century 2050年、多元的な未来へ」

登壇者プロフィール

松島 倫明 氏(まつしま・みちあき) 未来を実装するメディア『WIRED』の日本版編集長としてWIRED.jp、WIREDの実験区“SZメンバーシップ”、WIREDカンファレンス、Sci-Fiプロトタイピング研究所、WIRED特区などを手がける。NHK出版を経て2018年より現職。内閣府ムーンショットアンバサダー。訳書に『ノヴァセン』(ジェームズ・ラヴロック)。

森 健(もり・たけし)NRI未来創発センター デジタル社会研究室 室長。
研究員、コンサルタントを経て、野村マネジメント・スクールにて経営幹部育成に従事し、2019年NRI未来創発センター所属。デジタル技術が経済社会にもたらすインパクトを多面的に研究、情報発信。主な共著に『デジタル資本主義』(2019年大川出版賞受賞)、『デジタル国富論』『デジタル増価革命』。

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着