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【2022年10月更新】コロナ禍収束にともなう「リベンジ消費」は限定的

~日本人のおよそ半分が「今の生活様式に慣れてしまった」~

2022/10/25

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概要

  • ● 

    野村総合研究所(NRI)では、コロナ禍が収束した場合の生活者の消費価値観や生活行動を把握するため、2022年7月に全国9,400人を対象とした大規模インターネット調査を実施した。

  • ● 

    コロナ禍(新型コロナウイルス感染拡大)が完全収束した際の消費意向について見ると、今後の消費全体動向としていわゆる「リベンジ消費」が起こる可能性は、2021年7月調査時、2021年12月調査時と同様に、2022年7月時点でも限定的である。

  • ● 

    「コロナ禍以前の生活状態に完全に戻る」と考える人は24%で、2021年12月調査の19%より増加したものの、「ある程度は戻るが、完全には戻らない」「コロナ禍と同じ生活を送り続ける」と回答した人の方が依然として多い。その理由として、「コロナ禍が完全には収束するとは思えない」といった消極的な考えよりも「今の生活様式に慣れてしまったから」という人が約50%にまで増えており、コロナ禍とは異なるニューノーマル(新常態)な生活様式が根付いてきたことが伺える。

  • ● 

    2022年10月11日より政府が開始している「全国旅行支援」は一時的に旅行および関連消費の活性化につながると考えられるが、生活者の消費マインドが低い状態であることを踏まえると、恒常的にコロナ禍以前の消費を取り戻すことにはつながらず、本質的な施策とはいえない。企業は安易に既存商品・サービスの「リベンジ消費」を期待するのではなく、変容した生活者の趣向や行動を捉え、デジタル化による新たな利便性価値やプレミアム体験価値の提供を目指したビジネス展開を検討していくことが求められる。

リベンジ消費をしようという意向は一貫して低い

野村総合研究所(NRI)では、コロナ禍が収束した場合の消費者の消費価値観を把握するため、2022年7月に日本に在住する15~69歳の男女個人9,400人を対象とした大規模インターネット調査を実施した。本調査では、コロナ禍における消費者の価値観や行動変化を定期的に把握するため、2021年7月(同対象者18,800名)および2021年12月(同対象者約3,000名)にも同一の設問を行い定点観測している。

(2022年7月調査および過去調査の概要は本レポート末尾を参照。なお、2021年7月の調査結果については、https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2021/cc/1018_1を、2021年12月の調査結果についてはhttps://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/0111_1を参照)

まず、コロナ禍が完全に収束した場合を想定し、外食や旅行など各活動への支出意向がコロナ禍以前の水準まで戻るかどうかについて、全体傾向を示したものが図1である。例えば「国内旅行」については、「コロナ禍以前の水準よりもさらに多くする」は7%であり、「コロナ禍以前の水準に戻す」の39%を合わせても半数以下である。半数以上は「コロナ禍以前には戻さない」など、消費意向が変化していることを示していた。

昨今「リベンジ消費」への期待が高まっているが、NRIはリベンジ消費を、「これまで我慢していた消費・行動意欲を爆発させるようにコロナ禍以前よりも多く消費や行動をすること」と定義している。そして回答項目における「コロナ禍以前の水準よりも(支出を)さらに多くする」の割合を、リベンジ消費傾向を示すものとして定点観測している。例えば「国内旅行」についてみると、同項目の回答比率はちょうど1年前の2021年7月調査では8%だったが、同年12月調査では10%へとやや増加した。しかし、再び2022年7月調査では8%に減少していることから、消費者の意識としてこれまでの消費・行動意欲を爆発させるほどの意向はないと考えられる。「美術館や博物館の鑑賞」や「劇場でのコンサート・演劇の鑑賞」などでもこうしたリベンジ消費の傾向が2021年12月調査では一時高まったが、2022年7月調査では減少していることを踏まえると今後のリベンジ消費の発生はかなり限定的と言える。

図1:コロナ禍完全収束後における各活動への支出意向(2022年7月)
(各活動において、コロナ禍以前から全くお金を使っていない人は除いて集計)

  • 小数点以下を四捨五入しているため、合計値が100%にならない場合がある。以下の図も同様。

出所)NRI「日本のデジタル活用状況調査」(2022年7月)

コロナ禍以前の生活に完全に戻ると考える人は1年前から増えていない

生活全体の状況として、「コロナ禍以前の生活に完全に戻る」と回答した人は2022年7月調査では24%であった(図2)。2021年12月調査では、同回答比率が19%と2021年7月調査から減少していたが、5%戻った形となった。ただし、「コロナ禍と同じ生活を送り続ける」と回答した人も2021年12月の13%から2022年7月の17%へ4%増えており、ちょうど1年前(2021年7月)と同じ割合に戻っている。つまり、コロナ禍収束後の生活の仕方に対する意識は、1年前から特段変わってはいないことがうかがえる。

図2:コロナ禍収束後における生活全体の状況
(2021年7月、2021年12月、2022年7月の変化)

出所)NRI「日本のデジタル活用状況調査」(2021年7月、2022年7月)、
NRI「生活者年末ネット調査」(2021年12月)

しかし、「コロナ禍以前の生活に完全には戻らない」および「コロナ禍の今と同じ生活を送り続ける」と回答した理由においては、この1年間で変化が起きている(図3)。端的に言えば、2021年7月時点では、コロナ禍以前の生活に戻らないと考える人の半数強(55%)が「コロナ禍が完全に収束するとは思えない」ので生活様式は元に戻さない、と回答していたのに対して、2022年7月時点では、半数弱(48%)が「今の生活様式に慣れてしまったから」元の生活様式には戻らない、と回答しているのである。

コロナ禍に入りまもなく3年が経とうとしている中で、社会全体の半強制的な自粛生活や、テレワークが推進・定着したこと、オンライン化・デジタル化した生活様式が長引いたことから、いよいよ人々の生活の中でニューノーマル(新常態)な生活様式が根付いてきたものと考えられる。

図3:コロナ禍の収束後の生活変化と元に戻らない理由の全体構造
(左から順に2021年7月、2021年12月、2022年7月の変化)

  • 「元に戻らないと考える理由」は当てはまる項目の複数回答および最も当てはまる項目の単一回答で調査しており、上記は最も当てはまる項目について集計している

出所)NRI「日本のデジタル活用状況調査」(2021年7月、2022年7月)、
NRI「生活者年末ネット調査」(2021年12月)

なおNRIでは、生活者による様々なデジタル活用を基軸としたニューノーマルな生活様式、およびそれによって生み出される消費を「ニューノーマル消費」と呼んでいる(「ニューノーマル消費」の具体的な内容についてはhttps://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/0111_1を参照)。

「ニューノーマル消費」のわかりやすいイメージは、コロナ禍前のようにわざわざ外出したり他人と対面で交流することで非日常感を得るのではなく、自宅で工夫しながら非日常感を楽しんだり、有料動画配信サービスなどデジタルサービスで余暇を気軽に楽しんだりすることが挙げられる。

2022年7月調査では生活者の満足度を「まったく満足していない」を1点、「非常に満足している」を10点として回答してもらっているが、実際にデジタルサービスを利用している人の満足度は利用していない人よりも高い。例えば、ネットフリックスなどの定額有料動画サービス利用者の生活満足度平均が5.7点に対して非利用者は5.5点、ウーバーイーツなど食事の宅配サービス利用者の生活満足度平均が5.8点に対して非利用者は5.6点、オンライン学習利用者の生活満足度平均が6.0点に対して非利用者は5.5点などである(注:年齢、性別、世帯収入などの属性要因を考慮しても、これらのデジタルサービス利用者の生活満足度は有意に高いことが示された)。

なお、2022年7月調査では聴取していないが、2021年7月および12月調査では国内旅行について再開する条件を質問していた。再掲となるが当時の調査結果を図4に示す。「政府がGO TOキャンペーンなどで後押ししてくれたら」の回答比率が2021年7月の30%から2021年12月調査の36%へと上がっており、今後GO TOキャンペーンの再開が具体化されることによって、国内旅行および関連消費の拡大に寄与できる可能性が示唆されていた。

2022年10月11日よりGO TOキャンペーンの代わりとなる「全国旅行支援」が開始されている。本施策は地域観光事業支援である「県民割」と併用できることから、自治体やプランによっては利用者にとってよりお得に旅行できるものとなり、利用者のメリットが大きい施策となっている。しかし、本施策の対象期間は12月下旬までとされており、一時的に旅行および関連消費の活性化につながると考えられるが、恒常的かつ本質的ではない。コロナ禍によるデジタル化浸透により変容した生活者の趣向や行動を捉え、デジタル化による新たな利便性価値やプレミアム体験価値の提供を目指した施策を企業は進めていかなければ本当の意味でコロナ禍前の消費を取り戻すことはできないだろう。

例えばデジタル化による新たな体験価値提供については、NHKの取り組みが参考になる。NHKは旅行者に対して、訪れた現地に関連付けられた過去の歴史や文化情報をスマートフォンで手軽にアクセスでき、単なる観光に留まらない体験価値を提供する実証実験を行うなど、デジタルを活用した新しい取り組みにチャレンジしている(詳しくはNHK「インターネット活用業務についての社会実証」https://www.nhk.or.jp/net-info/social_proof/を参照)。また観光白書(国土交通省)の令和4年版では、今後の観光復活に向けた施策の一つとして、XR(注:VR、AR、MRなど現実空間と仮想空間を融合する技術)および5G等のデジタル技術を用いた、地域の観光資源の融合による新たな体験価値の創出と旅行者の周遊促進を挙げている。

AR(拡張現実)技術を使って、現地の100年前の映像を現在地に重ね合わせる、あるいは特殊な手袋を着用して、現地の伝統工芸品(例:陶器)について、工匠のスキルを体験するようなサービスが今後は生まれてくるのではないか。旅行者が従来感じられなった体験価値を得ることができれば、非日常感を楽しむことを目的とした新たな旅行需要を生むきっかけになる。宿泊費補助という短期的な施策では生み出せない、長期的なニーズの深堀につながる可能性は十分あるだろう。既存の商品・サービスの需要回復を目指す「リベンジ消費」ではなく、デジタルを活用した新たな体験価値による新規消費の掘り起こしに注力すべきである。

図4:国内旅行を再開する条件(複数回答、2021年7月と2021年12月の変化)

出所)NRI「日本のデジタル活用状況調査」(2021年7月)、
NRI「生活者年末ネット調査」(2021年12月)

ご参考:調査概要(2022年12月、2021年12月、2021年7月)

調査名 「日本のデジタル活用状況調査」
実施時期 2022年7月12日~2022年7月22日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人(対象者は2020年国勢調査における都道府県別・年齢階級(10歳刻み10代は15歳~19歳)別の構成比に応じた割付回収を行った)
有効回答数 9,400人
主な
調査項目
現在の生活に対する意識 生活満足度、幸福度、領域別満足度
アフターコロナの
意識
コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
デジタル利用行動 保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
デジタルガバメント デジタル公共サービス利用実態
就労スタイル 就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向 消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計 コミュニケーションを取る相手、直面している不安や悩み
調査名 「生活者年末ネット調査」
実施時期 2021年12月11日~2021年12月12日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人(対象者は2020年国勢調査における年齢階級(10歳刻み10代は15歳~19歳)別の構成比に応じた割付回収を行った)
有効回答数 3,097人
主な
調査項目
情報収集行動 情報収集の仕方・変化
アフターコロナの
意識
コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
就労スタイル 就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向 消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計 景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み
調査名 「日本のデジタル活用状況調査」
実施時期 2021年7月22日~2021年8月4日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国の満15~69歳の男女個人(対象者は2020年国勢調査における都道府県別・年齢階級(10歳刻み10代は15歳~19歳)別の構成比に応じた割付回収を行った)
有効回答数 18,800人
主な
調査項目
新型コロナウイルスへの
対応
新型コロナウイルスに対する不安感、ワクチン接種状況
アフターコロナの
意識
コロナ禍収束後の支出意向、生活変化に対する考え
デジタル利用行動 保有する情報端末、ネット利用時間、利用用途
デジタルガバメント デジタル公共サービス利用実態、地域のデジタル化実態
就労スタイル 就労状況、就労意識、テレワーク実施状況
消費動向 消費に対する意識、オンラインサービス等の利用意向・変化
生活全般、生活設計 理想の暮らし、直面している不安や悩み

執筆者情報

  • 林 裕之

    マーケティングサイエンスコンサルティング部

    シニアコンサルタント

  • 森 健

    未来創発センター

    グローバル産業・経営研究室長

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株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
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