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大規模プロジェクトのPMに求められるもの(前編)――根幹は高い専門性

理事 室脇 慶彦

#経営

2018/01/31

大規模プロジェクトを取りまとめるプロジェクトマネジャー(PM)には、一般的なプロジェクトの場合とは異なるスキルが求められると言われています。野村総合研究所(NRI)で産業系、金融系(銀行、信託銀行、ノンバンク)、損保などの大規模システム開発に携わってきた室脇慶彦に、大規模プロジェクトのPMに求められるマネジメントスキルについて聞きました。

 

 

基本はシステムエンジニア(SE)の専門性、その上にマネジメント能力を

 

――大規模プロジェクトのPMに求められる能力とはどのようなものでしょうか。

 

専門性を持っていることだと思います。私自身、若いときは、お客さまの求める物をシステムで実現するために、SEとしての「モノ作り」のスキルをひたすら磨いていました。システムを作り、お客さまの課題を解決する。そのためのSEとしての専門性を身に着けて初めて、ITのプロジェクトマネジメントを行うことができます。他のプロジェクトとは、ここが大きく違います。

 

――なぜ専門性が重要なのですか。

 

ITは、目に見えない動作や仕組みを提供する特殊な世界です。そのため、プロジェクトを管理する上で、見えない物の品質を測定する能力がPMには必要になります。SEの専門性がなければ品質を測定することもできないため、そもそもマネジメントができないのです。求められるマネジメントスキルも、プロジェクトが中規模の場合と大規模の場合とでは異なります。

 

大規模プロジェクトでは人を通してマネジメントを行う

 

――大規模プロジェクトでは、どのようなマネジメントスキルを求められますか。

 

2〜3万ファンクションポイントのプロジェクトでは、1人のSEが全体を把握できるため、SE主体でマネジメントを行えます。しかし、大規模プロジェクトとなると、この規模が5〜7倍になり、SEの数も増え、中間のチームリーダーを置くことになります。そのため、複数のチームリーダーを通して品質を測定することが必要となり、彼らを通して情報を吸い上げる仕組みを作る力が求められます。たとえば、作業完了基準を事前に作り、その基準をどうやって満たしたかを確認するために、プロセスの標準化、ドキュメントや報告書の標準化を徹底していくことが必要になります。

 

――標準化が要になるということですね。

 

先ほど述べたように、大規模プロジェクトは多くの人を通して開発を進めます。そのため、PMが品質をチェックするには、アウトプットの粒度、記述内容が一定している必要があります。ということは、こうしたことを標準化しないと品質を測定できないのです。
さらに、要件定義の工程、設計・製造の工程、テスト工程は、それぞれ品質測定の仕方が異なります。つまりPMは、3つのマネジメント形態に関わらなくてはなりません。これらがすべてできるのが本来のPMです。

 

――大規模プロジェクトでもSEの専門性が求められるのでしょうか。

 

大規模プロジェクトのPMは、何か問題が起きたときにプロジェクトリーダーと一緒に問題を解決できないといけません。技術的に深いところまで入っていき、場合によってはリーダーを指導する必要もあります。さらに、技術が分からないとお客さまが納得する説明もできないのです。きちんと説明ができてお客さまに納得していただければ、信頼関係も強化でき、必然的にプロジェクトの生産性も格段によくなります。

 

物作りの手法が変わり新たな技術の獲得が求められる

 

――システム開発の手法が変わってきているようですが。

 

われわれの業界は大きな転換期を向かえています。社会の急速なデジタル化により、ビジネス環境が劇的に変化しているため、この流れに対応するシステム開発が必要になっていますが、今までの方法論では対応しきれなくなっているのです。一方で、ソフトウェアの制約がなくなり、ハードウェアの飛躍的な進化を背景に、システムの機能を小さく疎結合にし、あるシステムが倒れても、自ら選択して影響を回避するマイクロサービスへの転換が急速に進んでいます。

 

――どのような変化が起こっているのでしょうか。

 

米国の先進ネット企業は、1日に数千のソフトウェアをリリースしてサービスを更新し続けています。要件の変更があっても単独でリリースできるマイクロサービスの特性を活かしています。こうした状況下で生き残るには、SEとしての「モノ作り」のスキルを磨き、アジャイル開発などの従来型の物作りを超えた手法を身につけていく必要があります。
その上で、アジャイルとウォーターフォール開発双方の優れた点を組み合わせたマネジメント手法を構築し、より良いシステムをお客さまに提供し続けることが、PMの最大の喜びであり使命だと思います。

 

 

次のページ:大規模プロジェクトのPMに求められるもの(後編)

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