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「情報銀行」は消費者に受け入れられるか?

アナリティクス事業部 河島 宏樹、流通システム開発技術部 神村 亮

2018/04/18

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「情報銀行」とは、行動履歴や購買履歴などのパーソナルデータを管理し、個人の許可に基づき、個人に代わって企業等の第三者に提供する仕組みのことです。パーソナルデータを企業や業界の垣根を越えて流通できるように、政府主導で検討が始まっています。野村総合研究所(NRI)はパーソナルデータの管理・流通に対する消費者の受容性を把握するため、2017年末に社会調査を実施しました。担当した河島宏樹と神村亮に、その成果や「情報銀行」の今後の展望について聞きました。

背景にあるのは、個人データに関するパラダイムシフト

近年、個人の活動によって発生したデータ(パーソナルデータ)は企業が独占すべきものではなく個人もコントロールできるようにするべきだ、とする考え方が広まりつつあります。欧州連合(EU)で2018年5月25日より施行されるGDPR(EU一般データ保護規則)では、個人がパーソナルデータを企業内のシステムから持ち出すことのできる権利や、削除を要請する権利等を認めています。

たとえば、健康に関してもIoTの発展により、スポーツや運動量のデータ、心拍数といったバイタルデータがパーソナルデータとして蓄積されるようになりました。しかし、それらのデータは個々のサービスやアプリの中に分散して蓄積されており、閲覧することも持ち出すこともできません。そのため、集約して分析したり、もっといいサービスが出てきた時に乗り換えたりすることが難しくなっています。こういう時にパーソナルデータをコントロールする権利が重要になるのです。

個人によってデータが管理されるようになると、企業にとってもメリットがあります。これまでバラバラだったために把握できなかった個人のさまざまなデータ(ディープデータ)に対して、企業側がアクセスできれば(※1)、もっと消費者のことを深く知ることができるようになり、真のOne To Oneマーケティングが可能になるのです。

とはいえ、パーソナルデータの種類や量、提供先の数は膨大です。その中で、このデータはこの企業に渡すけれども、あの企業には渡さないというように、個人がすべてをコントロールするのは限界があります。そこで、個人の代わりにパーソナルデータを安全に企業とやりとりしてくれる仕組みとして、「情報銀行」が検討されはじめました。この仕組みを通じて、企業はより良いサービスを提供できるようになり、個人は安心してデータを預けることができると考えられます。

  • 1 企業がパーソナルデータにアクセスするには個人の同意が必要

図1:「情報銀行」が立ち上がるための要件

消費者の利用意向は4割

「情報銀行」を実現するためには、図1のように多くの課題がありますが、最も重要なのは社会的認知を高め、価値を理解してもらうことです。そこで、NRIは現時点における消費者の利用意向や価値観を把握するため、社会調査を実施しました。

もちろん、実在しないものの利用意向を聞かれても、消費者はうまく答えられません。そこで、「情報銀行」の世界観をイメージしたデモアプリを用意し、利用シーンを思い描けるように工夫しながら、ウェブアンケートとフォーカス・グループ・インタビューを組み合わせた、社会調査を行いました。

その結果、約4割の人が「情報銀行」を利用したサービスに対して前向きな反応でした。また、自身のパーソナルデータが企業に一方的に管理・利用されていることに対して違和感を覚える消費者の方が、利用意向が高い傾向が見られました。ここから推測されるのは、今後、「データは個人のものだ」という考え方が広まっていくと、「情報銀行」がさらに受容されやすくなるのではないか、ということです。

図2:社会調査の結果 「情報銀行」を活用したサービスを利用したいと感じる消費者は4割程度

意外?消費者がデータ提供の抵抗感が少ない状況とは

コンジョイント分析※2でデータ提供先、データの種類、対価/便益による受容性の違いを調べてみると、興味深いバラツキが見られました。たとえば、SNS、金融機関、人材派遣会社などには自分のデータを提供したくないが、医療機関、政府、大学であれば構わない。また、プライバシー性の高い資産データや位置情報は教えたくないが、同様にプライバシーに関わるデータであってもヘルスケア情報については抵抗感が少ないことがわかったのです。

図3:社会調査の結果 消費者がパーソナルデータの提供内容を自由にコントロールできる仕組みが必要

この背景には、「公共性が高い相手で、かつ、社会全体の問題解決のために使われると考えられる時は許容される。けれども、個人の多様な情報を判断材料にして銀行利息や就職の可否が決まるようになると、自分にとってマイナスに働くこともあるからデータを渡したくない」という消費者心理が見えてきます。どんな時にパーソナルデータを提供しても良いと感じるかは、消費者によってさまざまで、「情報銀行」が世の中に受け入れられるためには、データ提供の可否をきめ細やかにコントロールできる仕組みが必要だと考えられます。

「情報銀行」が立ち上がるためには、消費者にその価値を正しく理解してもらい、受け入れられることが大切です。「情報銀行」ができることで生まれる新しいサービスやビジネスモデルがもたらす世界観を知ってもらい、不安要素を取り除いていく必要があります。

  • 2 代表的な多変量解析手法の一つ。商品やサービスの持つ複数の要素について、顧客はどの点に重きを置いているのか、また顧客に最も好まれるような要素の組み合わせはどれかを統計的に探ることが可能。

利便性の向上と産業振興で開ける新しい世界

企業側にとっては、「情報銀行」を利用することにより、今までとは異次元の深さのデータが入手できるようになるかもしれません。そうすれば消費者との間に深い関係性を築くことができるようになり、価値の高い商品やサービスを生み出し、新たな需要を掘り起こせる可能性があります。そのためには今までのビッグデータ活用とは全く違うアナリティクスやマーケティング技術が必要になってきます。来るパーソナルデータ活用の時代に向けて、企業側は早めに対応を検討した方が良いでしょう。

「情報銀行」の普及は、未知数の段階ですが、データ資本主義のエンジンになりうる仕組みとして期待されているのは事実です。引き続きNRIでは「情報銀行」の動向に注視していきたいと考えています。

写真左から調査を担当したNRIの河島、神村

写真左から調査を担当したNRIの河島、神村

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