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デジタルSCM改革で企業内や国境の壁を越える

コーポレートイノベーションコンサルティング部 プリンシパル 寺坂 和泰

#経営

#グローバル

2018/08/31

研究開発から生産、購買・調達、物流、アフターサービスまでの一連の流れを効率化・最適化し、顧客満足の向上とコスト低減を図るSCM(サプライチェーン・マネジメント)は製造業をはじめ、流通業やサービス業など、幅広い業種の基幹業務として導入されてきました。現在では、多くの企業が世界規模でサプライチェーン「グローバルSCM」を展開しています。そして今、IoTやAIを活用した「デジタルSCM」により、革新的なプロセス改革の可能性が広がっています。製造業や流通業の業務改革に携わってきた野村総合研究所(NRI)の寺坂和泰が、そのポイントを解説します。

 

IoTやAIを活用した高度なSCM実現

 

SCMを考える際に大事な前提は、モノがベースとなることです。サイズは小さいけれど重量が大きいので航空機での大量輸送には向かない、販売単位が1個か1万個かで出荷プロセス・体制が違うというように、モノの特性を考慮しながら、研究開発や生産、物流などの諸機能を連携させる必要があります。特に、現場の論理は機能ごとに異なるため、機能間の壁やボトルネックを解消し、全体最適の観点からプロセス改革を進めなくてはなりません。

 

その際に、IoTやAIを活用すると、自動化、効率化、高速化、多能化が促進され、飛躍的に高度なSCMが可能になります。たとえば、工場の作業員が手書きやバーコードの読み取りでデータを集めていた現場にIoTを導入すれば、機械に埋め込まれたセンサーから自動的にデータが吸い上げられ、読み替え等も含めて高速処理できます。人手によるミスが減り、これまで追えなかった詳細レベルの数字まで扱えるので、マスタ・実績データの鮮度や精度が格段に向上するのです。

 

また、物流の配送計画を立てる時に、AIの予測機能を用いれば、各地の在庫の増減傾向、税関手続きや道路の混雑状況を踏まえて、納入リードタイムなどの要素を無限にパターン化し、最適なルートを割り出せます。AIはまだ発展途上ですが、人間が考えられるロジック数は50~1000通りに対し、AIは10万~1000万通りとも言われ、その数は幾何級数的に増加中です。世界中に存在するロジックを探し出してアナリティクスをかけ、その会社に最適な計算式をはじき出すベンチャーも登場しています。こうした外部の力も活用しながら、いち早くAIで学習させて、自社で使えるシステムを整備することが急務だと思います。

 

 

デジタル化では欧米が先行

 

なぜなら、海外案件を担当していると、IoTやAIの導入、プラットフォーム化において、欧米企業が大きく先行している印象があるからです。もともと欧米では、遠隔から国境を越えてコントロールしようという発想で仕組みをつくってきました。すべてをデータ化し、システムの中に取り込んで処理をする、モノの流し方のルールを決めるというようなことが容易で、SCMのデジタル化も進めやすいのです。

 

日本のSCMはどちらかと言うと、いかに現場で効率的にモノを動かすか、どう在庫を管理するかという、プロセス起点の発想に基づいてきました。日本の現場は強いと言われますが、基本的に自分たちの見える範囲でできる施策が中心で、デジタル化と相いれないところもあります。たとえば、トヨタ生産方式の最大の特徴である「ジャスト・イン・タイム」は、近隣に工場が多数ある日本の中でのサプライチェーンでは、かんばんを利用した柔軟な受発注コントロール機能を発揮することで実現します。このプロセスの最適化こそが日本の強みです。しかし、隣の工場が何千キロとある海外では、保有在庫のコントロールにより最適な納入を実現するという発想が異なる方法で管理しなければなりません。この遠隔でのコントロールはデジタルで管理する必要がでてきます。

 

外部連携と得意領域深化という2つの方向性

 

サプライチェーンの構築は、モノの特性のほか、自社が保有する設備や人材などの制約も受けるため、先行する同業他社のシステムを借りてくることは不可能です。一方、新興国の企業はこれまで遅れていた分、最初から欧米のシステムを採用できるため、進化のスピードが劇的に速くなっています。ある時、インドの製造業が内外の様々なサプライヤーに見積もりを依頼したところ、その回答を、現地企業は2日、外資系企業は5日で提示してきたのに対し、日系企業は2週間かかったという話を聞いたことがあります。これほど日数に差があると、グローバル競争では勝てません。

 

もちろん、日本の従来のやり方にも優れた点が多々あります。それを国内のマザー工場だけでなく、海外拠点でも再現できるようにすることが大切です。受発注の方式、生産ラインの作り方、ライン上の不具合の見つけ方、倉庫内のレイアウトや人の動き方などをわかりやすく整理してシステム化する。その際には、日本固有のやり方に固執するのではなく、海外拠点の現地スタッフがそれをどう学習して取り込んでいるかを参考にすると、グローバルで通用するものになるはずです。

 

サプライチェーンの世界で勝ち抜くには、デジタル化による革新的なプロセス改革を行ったうえで、外部と連携して横に広げる方向、もしくは、得意領域をさらに深化させる方向をとる必要があります。今は優位性があるとしても、数年後には他社が確実に追いついてきます。NRIとしても、各テクノロジー企業と連携し、最新技術を学びながら、現場の特性を見極めてデジタル・ソリューションデジタルの適用や、改革を実現するための支援をしてきたいと思っています。

 

NRIのプリンシパルとは

特定の業界やソリューションで高い専門性を備え、コンサルタントの第一人者として、社会やクライアントの変革をリードする役割を担っています。

新たなビジネスを作り出し、プロジェクトにも深くコミットし、課題解決に導く責任も有しています。

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