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木内登英の経済の潮流――消費増税の影響は過大評価されていないか

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2018/06/14

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2019年10月に消費増税の実施が予定されていますが、政府は増税実施後の景気悪化への対応策について検討を始めました。住宅ローンと自動車関連の減税策がその柱となる模様です。

 

消費増税後の反動減対策で減税

 

この減税策は、予算措置を含む経済対策と合わせて年末までに政府がその詳細を詰める見込みです。住宅ローンについては、借入残高に応じて税負担が10年間で最大500万円軽くなる現行の住宅ローン減税を拡充し、消費増税後に減税規模を一時的に引き上げる措置や、2021年末まで期間を延長する案などが検討されています。また自動車については、普通車では購入時に3%が適用される自動車取得税を廃止して、燃費に応じて0~3%となる新税を導入することや、購入時の給付金支給などが検討されています。

さらに政府は消費増税後の反動減対策として、2019年度の当初予算にも経済対策を盛り込むことを検討しています。その場合、予算規模は当初予算として初めて100兆円を超える可能性が高まります。

 

財政赤字削減効果を減じてしまう

 

しかしこのような対策が本当に必要なのかについては、疑問を挟む余地もあります。第1に、消費増税後の反動減をちょうど相殺するように、政策で需要を作り出すことなどはまさに至難の業でしょう。政策効果が反動減に遅れて出てしまえば有効な反動減対策とならない一方、政策効果が反動減よりも早く出てしまえば、不要な需要を作り出すだけでなく、反動減を増幅してしまいます。さらに政策効果が出尽くす時点では、新たな需要の落ち込みを生じさせます。このように対策は、消費増税後の反動減を打ち消して景気の振幅を小さくするどころか、逆に大きくしてしまう可能性も十分にあるのです。

 

第2に、対策の政策効果が出尽くす時点で新たな需要の落ち込みを作り出してしまうことを防ぐには、恒久的な対策とすることが有効ですが、その場合には消費増税による財政赤字削減効果を大きく減じてしまいます。2019年10月に消費税率は現行8%から10%へと引き上げられる予定で、それによる増収額は年間5.6兆円程度です。しかし、軽減税率の導入と教育無償化といった恒久措置によって、このうち計2.4兆円程度が使われると見られます。残りの3兆円程度を財源として反動減対策を実施すれば、財政赤字削減効果は一層小さくなってしまいます。これでは、何のための消費税率引き上げなのか、といった疑問が生じるのは自然なことではないでしょうか。

 

2019年消費増税時の家計の負担額は2.2兆円

 

日本銀行は、2019年の消費増税時の家計負担額を2.2兆円と試算しています(図表)。これは1997年の消費増税時の8.5兆円、2014年の8.0兆円と比較して格段に小さいものです。それは、①税率の引き上げ幅が2%(8%から10%)と前回の3%よりも小さいこと、②軽減税率導入など恒久的な措置が家計の所得負担減に寄与すること、によるものです。さらに、2014年に消費増税が実施された時点では、翌年にも追加の増税が予定されていたことから、それも踏まえて住宅、耐久財の駆け込み購入が多く発生しました。その時点でかなり先の将来まで視野に入れた駆け込み購入が既に出てしまったとも考えられます。こうした点と税率の引き上げ幅が小さいことを考え合わせれば、2019年の消費増税の際に発生する駆け込み購入の程度はより小さく、その結果、反動減も小さくなる可能性が高いでしょう。

 

反動減対策は慎重に

 

政府が消費増税後の反動減対策にことさら注力するのは、2014年の消費増税が景気をかなり悪化させた、との印象に基づいたものでしょうが、この点についても再検討が必要です。2014年度の実質GDP成長率は当初は-1.0%(実質個人消費は-3.1%)でしたが、その後の統計改定を受けて現時点では-0.3%(同-2.5%)とマイナス幅はかなり縮小しています。

以上の点から、2019年の消費増税後に予想される反動減については、政府あるいは広く国民の間で過大に評価されている可能性が考えられます。そうしたなか、過剰な反動減対策の実施は、景気の振幅をむしろ大きくしてしまう、あるいは財政環境を一段と悪化させてしまうといった弊害がある点に、十分に配慮する必要があるでしょう。さらに、対策の検討がいたずらに消費増税後の国内経済に対する国民の不安を煽るようなことになってもならないでしょう。政府には、こうした点も十分に考慮に入れた慎重な対応を期待したいと思います。

 

 

木内登英の近著

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前日銀審議委員が考えに考え抜いた日本改革論

 

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