フリーワード検索


タグ検索

注目キーワード
業種
目的・課題
専門家
国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL デジタル資本主義がもたらす未来

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

デジタル資本主義がもたらす未来

野村マネジメント・スクール 森 健

2018/07/18

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

野村総合研究所(NRI)では、2017年から3カ年の予定で「デジタルで拓く近未来」というテーマで研究を行っています。その初年度の研究成果をまとめたのが、『デジタル資本主義』(東洋経済新報社)です。共著者の1人、野村マネジメント・スクール上級研究員の森健が、デジタル資本主義の背景や特徴、未来のシナリオについて紹介します。

 

経済指標は低調でも、消費者は生活の豊かさを感じる

 

世界的にGDP成長率は低下傾向にあり、日本では1997年以降賃金水準も伸び悩んできました。ところが、NRIが1997年以降3年おきに実施してきた「生活者1万人アンケート調査」を見ると、「世間一般から見た自分の生活レベル」を「上」「中の上」「中の中」と意識している人が増加傾向にあるのです。

この理由はおそらく、インターネット上に登場してきた無料のサービス、ポイントやマイレージなどの活用、お得情報を集めることでの賢い消費など、デジタル技術の恩恵により、経済指標が伸び悩む中でも、消費者が生活の質の豊かさを感じているからだと思われます。

 

日本経済はすでに1割程度デジタル資本主義に移行?

 

これは経済学で言う「消費者余剰」(注:ここまでなら支払ってもよいと思う支払意思額と実際の価格の差のこと。お得感)が増えていることを意味します。消費者余剰が増えれば消費者は豊かさを実感します。消費者余剰は主観的でGDPには表れない指標ですが、ある経済モデルを使って無料のデジタルサービスが生み出している消費者余剰を試算したところ、日本では42兆円、GDP比で見ると約8%に当たります。これを1つの参考値とすれば、日本経済はすでに1割程度デジタル資本主義に移行していると言えるのかもしれません。

 

昨今のデジタル・ディスラプション(デジタル企業による既存の業界構造の破壊)では、限界費用が大幅に下がって消費者余剰が拡大する一方で、生産者余剰(価格とコストの差分=企業の利益)は大幅に圧迫されています。消費者余剰の増加はありがたいことですが、私たちは生産者でもあります。企業利益が圧迫されれば、雇用者所得、設備投資、税収は減少しますから、購買力自体も減退してしまいます。これまでのデジタルはどちらかと言えば販売価格やコストの低下などに貢献してきましたが、これからは顧客の支払意思額を高めると同時に価格も上げていく、それによって利潤(生産者余剰)と消費者余剰がともに増えて好循環を経済全体として生み出す必要があるのですが、なかなか難しい課題であり、多くの企業が苦労しています。

 

産業資本主義からデジタル資本主義へ

 

現在、世界各地で起こっているデジタル革命を、18世紀の産業革命の延長線上にある「第4次産業革命」と位置付ける見方もありますが、「パラダイムシフト」が起きていると見ることもできます。経済システムが「産業資本主義」から、それとは本質的に異なる「デジタル資本主義」に転換しつつあるという見方です。

 

デジタル資本主義を象徴するのが、未稼働資産を活用するシェアリング・エコノミーの登場です。それによって生産と消費が経済活動の中心だった産業資本主義から、使用を中心とする経済システムが生み出されたと言えます。また産業資本主義では一貫して労働が価値創造の源泉でした。しかしデジタル化の進展で何が起こっているかと言えば、私たち人間やモノが生み出している活動情報がネットワークを通じて集約・解析され価値創造の源泉となっているのです。20世紀の哲学者ハンナ・アーレントは、『人間の条件』の中で人間は「労働」「仕事」「活動」をする生き物で、近世(産業資本主義)は「労働する動物の勝利」した社会だと述べています。この論をさらに進めて現在に適用してみると、ロボットやAIによって人間が果たす「労働」の領域が縮小しているのと同時に、SNSなどの発展が「活動」の領域を拡大しているかのように見えます。つまり「労働社会」から「活動社会」への移行が起こっているのだとすれば、これはもはや産業資本主義の範疇ではなく、新たな経済システムが登場しつつあると言えるでしょう。

 

 

デジタルの受容度や活用方針は国や文化ごとに異なる

 

デジタル資本主義は今後、国や文化によって多様な形をとると考えられます。たとえば欧米では、技術進歩によってライフスタイルが急変しすぎていると感じる人が日本よりも多いとの調査結果があります。デジタル技術の受容度は文化によって異なるのです。デジタル技術の用途についても、プラットフォーマーの強化、国家権力の強化、シェアリング・エコノミーの推進を通じた各人の機会の平等化など、国ごとに活用方針に違いが出てくるはずです。

 

私たちは著書の中でいくつかの将来シナリオを示しましたが、その1つが「純粋デジタル資本主義」です。このシナリオでは、デジタルが主に人間代替的な用途に用いられ、利潤獲得メカニズムの強化や効率性向上に用いられます。巨大プラットフォーマーが価値の源泉であるデータを管理し、経済格差が広がるため、ベーシックインカムの導入も検討されるなど、やや暗いイメージとなります。

 

デジタル資本主義の明るい未来へ

 

一方、「市民資本主義」と名付けたシナリオでは、プラットフォーマーの強化というよりは、ユーザー、あるいは市民が主体性と自律性を強めていきます。プラットフォーマーはデータ管理の透明性を担保しユーザーの主体性を認めないと、ユーザー獲得競争に敗れてしまいます。また欧州連合(EU)のGDPR(一般データ保護規則)のように、国家が介入して市民にデータの主体性を与えていく動きが増えていきます。さらに人間の能力を補完、拡張するようなデジタル技術活用も増えるでしょう。また個人が保有するスキルや遊休資産をシェアリングする活動も盛んになり、各々がマイクロ資本家になることで、先のシナリオほど経済格差は広がらないというシナリオです。

 

技術は中立でそれをどう活用するかは私たち人間次第です。一方ではロボット・AIによる失業など暗い未来シナリオが描かれていますが、デジタル技術を通じて消費者余剰、さらには各人のクオリティ・オブ・ライフの向上を実現する社会を示していくことが日本の重要な役割だと考えます。

 

関連書籍

デジタル資本主義

主役はAIか、巨大企業か、市民か?
日本を代表するシンクタンクによる未来予測の決定版

 

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

ACCESS RANKING