フリーワード検索


タグ検索

注目キーワード
業種
目的・課題
専門家
国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 日本に「デジタル維新」を

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

日本に「デジタル維新」を

研究理事 コンサルティング事業本部副本部長 未来創発センター長 桑津 浩太郎

2018/10/09

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

近年、急速に進展するデジタル化の流れの中で、米国のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を集めた呼称)や中国のBAT(Baidu:百度、Alibaba:阿里巴巴、Tencent:騰訊、の頭文字を集めた呼称)などが主導権をめぐって競合を強める一方で、日本の存在感低下と危機感の高まりが指摘されている。
インターネットが普及し始めた2000年以降、北米ベンチャー企業のダイナミズムに日本は一貫して圧倒されがちであった。加えてここ数年は、中国の行政・企業・社会の強力な連携アプローチにも圧迫される形となっている。こうなると、単なる研究開発や技術開発の遅れという段階ではなく、社会のデジタル実装力、国民のデジタルの受け入れ能力の差にも問題意識を向けざるを得ない。

 

成熟した日本の文化がデジタル化の足かせに

電子マネーを例にとると、鉄道改札から生まれた使い勝手の良い非接触方式で日本が技術的に先行したにもかかわらず、世界を見渡すと、現在はNFCやQRなどの後発方式に質量ともに追い抜かされた形だ。日本政府は国家戦略として電子マネー化の推進を図るものの、その将来目標は現在の中国の半分以下の水準という寂しい状況である。
日本は諸外国に比べても現金の流通量が非常に多く、キャッシュレス化がなかなか進まない。その理由は決してネガティブなものだけではなく、高度な紙幣印刷技術への信頼感(偽札が流通している恐れがほとんどない)、ATMなどの現金関連インフラの充実と高い利便性、街頭の自動販売機からも現金が抜き取られない人々の公徳心など、日本の美徳に由来するものが多い。しかし他方で、お金の流れがデジタル化されていないことによる社会の高コスト体質を国民全員が背負っているというデメリットも無視できない。
世界で最も速く高齢化と人手不足が進行している日本社会は、やがてこの高コスト負担に耐え切れなくなってくるはずだ。本来なら、積極的にデジタル化・自動化を図って社会の低コスト化を図るべきなのであるが、金融機関や流通店舗の無人化に対してさえ、「温かみがない」「人が対応すべき」といった意見が多数聞かれるなど、デジタル化・自動化に対する日本社会の根強い抵抗感がある。

翻って、中国のデジタル化に対する勢いと物量は巨大な流れを形成し、隣国の日本だけでなく、世界中に影響を与えている。
自動運転や第五世代携帯電話のインフラ技術においては中国ベンダーが世界を主導する可能性が高くなっており、自由放任からの自由競争のみが強い技術を生み出すとは限らず、社会がイニシアチブをとって技術を後押しする、いわば「デジタル社会主義」「デジタル計画経済」が、世界を動かすもう一つのトレンドを形成しつつあるように見える。

危機意識を強く持ち、現状維持を打ち崩すことが求められる

現在の中国を見るにつけ、失うものが少ない後発の社会こそ、デジタル化の恩恵をより短期間で強く受けることができるという見方に説得力が感じられる。
紙幣印刷技術、ATMといった社会インフラが相対的に劣位だったからこそ、(偽札の心配が少なく、ATM整備の必要性も乏しい)電子マネーへの移行・受け入れが円滑に進み、逆にデジタル化以前のインフラが強固であるからこそ、デジタル技術を全面的に採用しにくいという皮肉な現象が生じている。
アジアにおける経済発展は、かつては「雁行モデル」として、日本、韓国、台湾、中国の順番に時間差で新たな技術やビジネスが普及していくという考え方があった。しかし現在、デジタル化という観点からは中国が先頭を走り、韓国、台湾が続き、一歩遅れて日本が後を追うという姿になっている。いわば雁行の先頭を飛んでいたつもりが、いつの間にか後方に下がってついていき切れていないという状態になってしまった。この事態を打破するためには、あえて「日本はハンディを背負った後発国」という危機意識を持つ必要がある。

日本が取り組まなくてはならない課題は山積しているが、国際社会における日本のプレゼンスや優位性の維持という点を考慮すると、やはりデジタル化・自動化の推進が一番重要だと筆者は考える。
日本社会の完成度の高さや、人々の心の中にある現状維持の気持ちに対して、あえてそれらを打ち崩す「デジタル維新」と位置づけた取り組みが必要であろう。それにはベンチャー育成、若年層人材の活躍を推し進めることと、デジタル化を阻害しかねない古い産業基盤や、教育・医療などの社会システム基盤を、強いイニシアチブを持って改革するという、ある意味で破壊的な取り組みの断行を並行させなくてはならない。まずは特区制度や地方自治体の首長権限など、使える仕組みを再度見直し・強化することから、始めるべきであろう。

知的資産創造2018年8月号 MESSAGE

NRIオピニオン 知的資産創造

特集:デジタル経済が解決する新興国社会課題

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

ACCESS RANKING