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デジタル化とナレッジマネジメント再考

研究理事 小粥泰樹

#経営

#CX

2018/11/05

ナレッジマネジメントという言葉を聞くと何をイメージするだろうか。20年前に社内の情報共有を目的としてグループウェアやDWH(データ・ウェアハウス)の導入を試みたものの効果が出なかったという苦い経験を思い出す人が多いかもしれない。また、ナレッジマネジメントという言葉自体、耳にする機会が減っており、少なくとも経営者にとってワクワクするようなものでないことは確かであろう。そんなことよりもデジタル化の時代である、というわけである。しかし、実際には、デジタル化が加速する今こそ、ナレッジマネジメントを再考する意義が高まっていると思う。

ナレッジマネジメントとはお客様や社会の課題を解決する力を高めること

その理由を説明するためには、まずはそもそも「ナレッジ」とは何かという問いから始めなければならない。ナレッジの定義には諸説あるところだが、ここでは「課題を解決する力」であると考えてみる。そうすれば、ナレッジと混同されがちな「情報」との違いも明らかになる。たとえば、ブティックの販売員の場合、その年の流行や取扱商品についての情報は、それを知っているだけでは何の課題も解決しない。しかし、それらの情報を使って目の前にいる顧客のニーズに合ったアドバイスを提供することは、服飾販売のナレッジの良い例である。また、店舗での商品の売れ筋データや顧客の嗜好トレンドに関する情報をインプットとして適切な商品仕入を実施できるということは、マーチャンダイジングのナレッジを有するということである。
このようにナレッジを特定の課題や目的意識に紐付いたものとして定義するのは、ナレッジマネジメントの権威(たとえば、野中郁次郞一橋大学名誉教授)らの文献にも見られ、比較的オーソドックスな考え方といえるものである。また、ナレッジマネジメントとは企業の組織ナレッジを高める経営手法だとするならば、ナレッジの定義の自然な拡張として、ナレッジマネジメントは企業が顧客や社会の課題を解決する力を高めることを意味する。これは、企業の付加価値を高めることと言い換えても大差ないため、結局、ナレッジマネジメントとは企業の付加価値を作り出す活動とほぼ同義であるということになる。

デジタルを活用して自社の付加価値を生み出すことが差別化につながる

このようにナレッジマネジメントは、企業の付加価値をいかに高めるかという重要な問題意識を背負って登場したにもかかわらず、20年前のブームの時には不幸にも単なる社内の情報共有インフラを構築する話におとしめられ、同時に本来のナレッジの意味も忘れ去られてしまった。今、デジタル化が加熱する中であらためてナレッジマネジメントに注目すべきだと思うのは、デジタル化が加速する中で差別化のポイントを見失う経営者が増えていると感じるからである。
顧客経験(CX)向上のためにスマートフォン向けのアプリを開発したり、業務プロセスを自動化してコスト削減を実現したりすることで、短期的には差別化を達成できるかもしれないが、競合他社も容易に追随し、差別化要素は直に解消されてしまう。これに対し、そのようなデジタル化自体を目的化したような活動から一歩引いて、自社の付加価値とは何か、すなわち、組織ナレッジとは何か、そして、いかにしてそれをデジタルで強化できるか、と考える中にさまざまな差別化のヒントが隠されている気がする。

たとえば、ナレッジに注目するということは、「人」の価値を再認識して差別化する発想につながる。本質的にナレッジの担い手は人が中心になるからである。実際、ナレッジを課題を解決する力であるとした場合、①さまざまな情報から課題に合致した解決策を導く力、②課題そのものを切り出してくる力、③解決策を相手に説得力をもって伝える力、などが求められるが、特に②や③については、AI技術が進歩したといえども、まだまだ機械に多くを期待することはできない。
ここで、ナレッジの担い手の中心が人であると認識することはデジタル化を諦めるということを意味していない。むしろ、組織ナレッジを短期間で作り上げるためにいかにデジタルを活用するか、デジタル空間に広がる多数の顧客にいかにナレッジを届けるか、人と機械を融合したサービスデザインをどうするかなど、人の価値にデジタルでいかにレバレッジをかけるかについて、各社の工夫がさまざまに考えられるところである。

このように、闇雲にデジタル化に邁進するのでなく、ナレッジマネジメントの視点でワンクッションを入れる、すなわち、自社のナレッジマネジメントを自覚した上でそれをデジタルで強化するという視点を持つ。そのことが、何でもコモディティ化してしまうデジタル化の流れに逆らって、多様性を伴いながら多くの付加価値が生み出されていく鍵になるのではないかと思う。

知的資産創造2018年9月号 MESSAGE

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特集:GDPR(EU一般データ保護規則)にどう取り組むか

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