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木内登英の経済の潮流――「年内に発効するTPPと中間選挙後の米国貿易政策」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2018/11/09

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TPP(環太平洋パートナーシップ)協定が、年内発効の見通しとなりました。中間選挙後のねじれ議会のもとでも米国政府の保護貿易主義が変わらないと見られるなか、TPPには世界の自由貿易体制を守る砦としての役割が期待されます。

TPPが年内に発効

12月30日にTPP協定が発効し、アジア太平洋地域に巨大な自由貿易圏が誕生する見通しとなりました。TPPは加盟11カ国中6カ国で国内手続きが終了した60日後に発効する規定となっています。メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダに次いで、10月末にオーストラリアが国内手続きを終了させたことで、年内に発効できる見通しとなりました。残る5カ国(ベトナム、ペルー、チリ、ブルネイ、マレーシア)も、国内手続きを進めています。
加盟11カ国全てが加わると、TPPは人口が約5億人、GDPの規模で11.38兆円と世界のGDPの約13%にあたる巨大貿易圏となります。今後は、TPPの加盟国拡大が大きな注目点となってくるでしょう。タイは2019年のTPP参加を目指して準備を進めていますし、英国もEU(欧州連合)離脱の2019年3月以降、TPP参加に向けた交渉開始を検討しています。

次善の策としての地域統合

2017年始めにトランプ政権がTPP交渉からの離脱を決めるまでは、TPPは世界の自由貿易体制を強化していく、最前線の役割を担うことが期待されていました。しかし、米国が貿易政策で保護主義的な傾向を強め、2国間交渉重視に傾くなか、TPPに期待される役割も変化してきています。
GATT(関税と貿易に関する一般協定)体制を引き継いで、貿易を支える多国間協力を推進することをWTO(世界貿易機関)は強く期待されていました。しかし、そのもとで2001年に始められたドーハラウンド(多国間交渉)は、当初の2006年の終結目標をさらに10年以上過ぎた現在でもなお、合意の見通しが全く立っていません。
ただし、ドーハラウンドが行き詰まっているなかでも、世界の貿易自由化の流れは進められてきました。それを推進してきたのは、2国間でのFTA(自由貿易協定)、あるいは地域貿易協定という枠組みです。ドーハラウンドという加盟国全体での多国間の枠組みのもとでは、全ての加盟国が同じ条件での合意に拘束されるのが基本原則でした。そのため加盟国は、交渉に次第に慎重になっていったのです。

自由貿易体制を守る最後の砦に

他方、2国間あるいは地域での協定であれば、各国は比較的容易に合意できます。多国間の枠組みにこだわることで、貿易自由化の合意が全くなされないままであるよりも、2国間あるいは地域の枠組みのもとで貿易自由化が一部でも進んだ方が良い、いわば次善の策として地域統合は容認、あるいは支持されてきました。そしてTPPはその規模、内容ともに地域統合の最先端とされ、今後の地域統合の見本となっていくことも期待されていました。しかし、米国のTPP交渉離脱によってそうした期待は一気に後退してしまったのです。
トランプ政権がTPPからの離脱を決め、また中国等に対して制裁関税を相次いで課すといった保護貿易主義的な姿勢を強めるなか、従来の流れに逆行する形で、地域貿易統合から2国間交渉へと自由貿易がさらに後退していくリスクが生じています。
先日の米国中間選挙で、与党共和党は下院での過半数を失い、ねじれ議会の構図となりました。それによって、トランプ政権は、財政政策などの国内政策では、一定程度の軌道修正を余儀なくされる可能性があります。しかし、大統領の権限が強い貿易政策では、保護主義的な姿勢が修正される可能性は小さいと考えられます。
日本が主導権をとってTPPをさらに拡大させていくことで、世界の自由貿易体制を、再び多国間の枠組みへと引き戻すことが期待されています。TPPは世界の自由貿易体制を守る最後の砦の役割を期待されるようになってきたのです。

木内登英の近著

トランプ貿易戦争 日本を揺るがす米中衝突

トランプ貿易戦争 日本を揺るがす米中衝突

妥協なき報復合戦が自由貿易体制を突き崩す

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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