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成長ストーリーに基づく海外M&A

執行役員 ASG Group Limited 取締役 川浪 宏之

#経営

#グローバルオペレーション

2018/12/04

グローバル市場での成長を目指す日本企業にとって、海外M&Aは不可欠かつ中心的な手段である。一方、海外M&Aによるグローバル展開は、従来のオーガニックな展開(既存の経営資源による自立的な展開)とは全く異質な手段であるため、多数の買収実績を誇る先駆者でさえ、当初の期待した成果が得られずに苦労しているという話をよく耳にする。海外企業の買収というと、言語・商習慣・法制度といった環境の違いにどう対応していくかが論点になることが多い。

しかし、成否を分けているのは、こうしたテクニカルな問題だけではないようだ。海外M&Aを事業成長に上手くつなげられている企業とそうでない企業との違いは、買収を一過性のイベントとして捉えるか、その後の長期にわたる成長のスタートラインとして捉えるか、といった視座の違いにあるように思える。

 

海外M&Aを事業成長につなげるには、長期視点の成長ストーリーが重要

言うまでもなく、買収はあくまでも成長に向けたスタートラインである。買収価格に含めたプレミアムを考えると、むしろマイナスからのスタートと言えよう。そのマイナス分を取り返し競合と対峙していくには、買収が完了したと一息つくのではなく、そこから5 年、10年にわたってさまざまな打ち手をタイムリーに実行し続けていくことが必要となる。こうした打ち手を首尾一貫かつ持続的に実行していくには、買収から10年後の姿とそこに至るまでの道筋を描いた成長ストーリーが必要になると考える。
成長ストーリー作りは、まず5 年後、10年後の具体的な目標をイメージアップすることから 始まる。やや粗い例で恐縮だが、「5 年後に同市場で売上トップ10プレイヤー入りできるまで一気に規模を拡大させ、その後、段階的にサービスを拡張し、10年後には主要業種のトップ5企業すべてに食い込み、真のTier1プレイヤーとして市場認知を得る」といったようなものだ。こうした目標を設定することで、いつまでに何をやらなければならないかを、浮き上がらせることができる。
たとえば、一気に売上規模を拡大させることを目指すのであれば、早々にさらなる追加買収が必要になってくるであろう。追加買収する企業は、当初買収した企業と合併させ、それぞれの強みを活かせる運営体制に移行した方が良い。さらに解像度を上げて考えると、買収と合併を繰り返す5 年目までとそれ以降とでは、求められるマネジメントスタイルも異なることから、その前後で現地の経営陣の見直しも必要になってくるかもしれない。日本本社との事業連携やコーポレートガバナンスは、急成長路線に集中する時期は緩やかなものとし、経営陣を刷新したタイミングで一歩踏み込んで行っていくことが得策かもしれない。このように長期にわたる成長ストーリーを描くことで、いろいろなものが見えてくる。これらを関係者間でしっかり共有しておくことで、共通のゴールに向けて足並みを揃えて走り出すことができるようになるのではないか。

一貫したコミットメント態勢が、成長ストーリーの一貫性・持続性を維持する

こうした成長ストーリーを画餅に終わらせないためには、その実行力を担保することも重要である。具体的には、買収先の経営陣に対する動機付け、そして買収する側の継続的なコミットメント態勢の確立である。一般的には、買収後少なくとも数年は、事業継続性を考慮し、買収先の現経営陣を続投させることになるが、従来の経営スタイルをそのまま貫き通されても、これまで以上の成長は期待できないであろう。現経営陣の意識をしっかりと変革し、成長ストーリーの達成に向けてモチベートさせていくには、新たな長期インセンティブ制度を導入することが有用である。たとえば、成長ストーリーと連動した数年後のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定し、それが達成された際には相応の報酬を支払うといったようなものである。こうした経営陣の報酬設計については、買収前の段階から検討に着手し、買収時点では経営陣と合意できておくことが望ましい。
一方、買収する側の一貫したコミットメント態勢を確立しておくことも重要である。買収前、買収直後の統合作業、その後の事業運営といった局面ごとに短期間で責任者が変わってしまっては、描いた成長ストーリーの実行に一貫性・持続性を持たせることはできない。少なくとも、買収会社が安定成長の軌道に移るまでの間は、買収する側も一貫したコミットメント態勢を維持しておくことが肝要であろう。

野村総合研究所(NRI)では、2022年までの長期ビジョン「V2022」の中でグローバル売上高を1000億円まで拡大させることを掲げ、その達成に向けて、これまで米国やオーストラリアの現地企業の買収を実行してきた。現在、まさに当社自身も変革の渦中にあるが、自らのグローバル成長を通じて、お客様のグローバル成長に貢献できる企業に進化していきたいと強く願っている。

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