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木内登英の経済の潮流――「貿易問題に翻弄される2019年の日本経済」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2019/01/15

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2019年の日本経済は、消費増税といった国内要因よりも、米中貿易摩擦の行方などの外的要因に大きく左右されることが予想されます。

消費増税の悪影響は大きくない

2019年度の日本の実質GDP成長率は、予測機関の平均的な見通し(日本経済研究センター調べ)では+0.7%程度と、2018年度とほぼ同水準が予想されています。これは潜在成長率に近い水準であり、日本経済は概ね巡航速度での成長軌道を続けることが広く予想されている状況です。
そうした中、国内景気を下振れさせる可能性が指摘されているのが、今年10月に実施が予定されている消費税率の引き上げです。税率引き上げに前後して、駆け込み購入とその反動がある程度生じることは避けられません。しかし、それをきっかけに、日本経済が失速するようなリスクは小さいと思われます。それは、前回の2014年消費税率引き上げ時と比較しても、個人の所得に与える影響が格段に小さいためです。
日本銀行の試算によれば、前回は、消費税率引き上げによる税負担の増加で、個人の実質所得は8兆円程度減少しました。これはGDPの1.5%程度の規模です。ところが今回は、2兆円強、GDP比0.4%程度にとどまると見込まれています。税率の引き上げ幅が前回は3%であったのに対して今回は2%と小さいこと、食料品などに軽減税率が適用されること、幼児教育の無償化措置が同時に実施されること等が、個人の所得への影響を小さくします。
それでも、消費税率引き上げの経済への悪影響を心配する政府は、住宅と自動車への減税措置、クレジットカードなどキャッシュレス決済時の5%のポイント還元策、インフラ投資のための予算の上積み、などを予定しています。こうした消費増税時の景気対策の規模は、2兆円程度にも達する見込みです。それは、消費税率引き上げが個人の所得を減少させる効果を、概ね相殺するものと考えられます。

貿易問題の行方が最大の注目

他方で、貿易戦争を通じて米国と中国がいわば消耗戦を続けることが、日本経済にとって大きな懸念材料です。米中は日本の輸出先の双璧であり、その合計は輸出額全体の4割にも達するためです。
2018年12月の米中首脳会談では、両国は貿易面での一時停戦で合意しました。しかし、90日間の猶予期間内で交渉を大きく進展させることは難しく、米国は中国からの輸入品2,000億ドルへの10%の追加関税率を25%に引き上げる、さらに5,000億ドル超となる中国からの輸入品全体に追加関税を拡大させる可能性があります。OECD(経済協力開発機構)の試算によると、この場合、先行きの経済環境の不確実性の高まりによる投資抑制効果も含めて、米国のGDP は1.0%、中国のGDPは1.4%も押し下げられる計算です。その場合、日本のGDPは0.6%程度低下すると試算(筆者による)されます。これは、潜在成長率が0.8%程度の(日本銀行による試算)日本にとって、景気悪化の引き金となり得る程の大きさです。これに、日米貿易協議の影響が加わってくるのです。
早ければ2019年1月下旬から、いよいよ日米貿易交渉が始まります。2017年の日本の対米貿易黒字額の76.6%が、自動車と自動車部品の合計で占められました。この点から、トランプ政権が対日貿易交渉の中心に自動車分野を据えてくる可能性は高い状況です。またトランプ政権は、農産物や牛肉の関税率引き下げも日本に要求してくるでしょう。政治的にセンシティブなこうした分野での関税率大幅引き下げを回避するために、最終的には自動車分野での譲歩を強いられ、対米自動車輸出の削減を日本は受け入れさせられることになるのではないでしょうか。
仮に、日本が自主規制などを通じて対米自動車輸出を半減させることを強いられれば、それは日本のGDPを直接的に0.5%押し下げることになります。すでに見た米中貿易戦争から日本経済が受ける打撃に、この影響が加われば、景気後退に陥るのに十分な規模となるでしょう。
トランプ政権の保護貿易主義に関する以上の議論は、メインシナリオではなくリスクシナリオです。しかし、そうしたシナリオが現実のものとなる可能性は決して低いものではないでしょう。2019年の日本経済は、引き続きトランプ政権の貿易政策に大きく振り回される1年になると思われます。

木内登英の近著

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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