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NRI トップ NRI JOURNAL デジタル化が変える競争優位性――金融事例から得られる示唆――

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クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

デジタル化が変える競争優位性――金融事例から得られる示唆――

研究理事 小粥 泰樹

#DX

#経営

2019/02/22

「ソサエティ5.0」「シェアリングエコノミー」「シンギュラリティ」など、デジタル化によってもたらされる社会面、経済面、技術面における様々な変化を背景に、金融の世界も変わりつつあります。デジタル化の潮流の中で、金融機関はどこに力を入れるべきか。野村総合研究所(NRI)研究理事の小粥泰樹に話を聞きました。

デジタル化の中で生まれた3つの競争軸

現在、欧米の金融機関は激しいデジタル化競争を展開しています。そこから見えてくるのは、新たな3つの競争軸です。

1.日常へのアクセス競争

米国大手金融機関の個人向けデジタル施策は、「家計簿アプリ」や「おつり管理アプリ」といった金融サービスの範疇をやや超えるようなアプリの提供にまで至っています。日常の中から突発的に発生する顧客の金融ニーズを拾い上げるには、貯蓄や資産運用を習慣づけるアプリで顧客を囲い込む必要があるからです。情報が豊かになるほど、顧客は1つの情報に接する時間が減り、注意を引くことが難しくなります。顧客の「注意」を自社につなぎとめる工夫が大切です。

2.エコシステム間競争

この競争軸で注目すべきは、フリー(無料化)競争です。様々なサービスの「抱合せ型」、他社と連携する「第三者関係型」、有料アプリに誘導する「フリーミアム型」など、無料化のビジネスモデルは多様化しています。たとえば、資産運用会社が株式取引手数料を廉価にするとオンライン専業ブローカーは戦えない、GoogleやAmazonといったTech系プラットフォーマーが無料や廉価でローンを提供すれば大手銀行は不利になる、というように、エコシステム間競争が起こっています。このため、金融や産業をまたぐ連携を通じて高い価値を提供し、価格戦略の自由度や優位性を高める重要性が増しているのです。

3.人×マシンの重要性

3つ目は、人とマシンを組み合わせて、いかに付加価値をつけていくかという競争軸です。その好例が、モルガン・スタンレーによる「営業マンのサイボーグ化」です。同行はデータ分析や人工知能(AI)を活用しながら、注力すべき顧客や推奨サービスの抽出、顧客向けメールの下書き、顧客の反応状況の確認までを、システムがフォローする仕組みを整備。営業マンは、こうした事務作業が減った分の時間を既存顧客のアドバイス対応に回せるようになり、事業売上の向上につなげています。
マシン中心のサービスに人手を加える場合もあります。たとえば、ロボアドバイザー(ロボアド)による資産運用アドバイス・サービス。当初は完全無人型が多かったのですが、最近は人が横でサポートし、顧客の細かな要望に応えるハイブリット型サービスが伸びています。人とマシンの組み合わせ方には工夫の余地があり、人やマシン単独のアプローチよりも市場拡大につながる可能性があります。

「プラットフォーマー総取り」という競争の構図

3つの競争軸は独立したものではありません。顧客へのアクセス手段を1社では用意しきれず、誰かとパートナリングしてエコシステムをつくる必要がある。強いエコシステムにするには、顧客の日常へアクセスし、顧客の注意獲得競争で優位に立つ必要がある、というように、「日常へのアクセス競争」と「エコシステム間競争」は相互強化の関係にあります。

そしてこれらの競争が進んだその先には、生き残るのはプラットフォーマーのみという「プラットフォーマー総取り観」が待ちうけています。プラットフォーム上で新興企業に多様な業務知識を与えることで、大手金融機関の既存の優位性が崩れ、競争関係が拮抗する。あるいは、プラットフォーム上に「エージェント(顧客の代理人)」が登場し、顧客データをもとに顧客に適切なサービスを選定・推奨し始めれば、サービス提供者は顧客との接点を奪われ、厳しい状況に追い込まれる恐れがあります。Techジャイアント(GAFAなど)に代表されるプラットフォーマーは金融ビジネス全体を根底から変える力を秘めています。

対抗策は「人×マシン」による付加価値の追求

この「プラットフォーマー総取り」に対抗できるのは、「人×マシン」で付加価値を追求することです。人にしかできない「付加価値」を確認した上で、人とマシンの強みを「良い所取り」した最適な組み合わせを考えるのです。

一例として、ロボアドと人によるハイブリッド型の資産運用サービスが挙げられます。資産運用は、「投資目的の設定」「投資プランの作成」「投資の実行」「結果のレビュー」というプロセスを回しますが、顧客の人生観に沿った投資目的を引き出す、あるいは顧客の不安を解消すべく結果のレビューを実施する、といったフェーズは、ロボットが不得手とし、人による付加価値がつけやすい部分です。他方、投資プランの作成や投資の実行は、ロボットでも十分に対応可能です。

このような人とマシンの組み合わせの最適化の方法には、様々な工夫の余地がありそれらが各社独自の付加価値につながります。デジタル化が進むほど、各社のサービスにおける人の価値を見直すことが重要になると私は考えています。

※ ソサエティ5.0:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立させる、日本が提唱する人間中心の社会観

シェアリングエコノミー:さまざまな物・サービスなどを共有・交換して利用する仕組み

シンギュラリティ:人工知能(AI)が発達し、人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起こるという概念

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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