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木内登英の経済の潮流――「戦後最長の景気回復を実感できないのはなぜか」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2019/03/11

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政府は1月に、国内の景気回復は「戦後最長となった可能性がある」との判断を示しました。しかし他方で、「景気回復の実感はない」との声が多く聞かれるのはなぜでしょうか?

異例の長期景気回復は世界的現象

鉱工業生産統計や景気動向指数等に基づいて、昨年年末に日本経済は既に景気後退に入った、との見方が浮上しています。しかし、仮にそうであっても、戦後最長に匹敵する景気回復が実現されたことには変わりありません。
米国でも景気回復期間が今年半ばに10年に達し、第2次世界大戦後では最長となります。異例の長期景気回復は、日本だけでなく世界的な現象なのです。それは、経済の強さというよりも、逆に弱さの反映なのではないかと思います。
日本では1980年代のバブル崩壊後、欧米では10年前のリーマン・ショック後に、生産性上昇率や潜在成長率の低下、いわゆる経済の潜在力の低下が顕著となりました。そのため、企業の中長期の成長期待は低下してしまい、それが、設備投資の抑制や人件費の抑制をもたらしています。中長期の成長期待が低いもとでは、仮に人手不足が深刻化しても企業は賃金の引き上げ、特に正規社員の基本給引き上げに慎重になります。それは、固定費の増加から将来の収益を圧迫してしまうことにつながるからです。
こうした賃金の抑制は物価上昇を妨げるため、景気回復が長く続いてもインフレリスクが抑制されて、景気は過熱しにくくなります。また、そのもとでは、積極的な金融引き締め策がとられずに、比較的緩やかなペースでの息の長い景気回復が実現されやすくなります。

将来不安とポピュリズムの台頭

ところが、生産性上昇率が低下すると、人々は将来の生活が良くなっていくとの期待を持てなくなるのです。生活の水準を左右する重要な経済的要素は、購買力です。それは、名目の賃金を物価で割り引いた実質賃金で決まり、また、その実質賃金上昇率は、労働生産性上昇率で主に決まることになります。
実際、日本では労働生産性上昇率は低下傾向にありますが、そのもとでは、将来の生活水準が着実に改善を続けるという期待を、多くの人は持てなくなってしまいます。生産性上昇率の低下といった経済の弱さが、異例の長期景気回復の背景にあり、そのため多くの人は景気回復の実感がないと考えるのです。
ところで、このように、自身を取り巻く経済環境が厳しいと感じる際に、人は、「他者が自身の所得の取り分を不当に奪っている」と考えやすいものです。実際には、経済の潜在力が落ちていることが原因であるにもかかわらず、それが格差問題へと転嫁されやすくなるのです。この点に付け込んで、格差問題を実態以上に強調することで政治的な求心力を高めようとするポピュリズム(大衆迎合主義)政権、ポピュリズム政党が台頭するのです。各国で反グローバリズム、反国際協調、自国第一主義的な傾向が強まり、また国内政策では、バラマキ的な財政拡張策が進められているのには、こうした背景があります。
しかし、そのもとで進められた保護貿易主義的政策や財政拡張策などは、世界経済や金融市場の安定を損ねてしまう可能性があります。その一方で、経済の潜在力を高めるために真に必要な、構造改革が先送りされてしまいます。こうした誤った政策対応こそが、異例の長期景気回復が終止符を打つきっかけとなってしまう、最大のリスクではないでしょうか。

木内登英の近著

世界経済、最後の審判 破綻にどう備えるか

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金融緩和と政治が、債務とフィンテックで脆弱化したシステムの崩壊をもたらす。 元日銀審議委員が読み解く、世界経済の行方。

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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