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木内登英の経済の潮流――「ダイナミック・プライシングの潜在性」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2019/04/15

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AI技術を用いて、天候、イベント開催予定、個人の嗜好の変化などのビッグデータから消費者の需要を予測し、それに応じて価格を時々刻々、自動的に変更する「ダイナミック・プライシング」の利用が広がっています。

ダイナミック・プライシングで企業、消費者共に利益

アメリカのスポーツ界などから始まったこの変動価格制度は、日本のプロ野球、サッカー、テーマパークなどでも、次第にその利用が広がってきました。こうした分野の入場料は、モノの商品のように、売れ残りを在庫で抱えて後で売る、ということはできません。入場者不足は直接的に売上高の減少となり、企業収益を圧迫してしまいます。そこで、閑散期には値下げするような形で、AIが自動で価格を変動させるのです。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が、今年からダイナミック・プライシングを導入したことが話題となりました。閑散期の1月には、1日入場券(12歳以上の大人)を通常の7,900円から7,400円に値下げしましたが、中国の春節などで混み合う2月1日~3月22日には8,200円、春休み期間の3月23日~31日には8,700円に値上げするなど、時期によって異なる価格を設定しました。
企業は常に変動する消費者の需要についての情報を十分に持っていないため、誤った価格設定をしてしまいがちです。それは、過剰な在庫の発生や、逆に品不足の発生を生んでしまい、企業側、消費者側双方に不利益をもたらします。この点から、ダイナミック・プライシングとは、AI技術を活用してリアルタイムで需要曲線の変化を捕捉し価格を柔軟に変更することで、企業、消費者の双方に利益となる、まさにWin-Winの関係を作り出す枠組み、と理解することができるでしょう。

「一物多価」の可能性とは

一般に、個々の消費者の需要曲線を合計した総需要曲線と、個々の企業の供給曲線を合計した総供給曲線との交点で、一つの価格と商品の供給量が決まります。このようにして「一物一価」が成り立つと、自分がこの商品に支払っても良いと考えるよりも実際の価格が低く、割安と感じる消費者が出てきます。その消費者の効用は割安感の分だけ高まり、いわゆる「消費者余剰」が生じることになります。
以上では、企業が販売価格を時々刻々変化させる行動について見てきましたが、ある一時点で、企業が個々の消費者ごとに異なる価格を提供することも可能です。この場合には「一物一価」は成り立たず、「一物多価」のケースとなります。
何らかの手段を用いて企業が個々の消費者の嗜好、つまり需要曲線を把握することができれば、それぞれに異なる価格を提示することが可能となります。現在の価格より多く支払っても、その商品を得たいと考える消費者には、高い価格で商品を売ることになります。その結果、消費者余剰は縮小し、その分、企業はより大きな利益を上げることになるのです。

適切な規制のあり方の議論も

このように、企業が個々の消費者の嗜好を把握することは、果たして可能なのでしょうか。厳格には難しいとしても、ある程度は把握できるでしょう。それを可能にするのが各種ネットサービスです。
例えば、ネット閲覧・検索の履歴、SNSでの投稿の履歴などから、AIが商品に対する個人の嗜好を推測することができます。それに応じて、消費者が支払っても良いと考えるぎりぎりの価格を、ネットを通じて個々の消費者に提示するのです。例えば、消費者がある商品のサイトをしばしば閲覧していると、AIはその消費者がその商品の購入に強い関心を持っていると判断して、高めの価格を提示します。価格の提示はネット上で個々になされるため、他の消費者に提示された価格は知らされません。これは、まさに価格の個別化と言えるでしょう。
ネットサービスは、安価あるいは無料で提供されること等で、大きな消費者余剰を生んでいます。しかし、そのサービスを利用して以上のように価格の個別化が進められていけば、消費者余剰はその分縮小し、企業側に巨額の収益をもたらすことになります。
ダイナミック・プライシングが、消費者余剰を大幅に縮小させることなく、消費者、企業双方にとって大きな利益となるように運営されていくことが望まれます。そのためには、適切な規制のあり方を巡る議論も、遠くない将来、日本で始まるのではないでしょうか。

木内登英の近著

世界経済、最後の審判 破綻にどう備えるか

世界経済、最後の審判 破綻にどう備えるか

金融緩和と政治が、債務とフィンテックで脆弱化したシステムの崩壊をもたらす。 元日銀審議委員が読み解く、世界経済の行方。

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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