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中国の流通・小売業界の変化――「面の拡大」から「質の深耕」へ

NRI上海 劉 芳、ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 郷 裕

2019/05/29

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中国の流通・小売分野においては、百貨店やスーパーマーケットといった伝統的小売業よりも、バイドゥ、アリババ、テンセント(BAT)など大手オンライン事業者が、膨大な顧客データの蓄積や最新テクノロジーを活用して、さまざまなビジネスモデル開発を主導する動きが顕著でした。そして今、こうした流れに変化の兆しが見られます。中国の流通・小売業界の事情に詳しい野村総合研究所(NRI)の劉芳と郷裕に変化のポイントを聞きました。

中国の流通・小売業界の現状

これまで二桁の成長率を誇ってきた中国消費市場ですが、2018年に成長率が9%と一桁に低下しました。しかし、これは自動車の購入規制の影響が大きく、食品、化粧品、日用品などの分野は依然として二桁成長を維持しています。個人所得税減税や海外製品の関税引き下げなど、中国政府は消費市場の拡大策を次々と打ち出していることから、今後も成長は続くと見られます。

こうした中国消費市場において圧倒的な存在感を誇るのが、百貨店やスーパーマーケットといった伝統的な小売業ではなく、BATに代表される大手オンライン事業者です。これらの企業は、膨大な顧客データの蓄積や最新テクノロジーを活用して、流通・小売分野においてもさまざまなビジネスモデル開発を主導し、自分たちのビジネス領域を広げること(面の拡大)に注力してきました。
ただし、その結果、無人コンビニやシェア自転車といったビジネスモデルが未成熟のものも登場するようになり、こうした競争もやや頭打ちになってきています。

中国の流通・小売業界の変化の兆し

こうした状況の中、今後の中国の流通・小売業界を展望するうえで、NRIが注目している変化の兆しが3つあります。

【兆し1】企画・製造型小売・サービス業の台頭

中国商品といえば、これまで「価格の安さ」を消費者に訴求してきたというイメージが強いですが、中国消費者の商品の品質への要求は高まっています。そのため最近では、アパレル、雑貨、化粧品、飲料などさまざまな業種で、商品の素材やデザインなどにこだわり、価格以外の付加価値を追求して急成長する中国ブランドが台頭しています。

たとえば、木綿製品を製造・販売する「全綿時代」。もともと医療材料のOEMメーカーでしたが、収益性を高めるため、新開発の不織布の魅力を活かした自社ブランド商品の開発も始めました。当初は苦戦しましたが、中国最大のEC(電子商取引)サイト「天猫(Tモール)」での販売などに注力し、消費者ニーズが価格志向一辺倒から品質重視へと変化したこともあり、現在はEC、実店舗ともに販売実績は好調です。低価格ではないものの、品質が重視されるベビー用品の人気ブランドとなっています。

2017年に立ち上げられたドリンクショップ「HEYTEA(喜茶)」は、味の良さだけでなく、カラフルで写真映えする商品が特徴となっています。すでに中国全土に160店舗を展開していますが、どの店も1時間以上待つことが当たり前の人気店となっています。中国の若者の間では、「ドリンクを買って飲む」という行為だけでなく、お店に自分が並ぶ様子や商品の写真を撮ってSNSなどで共有することも、買い物プロセスの一部になっています。

【兆し2】ECサプライチェーンの横展開

中国の地方都市や農村部は、依然として中小小売店がメインの流通チャネルとなっています。しかも、商品がメーカーから消費者に渡る間に3つから4つの代理商が仲介する多段階構造になっているため流通コストがかさみ、地方都市では大都市よりも同じ商品の価格が高くなってしまうなどのデメリットがありました。

この課題を解決するために、EC企業が十数年かけて構築してきたサプライチェーンを、オフライン企業にも活用する動きが見られます。ECサイト「JD.com」を運営する京東商城 (JD)は、携帯アプリで発注するとJDの倉庫から店舗に直送される効率的な発注代行システムを、地方都市や農村部の店舗を中心に提供しています。 中国最大のEC企業であるアリババは、JDと同様の発注代行システムの拡大の他にも、酒類などの専門サプライチェーンを持つ企業に出資し、自社の持つデータ分析やデジタル技術を提供することで、サプライチェーンの強化を図っています。 アリババは、自前のサプライチェーンがJD.comほど強くありませんでしたので、他社への出資を通じてさらなるサプライチェーン強化を目指しています。

【兆し3】海外メーカーとの提携・M&A 

中国企業による海外投資やM&Aは、政府の「一帯一路」政策の下で継続的に拡大してきました。最近では、中国の粉ミルクメーカーがオーストラリアの健康食品大手企業を買収したり、中国の保険大手が日本の漢方薬メーカーのツムラに10%出資するなど、ヘルスケア領域における事例が増加しています。

中国企業がこうした投資する目的は、品質管理や製造技術などのノウハウの吸収・獲得と、海外有名ブランドの中国国内での販売権の獲得にあります。本物志向の消費者を獲得するには、サプライチェーンやメーカー機能が欠かせないことから、そうしたノウハウを持つ海外企業との資本提携や業務提携、M&Aなどが今後さらに加速するはずです。

「面の拡大」から「質の深耕」へ向かう中国の流通・小売業界

このような「兆し」を通じて今後の中国の流通・小売業界の動向を展望すると、「面の拡大」から「質の深耕」へ向かうというトレンドが顕著になるでしょう。これまでの大手オンライン事業者が進めてきた生態圏(小売、EC、サービス、金融など生活に関係する全ての事業を取り込む)の構築が一巡し、商品・サービスの質やサプライチェーンの質の強化に投資領域が拡大していくのではないかと見通しています。
中国の流通・小売業界はアリババ、テンセントを中心に消費者ビッグデータを蓄積してきました。この強みを生かして、今後ますますビジネスモデルの革新とサプライチェーンの強化が本格化していくことでしょう。そのためには、中国国内にとどまらず、海外企業との連携が欠かせません。
日本の流通・小売業界が培ってきたサプライチェーンのノウハウや、日本メーカーが培ってきた商品開発・製造のノウハウは、中国企業にとって魅力的なものです。今後、日中企業の戦略的提携やM&Aの機会が増えていくでしょう。

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