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木内登英の経済の潮流――「日本は景気後退に陥ったか?」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2019/06/17

国内景気が後退局面に入ったとの観測が浮上しています。さらに、景気後退入りが、消費増税、景気対策、追加金融緩和など各種政策対応に与える影響についても注目を集めています。

景気動向指数では「悪化」の判断

内閣府が5月に発表した3月分の景気動向指数で、一致指数(CI)の基調判断は、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」へと引き下げられました。「悪化」という判断が示されたのは、2013年1月以来6年2カ月ぶりのことで、国内景気が昨年末頃に景気後退局面に入った可能性を示唆しています。
ただし、この判断は機械的に下されるもので、月例経済報告で示される政府の公式の景気判断とは異なります。一致指数が「原則として3カ月月以上連続して、3カ月後方移動平均が下落」、「当月の前月差の符号がマイナス」の2つの条件を満たした場合に、「悪化」という基調判断が示されるルールとなっています。6月に発表された4月分の景気動向指数でも、「悪化」という基調判断が維持されました。
3月分の景気動向指数を受けても、6月の月例経済報告で政府は、「景気は緩やかに回復している」との基調判断を維持しています。さらに、2019 年1-3 月期の実質GDP(2次速報)は、前期比年率+2.2%と予想外に大幅なプラス成長となりました。これらを受けて、国内景気情勢については見方が交錯しています。

世界的な景気後退かどうかが重要

最終的な景気局面の判断、「景気基準日付」の設定は、内閣府経済社会総合研究所長が、景気動向指数の一致指数に採用された各系列から作られるヒストリカルDIに基づいて、景気動向指数研究会での議論を踏まえて決めます。それが決まるまでには、相当の時間を要するのです。
例えば、前回の景気の山である2012年3月が暫定的に設定されたのは、2013年8月とほぼ1年半後でした。そして確定は、2015年7月と3年以上後のことでした。このように、景気局面の判断には相当の時間を要するため、その判断が下された時点では、景気の状況は既に大きく変化しているのが通例です。
重要なのは、このように忘れた頃になって景気が後退局面に陥っていたと遡って判定されるか否かということではなく、実際に経済がどの程悪化するのかでしょう。2012年3月の景気の山から始まった前回の日本の景気後退局面では、世界経済全体は後退局面と認識されるほど悪化せず、国内でも不況感が強まりませんでした。こうしたタイプの景気後退は、経済的にはあまり重要ではないでしょう。国内景気は世界経済の影響を強く受けることから、世界規模での後退局面に陥ったか否かが決定的に重要となるのです。
現状では、世界経済が後退局面に向かっていることを示す、明確な証拠はありません。その場合、仮に日本が景気後退局面に入ったと後に判断されても、それは軽微で短期的なもので終わりやすいでしょう。
景気一致指数、景気先行指数(CI)の3カ月後方移動平均の前月差を見ると、1月が悪化のピークであり、2月以降は着実に改善してきています。国内景気情勢は加速的に悪化しているという状況ではなく、むしろ最悪期を過ぎた可能性が考えられます。

消費増税の影響は大きくない

しかし、貿易を巡る米中間の対立が一段と強まれば、それによって、来年にかけて世界経済が後退局面に陥る可能性はあります。また、低金利環境の長期化によって累積されてきた金融面での不均衡が調整局面を迎え、それが金融市場の混乱を通じて、世界経済を一気に後退局面へと陥れる可能性もあります。
日本では10月に消費増税の実施が予定されていますが、家計の実質所得に与える悪影響を相殺する2兆円規模の景気対策が実施されること等から、それが国内経済に与える打撃はそれほど大きくないと思われます。
しかし、国内経済は世界経済に強く影響され、しかも、景気の振幅はより大きくなるのが通例です。世界経済がひとたび後退局面入りすれば、国内経済はかなり悪化することは避けられないでしょう。
その場合、消費増税の先送り、景気対策の上積み、追加金融緩和など、国内での政策対応で景気の悪化を食い止めるのはかなり難しい、という点を理解しておく必要があると思います。

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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