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木内登英の経済の潮流――「世界の中央銀行はリブラとどう向き合うか」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2019/08/13

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フェイスブックが主導する新デジタル通貨・リブラ構想に対して、世界の金融当局者は一斉に警戒心を強めています。現在議論が進められているリブラの規制案がまとまるまでには、かなりの時間がかかりそうです。

リブラの規制は時間をかけて議論

フェイスブックのアプリの利用者数は現在約27億人と、世界の人口(2018年)の37%程度にまで達しています。彼らがこのアプリ上でリブラを利用し始めれば、現在流通している他の仮想通貨(暗号資産)とは桁違いに、支払い手段として世界に一気に広がる潜在力があります。そして、この点を世界の金融当局が強く警戒しているのです。リブラが金融システムを不安定にさせる、金融政策の有効性を低下させる、マネーロンダリング(資金洗浄)など犯罪に利用される、等のリスクが大きいことが強く懸念されているからです。
他方でフェイスブック側は、銀行口座を持たない新興国の低所得者なども、スマートフォンを使って低コストで送金などの金融サービスを利用できるようになる、というリブラの社会的な意義を強調しています。
民間企業が生み出す様々なイノベーションを積極的に金融業に取り入れていくことで利用者の利便性を高めていくことは、金融当局の重要な務めでもあります。こうした点に照らすと、世界の金融当局がリブラ構想を簡単に潰してしまうべきではないでしょうし、また実際にしないだろうと思います。
金融当局は、リブラのように支払い手段としてグローバルに広がる潜在力がある民間デジタル通貨全体への規制の体制を、この機会にじっくりと時間を掛けて整えることが重要でしょう。

デジタル通貨を安心して使える環境が重要に

実際に、リブラが発行され、支払い手段として広く使われるようになった場合には、金融当局にとって重要な役割となるのは、リブラの安全性を確保し、利用者が安心して利用できるような環境を整えることです。決済システムの安定維持は、中央銀行の重要な使命の一つなのです。
中央銀行が発行する現金や中銀デジタル通貨とは異なり、民間デジタル通貨の場合には、それを発行・運営する企業が破綻した場合、あるいは民間デジタル通貨と換金できる十分な準備金を保有していない場合、デジタル通貨の価値が実質的に低下し、最悪の場合には無価値になってしまう可能性もあります。そうした心配があると、人々はそのデジタル通貨を安心して使うことができなくなります。
こうした事態を避けるために、デジタル通貨の発行企業には、十分な資本を義務付け、また、準備金が大きく目減りしないように安全資産での運用を義務付けることが有効な規制策となるでしょう。
リブラの場合には、その発行・運営を担うリブラ協会がリブラを発行すると、それと同額分だけリブラ・リザーブ(準備金)が増える仕組みとなっています。リブラ・リザーブを構成するのは、主要通貨の銀行預金、短期国債等の安全資産です。ところが預金先の銀行が破綻したとすると、リザーブは目減りしてしまうという問題があります。

中銀当座預金の保有を認めることも選択肢に

デジタル通貨の安全性を高める措置として、デジタル通貨の発行企業が中央銀行に中銀当座預金を持たせることが、将来的には中央銀行にとって一つの選択肢になるのではないかと思います。中銀当座預金は最も安全な金融資産であることから、それでデジタル通貨の安全性、信頼性は高まります。さらに、デジタル通貨の発行企業が仮に経営不振に陥っても、銀行の救済と同様に、中央銀行は企業に流動性を供給、つまり中銀当座預金を増加させることで破綻を回避することができるのです。
それと引き換えに、中央銀行はデジタル通貨の発行企業の活動をしっかりと監視できます。あるいは、健全な経営を促す指導をすることも可能となるのです。
その場合には、リブラなどの民間デジタル通貨は、社会インフラとして当局のお墨付きをもらい、より公的なステータスを手に入れることになります。そうしたデジタル通貨は、純粋な民間デジタル通貨と中央銀行が発行する中銀デジタル通貨とのいわば中間形態と言えるでしょう。
アリペイ、ウィーチャットペイという大手プラットフォーマーが、中国では小口決済システムを既に席巻しています。その中国では、中央銀行(中国人民銀行)が、彼らに中銀当座預金を保有させているのです。リブラに対する規制を検討する際には、先行する中国の政策に学ぶ必要もあるでしょう。

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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