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NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

デジタルトランスフォーメーション時代において日本がとるべき進路は

社会システムコンサルティング部長 神尾 文彦
IT基盤技術戦略室長 城田 真琴
グローバル製造業コンサルティング部 グループマネージャー 松尾 未亜

#DX

2019/09/27

野村総合研究所(NRI)が開催する「未来創発フォーラム2019」では、「デジタルトランスフォーメーション時代において日本がとるべき進路は」をテーマに、パネルディスカッションが行われます。
パネリストは、地域戦略・社会インフラ、先端技術・先端ビジネス、製造業と、それぞれ異なる分野でデジタル化への変革の最前線に詳しい専門家3名です。
パネルディスカッションに先がけ、それぞれの分野で起きているデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状や課題、解決の方向性について聞きました。

多くの経営層が「知っている・聞いている・考えている」と反応する製造業のDX

日本企業におけるDXへの取り組みは高まりを見せていますが、製造業向けにコンサルティングを行う松尾未亜は、製造業におけるDXの現状について次のように話し、経営層に対して警鐘を鳴らします。

「日本の製造業は、現状のビジネスモデルを維持していくための戦略、投資は着々と行う一方で、自分たちの事業に対してディスラプティブ※1)な動きが出てくると、そのことを『知っている、聞いている、考えている』と言いながらも、具体的な対策を行わない経営層が少なくありません」

「例えば、現在のビジネスに対して起こりうるディスラプティブな変化について話をすると、若手・中堅社員はそれを自分事として捉え、『なぜそういうことを我々の会社はしないのか』と強い危機感を持ちます。しかし、重要な意思決定権を持つ50代以上の社員や経営層はそのことが自社にどのようなリスクなのか自分事として捉えられないのです。そのような経営層に対して問題提起し、逆に自社がディスラプティブなことを仕掛けるくらいの組織になるにはどうすればよいかといった意識改革を行う必要があります」

国・地方のデジタル化は国民の理解を得る努力が重要

都市・地域戦略、社会インフラ戦略等のプロジェクトに長く携わり、内閣官房の未来技術×地方創生検討委員会では委員も務めた神尾文彦は、「日本はデジタル化の目標を具体的に示し切れていない」と話します。

「総務省や経済産業省、内閣官房などでは、これからの国・地域づくりにおいて、IoT(モノのインターネット)やDXをいかに進めていくかといったテーマがあがっています。国がデジタル化に対する施策を推進することは必要ですが、国全体のシステムのデジタル化を推進していくためには、もっと明確な目的意識が必要だと感じています」

「デジタル化によって実現される国民の幸福とはどんなものか、国家の競争力はどれだけ高まるのかなどを、明確に示すことが重要です。今は、デジタル化が社会全体の生産性や人生の豊かさにどうつながるかが見えにくく、いわば『羅針盤なきデジタル化』のような状況とも言えるのではないでしょうか」

外圧によってDXへの危機感を高めつつある日本企業

先端技術・先端ビジネスの動向に詳しく、社会やビジネスへの影響を予測・分析する城田真琴は、「技術を横串として各業界を広く見ている」中で感じる動きを、次のように話します。

「いわゆる『GAFA』などのグローバルIT企業が、デジタル技術を使って何をしようとしているのかを追っています。日本の流通小売業界に対するアマゾンの影響は大きく、相当な危機感が生まれています。最近では『Amazon Go』というレジに並ばず商品を購入できる店舗が話題ですが、日本でも同じようなことを実施したいと考える企業が出てきています」

「ただし、Amazon Goが消費者のショッピング体験を大きく変えたように、単にアマゾンという競合に対抗するためにデジタル化に取り組むのではなく、徹底した顧客志向で考えた結果がデジタル化だった、となるのがベストではないでしょうか。デジタル化はあくまで手段であって、目的ではないからです」

デジタル化を推進していく力をいかに生み出すか

DXを進める際に課題となるのが、それを担う人材や体制です。

松尾は、「どの企業も、多かれ少なかれ悩みを抱えている」と話します。
「新しい組織を作って、DXに取り組んでいる企業もあれば、トップ自らがプロジェクトリーダーとなり、外部からディレクターを雇って内部の人の意識改革から始めている企業もあります。『DX対応がうまくいっている』という会社は、まだ少ないと思います」

城田も「大企業のこれまでのやり方に縛られていては、デジタル化はうまくいかない」と指摘します。
「日本企業でDXに対応できる高度な技術を持った人材が充実している会社は少ないので、外部から人を呼び込む方法が考えられます。さらに、大きな裁量権を与え、評価体制や給与体系を変えるといったこれまでとは違った進め方でないと、大きな変化は生まれません」

神尾は、地方のデジタル化推進において、「産・学・官・民をつなぐデータ蓄積が重要」と話します。
「人材といえば地域もリーダー人材が必要です。実際、首長自らが危機感を持ってデジタル化に取り組んでいる市町村もありますが、任期の問題等でトップが交代すると取り組み意欲が下がってしまうことも懸念されます。デジタル化が成功するためには、行政・学術界・産業界の中核人材が連携して、市民との間でいかに価値あるデータを構築・蓄積できるかにかかっています。このようなデータ基盤が形成される都市や地域には条件があります。フォーラムでは、先進的な事例を紹介できればと思っています」

求められるDXへの理解と柔軟な取組み姿勢 

松尾は、「日本の製造業は、お客様がその製品をどのように使っているかを把握していない場合がある」と指摘します。
「『お客様の使用状況のデータを次のビジネスにどう生かすか』といったDXの戦略的な発想も生まれてこない。これが日本の製造業で悩ましい企業の典型例です」

松尾は、次のように続けます。
「トップにデジタル化への危機感があるのなら、自らがプロジェクトオーナーとなって若手・中堅層と組んで物事を動かしていくことが重要です。プロジェクトマネジメントオフィスに他力をうまく使い、より適切な体制や進め方、社外パートナーシップなどに迅速に手を打ちながら、トップ自らオーナーシップをもって進めていくことが必要だと感じています」

城田は、「経営におけるITの位置づけを変えるべき」と提案します。
「多くの日本企業で、これまでITは『コスト』扱いでしたが、そろそろ『成長エンジン』という位置づけに変える時期に差しかかっているのではないでしょうか。具体的な事例は当日ご紹介したいと思いますが、AIやロボット、IoT、5Gなどのデジタル技術をうまく活用すれば、新たなサービスが生まれたり、従業員の生産性向上につながります」

神尾は、「技術変化に臨機応変に対応していく動きが重要」とまとめました。
「国がデジタル化の施策を一気に進めることには無理があるので、発想を逆転し、まずは危機意識の高い、やる気のある地域でプロトタイプを作り、それをつなげて地方から国を変えていく。技術の変化は速いので、臨機応変に取り入れ、積み重ねる。そんな失敗を恐れないスタンスが重要なのではないでしょうか」フォーラムでは、海外の先進的な取組みを紹介しつつ、信頼や危機感を共有しうるコンパクトな都市をベースとしたデジタル化の姿を提示したいと思っています。

パネルディスカッションのモデレーターを務める小谷真生子氏からのメッセージ

小谷真生子氏

2017年から「デジタルが拓く近未来」を3カ年連続テーマとして、「NRI未来創発フォーラム」に携わってきました。
今年はその集大成として、「社会・産業のデジタル化提言」を掲げています。
私がモデレーターを務めるパネルディスカッションでは、「公共政策」、「製造業等の経営戦略」、「先端技術、先端ビジネス動向」等を専門とするNRIさんの3人の専門家とともに、デジタルを活用してどんな未来を創りたいのか、という未来像をみなさんと共有したいと考えています。
3カ年シリーズの集大成にふさわしい内容で、当日がとても待ち遠しいです。

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    既存の価値基準を壊し、新しい市場や価値を生み出す革新
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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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