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「デジタル化は何のため?」という問い

研究理事 金融ITイノベーション事業本部 副本部長 小粥 泰樹

2019/10/17

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スマホアプリの開発や業務の自動化やビッグデータ解析など、デジタル化の話題が新聞紙上やネットをにぎわせている。しかし「デジタル化(Digitalization)とは何か」、あるいはもう少し正確には「デジタル化は何のためにやるのか」と問われた時にどのように答えるだろうか。「そんなもの競争力強化に決まっている、つまらない質問だ」と答える人もいるだろう。デジタル化はIT化そのものであり、既に何十年にわたって企業の競争力強化に貢献してきた、今さら取り立てて騒ぐ意味はないという思いがあるかもしれない。このような人には、「では何故、最近のデジタル化が競争力強化につながるのか」という質問をあらためて投げてみたい。
すると今度は、「その質問の答えはデジタル化の対象によって異なる」と答える人がいる。たとえば、小売業にとって、金融業にとってなど、領域を絞れば答えようもあるが、漠然と「デジタル化は何のため?」と問うのは愚かであるというわけである。ごもっともなのだが、それでもあえて同じ質問をしてみたい。業界とか領域によらない共通したデジタル化の意味を考えてみたいからである。

デジタル化の本質を考えると見えてくる「タイムリーさ」

「デジタル化は何のため?」に対する素直な回答としては、コスト削減のためとか、顧客経験(CX)の向上のため、業務品質を向上させるためといったところであろうか。ほかにもあるかもしれないが、これらは巷でデジタル化の目的として言及される代表的なものである。しかし、これらすべてが回答になり得るのだとしたら、そもそもこの問題は面白くも何ともない。デジタル化の本質に迫った気がしないからである。ここは、やはり「デジタル化の目的は○○である」か「デジタル化は○○によって競争力を強化することである」に入るたった一つの言葉を見つけたい。
そのようにつらつらと考えていたある日、米国人の知り合いと話をしていたときに、ふと「Digitalization is timeliness.」(デジタル化はタイムリーさを追求することである)というフレーズを耳にした。聴いた瞬間は何とも思わなかったのだが、思い返してみるとなかなか含蓄がある。コスト削減やCX向上や業務品質改善がデジタル化とどのような関係にあるかと考えたときに、その共通項として「タイムリーさ」が浮かび上がってくる気がするからである。
たとえばコスト削減に注目してみよう。自社サーバーをクラウドへ移行してIT基盤コストを削減するのはデジタル化の一つの動きである。クラウド移行が大きなコスト削減効果を生むケースもあるだろうが、その本質はコストの変動費化である。必要なときに必要なだけ消費した分のコストを支払うということであり、いかにもタイムリーという言葉が似合う。
では、CX向上はどうだろう。スマホ上のアプリを提供して顧客が24時間365日いつでもサービスにアクセスできるようにしたり、ビッグデータなどの解析結果に基づいて顧客ニーズを的確にサービスに反映させる動きが始まっている。どちらもタイムリーさの追求の好例である。
また、業務品質に関しては、RPA(Robotics Process Automation)を適用したというニュースを耳にする。伝票確認業務のように純粋に人件費削減効果が期待できるケースもあるが、本質的にはRPAは少量多品種の業務を自動化する手段として有効である。人手が介在していたことで分断していた二つの業務プロセスをつなぐということは、STP(Straight Through Processing)の実現を通じた業務品質改善にほかならない。その意味で、RPAもタイムリーさの追求の例であるといっても、それほど無理はないであろう。

デジタル化により起こる変化は個々の業務・施策に閉じたものではない

このようにコスト削減やCX向上や業務品質改善などがデジタル化の目標として掲げられていたとしても、その中身を少し掘り下げてみると、その実現においてタイムリーさの向上がカギになっているケースが多い。
「デジタル化はタイムリーさの追求である」というのは、あらためて思い直してみると、はじめから分かっていた当たり前の答えのようにも感じられる。しかし、このように明示的に表現してみることは、単なる言葉遊びのレベルを超えた効用があると思う。
一つに、デジタル化というものが個別の施策に閉じるものではなく、全社的な取り組みであると認識させてくれる。個々の業務プロセスがスピードアップし、顧客との接点がリアルタイム化していけば、それらを支える社内プロセスもスピードアップしなければならない。デジタル化を背景に、経営判断を支えるアナリティクスの高度化やITのアジャイル型開発移行の必要性が叫ばれるが、その理由がタイムリーさの追求という言葉を介して腹落ちしやすくなる。
また、デジタル化自体の重要性に対する認識も一段と深まる可能性がある。これからの激しい競争環境を乗り越えていく上で、他社との連携や提携が欠かせないことは誰もが納得するところであろう。このとき、タイムリーさを実現できるか否かはエコシステムのメンバーになれるか否かの篩(ふるい)の役目を果たす。同じ時間の流れを共有できない者は仲間外れにされることを意味するからである。

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