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日系企業が中国EC市場でさらにプレゼンスを高めるために求められるものとは

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 郷 裕
NRI上海 閔 海蘭

#DX

#中国

2019/11/27

中国EC市場は、日本の流通市場全体の規模を超えるほどに急成長を遂げています。多くの企業が熾烈な競争を繰り広げている中国EC市場で日系企業が戦うためには、どのような課題があるのか、そしてどう挑むべきか、中国EC市場に詳しい野村総合研究所(NRI)の郷裕と、NRI上海の閔海蘭に聞きました。

中国のEC市場は世界で最も大規模で成長力のある市場に変貌している

中国のBtoCの電子商取引(EC)市場は、2018年には1.5兆ドルを超え、世界最大のEC市場となりました。日本の小売市場全体の規模が140兆円程度のため、中国EC市場は日本の小売市場全体を超える規模にまで成長してきています。

中国のEC市場が急成長を始めたのは、2010年以降、消費者の利用する端末がPCからモバイルへと転換を迎えたタイミングです。その後、アリババやテンセント、京東(JD.COM)が登場し急拡大を続けてきました。
中国の小売業界全体のランキングで見ても、2018年には、T-Mallが第1位、JD.COMが第2位、拼多多(ピンドウドウ)が第3位と上位をECが占めました。いまや、中国流通・小売市場を牽引するEC市場でどう戦うのかは、多くの日系企業が直面している課題です。

アリババグループのTMICと共同で中国EC市場を調査

NRI上海では、アリババグループのTMIC(Tmall Innovation Center)と連携して中国EC市場の調査を行い、そのレポートを「中国EC市場白書2019」としてまとめました。TMICは、アリババグループの顧客企業に対して、新商品の企画推進に役立つ消費者データと市場分析データを提供しており、Tmallと淘宝を含めた約6億人のユーザーデータを保有しています。
今回の分析レポートは、日系商品が人気を得ている15のカテゴリーを選択し、日系、韓国系、欧米系と中国本土圏の商品を対象としています。ここでいう日系とは日本のブランドを意味し、必ずしも日本産の商品ではありません。データの収集期間は2018年の6月から2019年の6月で、販売量、消費者のプロファイリング、消費力分布の3つの観点から分析をしています。

中国におけるEC最大のプロモーション日である11月11日の「独身の日」には、日系商品の人気はとても高く、輸入品の中では3年連続でランキング1位を占めています。しかし、中国EC市場全体から見るとシェアは販売金額ベースで3.2%、数量ベースでは1.6%に留まっています。

欧米系商品や中国現地系商品の伸びに押される日系商品

日系商品でプレゼンスが高いのは、ベビー関連用品、化粧品、パーソナルケア商品など、安心安全を訴求できるカテゴリーが目立ちます。ですが、他企業の攻勢にさらされ、市場を拡大できていない側面もあります。
化粧品では、中国系商品も品質が高くなり、かつ、インターネット上のインフルエンサーを利用して積極的にプロモーションを行うことで高いシェアと販売増加率を見せています。欧米系の化粧品も低価格戦略をとった結果、日系・韓国系商品の利用者がブランドイメージの高い欧米系化粧品に移る傾向もあります。
中国でのECメイン消費者は、デジタル第2世代と呼ばれる10代後半〜20代前半と、デジタル世代でと呼ばれる20代後半〜30代前半です。デジタル第2世代のメインの購入商品は化粧品で、その数量は韓国系商品の70%以上を占めていることが特徴的です。
デジタル世代では、子供がいる消費者が多いため、ベビー関連用品の比率が高まります。安心安全でデザイン性に優れている日系のベビー用品も評価されていますが、幼児用食品の50%近くを欧米系商品が占めるなど、他国企業の製品に押され、シェアを拡大できていないことがわかります。

デジタル第2世代を含むデジタル世代の取り込みに向けた挑戦を

日系商品を支えている購買層は30代以上で購買力の高い層であり、他国系商品と比較しても良質な購買層を獲得しています。ここから考えれば、品質面で優位に立つ日系商品の販売は、当面拡大を続けることが期待できます。
その一方で、今後の成長の鍵を握るのは、中国消費を支えるデジタル世代、デジタル第2世代です。この層は、まだ学生であるため消費力は低い一方で、消費意欲が旺盛です。アリババのデータによればデジタル世代、デジタル第2世代は人口の約1/3を占めていますが、その世代がECの売り上げの2/3を占めています。中長期的な視点で見れば、デジタル第2世代を含むデジタル世代を次の顧客層として取り込むことが求められます。
中国のデジタル世代の消費価値観として、「消費昇級と消費降級の共存」を挙げることができます。消費昇級とは、品質が高く自分に合った商品を買い、ゆったりとした生活をしたいという消費価値観で、消費降級は、収入に限りがあるためにコストパフォーマンスを重視して節約したいという消費価値観です。個人の中に消費昇給、消費降級が共存していて、中国のデジタル世代は両方の価値観によって商品・サービスを選択しています。
今後、日系企業が中国EC市場でさらにプレゼンスを高めるためには、デジタル世代に向き合ったビジネスモデルに転換する必要があり、その成否が今後の成長の鍵を握ると言えます。具体的には、ビッグデータの活用による、迅速かつ頻繁な消費者インサイトの理解、中国現地における商品企画機能の強化と現地主導開発、デザインやコンテンツなどのコア機能を自社で保有し、SNS等を活用した機動的なデジタルマーケティングなどに注力する必要があるでしょう。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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