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仮想現実(VR)の活用によるストレスの軽減――仮想空間体験がもたらすリラクゼーションと活力の向上

IT基盤事業推進部 濱辺 徹

2020/02/06

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近年、働く人たちのストレス増加が社会問題となっています。そのような中、2015年には企業に対してストレスチェック制度が義務づけられました。そのため企業でも社員のリラクゼーションを促すさまざまな取り組みが行われています。野村総合研究所(NRI)では、仮想現実(VR)で創り出した映像と音を体感してもらうことでストレスの軽減を図る研究を進めています。VR技術の研究に長年携わってきた濱辺徹に、VRの活用とリラクゼーションについて話を聞きました。

仮想のリラクゼーション空間を体験

VR専用ゴーグルを装着してしばらくすると、目の前に白い建物が現れます。その入口を入ると、そこはゆったりとした空間が広がる半円形の室内。カーブのかかった白い壁には、鮮やかな西洋絵画がいくつも飾られています。いつしか心地よい音楽が流れてきました。部屋の左端に目をやると、いつの間にか目の前に絵画があります。じっくり眺めてから横に展示された別の作品に目を移します。ほかに人は誰もいません。自分のペースでゆっくりと鑑賞できます。だんだんと絵を見ることに気持ちが集中していきます――。
これは、VRで創り出された「NRI仮想美術館」を視聴したときの様子です。「見ている」というより、現実的な夢の中に浸っている感覚になります。
この空間を設計したのがNRIの濱辺徹です。VR技術や仮想環境の表現について、30年以上にわたり研究を続けている専門家で、2019年の春から、働く人たちへリラクゼーションを促すことを目的にVRを活用する研究を進めています。


VRで体験できる画像イメージと、VR体験中の様子

誰もがいつでも利用できるVR

なぜこうした空間をVRで表現したのか。濱辺は次のように話します。
「最近は、会社で働く人たちの過度なストレスが問題になっており、多くの企業では社員のストレス軽減に向けた取り組みを続けています。NRIでも、ストレス解消のためのセミナーなどを行っていますし、マッサージルームや「パワーナップルーム」、体操教室などもあります。けれど残念ながら、社員の誰もが気軽に定期的に利用できるものではありません。また、こうした取り組みがどの程度ストレス軽減に効果を上げているのかまだ検証できていません。
そこで考えたのがVRの活用です。ARやVR関連技術の進歩と5Gの実用化等で、美術品や自然環境のようなリアル感を求めるコンテンツでも違和感なく表現できるようになってきました。また、VRなら専用のゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ=HMD)を装着するだけで、場所を選ばず、誰もが気軽に利用できます。同時に、こうした空間を体験することによるリラクゼーション効果の測定・検証をしようと考えたのです」

高いリラックス効果をもたらす自然の景観

濱辺は冒頭で紹介した「①NRI仮想美術館」のほかにも、3つの仮想空間をVRで用意しました。ひとつは「②自然環境」で、緑豊かな森林の中を歩くことができるものです。また、現実の美術館内を再現した「③横浜美術館」では、淺井裕介氏(アーティスト)が巨大な壁画を施した展示空間(展示作品は全て横浜美術館コレクション)を体験できます。さらに徳島県鳴門市にある「④大塚国際美術館」のVRでは、礼拝堂の壁に描かれた宗教画や印象派の絵画などを鑑賞できます。研究では、これら4つの映像と、その中で流れる音による刺激が、精神の安らぎや活性化にどのように影響するかを調べています。
20~40代のNRI社員の男女およそ20人を対象に行った実験では、被験者は5週間にわたって週に1度、映像を1つ、ランダムに視聴しました。このとき、自律神経測定器などを用いて視聴前後の心理状態の変化を測定し、それぞれの仮想空間がリラクゼーションにどのような効果をもたらしているかを調べました。
「大前提として、自律神経は『アクティブ度(活性度)』と『リラックス度(安定度)』のバランスが保たれている状態が理想です」

実験においては、次のような結果が得られました。
「①NRI仮想美術館」では「集中して活力が上昇しつつも、リラックスしている傾向であった」
「②自然環境」では「ゆったりとリラックスしているが、内部集中は無気力な状態を誘発し、活力が低下している」
「③横浜美術館」では「集中して活力が上がっているが、緊張感が発生しリラックスの度合いは下がっている」
「④大塚国際美術館」では「集中しているがリラックスしていて、活力が上がっている」
この結果について濱辺は、「自然の景観は高いリラックス効果が得られると受け止めています」と話します。なお、③でリラックスの度合いが下がっているのは「絵を鑑賞しようとする意識が働いてしまったからだろう」と推察しています。

将来は、仮想美術館で感性を磨くことも

濱辺はもともと、VR技術を活用したがん患者のメンタルケアに関わっていました。
「バーチャル世界に入って会話をするだけでも免疫力が上がることを、研究を通じて実感していました。その研究の延長で、VRをリラクゼーションに活かせたらと思ったのです」 VR活用にこだわる理由として、濱辺は次のように話します。
「音楽だけ、あるいは映像だけの視聴だと、視聴者それぞれが別のイメージを想像してしまいます。密閉された状態で、リラクゼーション効果の高い映像が作り出す奥行ある空間と音とを一緒に体感すると、感覚はより鮮明になるのです」

研究がひと段落し、効果の裏付けが取れたら、「VRリラクゼーションシステム」としてNRI社員全員が利用できるようになる予定です。2020年の後半にはNRIの各拠点に設置して利用開始することを目指しています。
「今回の研究ではリラクゼーションだけでなく、アートによって感性を磨くこと、意識の活性化を図って創造性を高めることも狙っています。それで美術館の室内空間を取り入れた映像も表現したのです。研究を続けることで、いずれはその分野でもVRを活用できたらよいと思っています」
人気の美術館や企画展はいつ行っても混んでいて、ゆっくり鑑賞できないことが多いもの。いつでも自分のペースで楽しめる、VRを使った美術館鑑賞サービスが将来生まれることも期待できそうです。


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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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