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クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

デジタル化推進リーダーの育成――デジタル・リテラシーの高い会社をつくる

ITマネジメントコンサルティング部 グループマネージャー 中澤 貴史

#DX

#経営

2020/04/02

近年、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が注目されていますが、多くの企業において、DXはIT部門やデジタル推進室といった「特定の部門」に任せきりになり、他部門の人は自分に関係がないと思っている状況です。しかし、DXを成功させるには、経営層からビジネス部門も含めた現場担当者まで個々人がリテラシーを高め、積極的に業務にデジタル技術を採用し活用できる状態にすることが大切だと、野村総合研究所(NRI)の中澤貴史は考えています。ITマネジメントのコンサルティングに長年携わってきた中澤に話をききました。

デジタル人材は質・量ともに不足

――DXを推進する際に、多くの企業が直面する問題は何でしょうか。

多くの企業から、「デジタル人材が十分にいない」という悩みを聞きます。これはNRIが実施したアンケート「IT活用実態調査」の結果にも顕著に表れています。ただ個人的には、デジタル云々以前に、IT人材が質・量ともに不足していることが大きな問題だと考えています。2000年代初頭にERP(統合基幹業務システム)の導入などで日本企業のIT投資が盛り上がりましたが、その後は十分なIT投資が行われてきませんでした。IT人材の仕事も大規模システムの保守運用が中心になり、プロジェクト管理やシステムの要件定義の能力を持つ人材があまり育ちませんでした。

この点について、経済産業省も「2025年の崖」として警鐘を鳴らしています。システムがトラブルを起こしても対処できない、従前のシステムを刷新したくても業務の中身やロジックをわかっている人がいない、という状況に陥る企業が続出する懸念があるというのです。このようにIT組織が弱体化する中で、AI(人工知能)だ、DXだと言われても、とても対応できないのが現状だと思います。

デジタル化には経営層の覚悟が必要

――IT分野の技術進歩が堅調な中で、なぜIT関連の投資が後手に回ってきたのでしょうか。

一通りシステムを導入し既存ビジネスが順調に推移する中で、あと数年で引退する経営者や役員クラスの人は「今のタイミングで、本当にデジタル化に力を入れる必要があるのか」と投資に二の足を踏む傾向があります。また、DXを進めるとしても、IT部門やデジタル部門などに丸投げしがちです。しかし、本来はトップ層もデジタル化について理解を深める必要があります。デジタル人材を企業の中に取り込み、デジタル技術を使いこなすことを企業の競争力として組み込まなければ、トランスフォーメーションとは言えないと思うのです。

経営の覚悟として、デジタル化を本格的に進めると決めて旗を振っている企業はそれほど多くありません。NRIの「IT活用実態調査」を見ると、CDO(最高デジタル責任者)など専任のデジタル役員を置く企業は5%程度、他の役職と兼務するケースでも1割程度です。デジタル技術を普段から使えば自分の仕事がもっと楽になるという考え方に変えていくためにも、ビジネス側の人材のデジタル・リテラシーを高め、デジタル化推進役をもっと増やす必要があります。

「理解・動機づけ」「体験」「実践」でリテラシーを高める

――デジタル・リテラシーを高めるために、どのような取り組みができるでしょうか。

私たちがクライアント企業と一緒に行うのは、将来的に会社を担っていく35~45歳の層を対象に、デジタル活用に関する感度を上げる「理解・動機づけ」、実際にデジタル技術に触ってみる「体験」、自分のビジネスに適用できるよう試行錯誤する「実践」という3段階のアプローチです。

最初の「理解・動機づけ」では、座学のプログラムを中心に、デジタル化が世の中に与えるインパクトを知ってもらい、デジタル技術を活用した社内変革の必要性に気づいてもらいます。次に「先進技術体感ワークショップ(DiMiX)」で、VR(仮想現実)グラス、AIプログラムなど多様な最先端のデジタルツールを用意して、実際に触ってもらいます。知識として知るだけでなく、自分で実際に使ってみて、どのような便利さ、不便さがあるのか実感することで、日々の業務への適用や顧客への提案を、より具体的に考えることができます。

その後、面白い体験だったというだけで終わらせず、実践に結び付けるために、こうしたデジタルツールをどういう場面や業務で使えるかを考えます。私たちのセッションはデジタルラボなど特別な体験場所で行うのではなく、お客さまの現場にツール類を持ち込む形をとっているので、その場で試すこともできます。そこからアイデア出しや技術検証へとつなげられれば理想的です。

デジタル化が自社の価値提供にどう関係するかを見きわめる

――最後に、IT人材やデジタル人材の問題を抱える企業にアドバイスをお願いします。

自動車を例にとると、自社が提供するのは車というハードウエアだとの考え方なら、必要とされるのはそのための技術者です。しかし、自社が提供する価値をMaas(Mobility as a Service)で車も含めた移動サービスだと位置づけるならば、その価値づくりにはサービスを形成するソフトウエアがこれまで以上に重要になります。そして自社の価値づくりにITやデジタル技術が必須だと思うなら、それができる人材を外部から採用する、内部で育成する、もしくはそうした能力を持つパートナーとがっちり手を組む、といった何らかの投資が求められます。人材を育成する場合は5~10年の時間を要するので、今、このタイミングで、今後の価値提供には従来のやり方でいいのか、変えるべきなのかをしっかりと考えることが大切だと思います。


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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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